第20話 1つ目クリアと2つ目に向けて

私の視界の先には、5頭のホーンウルフが大きな鹿を食らっていた。


幸いなことに、ホーンウルフたちが暗がりに潜んでいる私に気がついている様子はない。


「先に攻撃したいですわね」


私はホーンウルフたちの群れに向けて手をかざす。うう、魔物を狩るのは久しぶりだからか緊張しますわ。


「アイス・グレネード」


氷のつぶてが私の手のひらから射出され、ホーンウルフの群れに降りかかる。


「キャウ!」


「キャウン!」


5頭のうち、2頭が行動不能になる。残りの3頭もある程度の傷を負ったらしく、顔をしかめている。


私はあえてホーンウルフの前に姿を現す。


「「「ガルルル……」」」


自分たちの仲間を死に追いやった元凶を見た彼らはうなり声をあげて私を警戒、そして私を三方から囲い込む。


更にホーンウルフたちは顔を下げ、頭に生やした鋭い角をこちらに向けた。


 数瞬の間硬直状態が続いた後、ホーンウルフたちは私に襲いかかってくる。


「アイスウォール!!!」


 私は3頭のうち2頭の攻撃を氷の壁で防ぐと、残りの1頭の凶悪な頭突きをかわし、すれ違いざまにレイピアで切りつける。


「ギャウン!」


 氷の壁に阻まれた2頭はいまだに体勢を立て直せていない。私はレイピアで傷つけた個体にとどめを刺す。


 残りの2頭に目を向けると、彼らは私から距離を取っている。嫌な予感がした私は自分のいる場所を離れて飛び上がった。


刹那、私のいた足元に強い風が巻き起こる。


「風魔法を使えますのね」


 宙を舞っているため、思うように横移動のできなくなった私に向かってホーンウルフたちは駆け足で近寄っていく。この状況を狙っていたのでしょう。


私は先におどりかかってきたホーンウルフの角を体をひねることでかわす。そして、もう1頭のホーンウルフの角は右足の靴で防ぐ。


私の靴底にはオリハルコンの板が入っているため、ホーンウルフの角程度ではびくともしない。


 しかし、ホーンウルフの突進によって私は横方向に吹き飛ばされ、地面に打ち付けられる。


「ぐぅっ」


 身体が多少の衝撃を受けるものの、特殊な素材で作られたバトルドレスを着込んでいるため、あまりダメージはない。


けれど、地面に打ち付けられた私を見たホーンウルフたちはこれ幸いと、私に再び角を向ける。


「ウインドカッター!」


 油断したホーンウルフたちに向けて私は風魔法をおみまいする。風の刃はホーンウルフたちののど元に深々と突き刺さった。



 ◆◆◆◆◆◆



私は倒したホーンウルフを専用のナイフで解体していく。確か、ホーンウルフは鋭い角と毛皮、魔石がそれなりに売れるはず。


安価とはいえ、牙も売れるので回収したいですわね。テューバ家にいた頃も魔物を倒したことはあるものの、解体するのは初めての経験でしてよ。


テューバ家にいた頃は屋敷の人間が代わりに解体してくれていたから。けれど、ここ2週間の間に私はリオンさんから解体の仕方をしっかりと学んでいる。


「ふぅ。意外となんとかなりましたわ」


全てのホーンウルフを解体した私は穴を掘る。そして残ったホーンウルフの亡骸を土の中に埋めていく。


血の匂いにつられた魔物が掘り返すかもしれないけれど、ここは人里離れた山の中。特に問題はないはず。


「これで1つ目の試練はクリアですわね」


次はリーフリザードの捕獲をしなければ。リーフリザードってどんな魔物だったのか、思い出せませんわね。


聞いたことはあるのですけれど。私は魔法の袋から魔物図鑑を取りだす。


「ええと、リの章はこの辺ですのね……。ありましたわ」


ふむふむ。リーフリザードはその名の通り、葉っぱの形に擬態しているトカゲの魔物なのですわね。


魔物といっても小柄で体長は成人男性の手のひら程しかない。これは普通に探していてはいつまで経っても見つからない気がしますわ。


この山に生えている木々の葉っぱを1枚1枚リーフリザードなのかどうかを確認するわけにはいきませんわね。


そう言えば、リオンさんに教えてもらった魔法がありましたわ。


「魔力感知」


視界が薄暗くなり、森の中の数箇所が淡く輝きだす。この魔法は魔力のある存在を浮かび上がらせることのできる魔法だ。


私は魔法の袋から虫取り網を取りだすと、淡く輝いている小さななにかに向けて網を振りおろす。


小さななにかは網の中で暴れだす。私は虫取り網を片手で持つと、空いた手で網にかかった小さなものを掴む。


私が捕まえたのは小さなちょうちょだった。魔力を持っているということは、おそらく魔物なのでしょう。


「でも、リーフリザードではありませんわね」


私はちょうちょを籠の中にしまう。もしかしたら価値のある魔物かもしれませんわ。


「魔力感知の反応も色々なところにありますわね。これではリーフリザードが見つかりません。もっと情報が欲しいですわ」


私は再び図鑑を手に取る。


ええっと、リーフリザードは山などの頂上付近に生息している木々の葉っぱに擬態している……と。


今いる場所は山の中腹ですし、これから山登りをする必要がありますわね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る