第18話 物覚えの良い弟子
「俺がお前を弟子に?」
「そうですわ。リオンさんは私の家庭教師をしていた時に魔法の素質があるとおっしゃっていましたよね?」
「あそこまで多様な魔法を使える者は珍しいからな。それに、戦闘のセンスもあるとは思う。貴族の戦いは基本的に華麗さを重視する者が多いが、お前の戦い方はかなり実践的だな」
「なら、私も冒険者として働きたいですわ。そのために、リオンさんの弟子にしていただけませんこと?」
「言ってなかったか。俺は冒険者といっても元祓魔師だ。そこらの冒険者とは扱うものが違う。確かにあんたは戦闘の才能がある。けれど、悪魔や悪霊の中には通常の物理攻撃や魔法が効かないものも多い。俺の弟子になるのならそういった存在に対抗する手段を持たなければならない」
「それなら、これから祓魔師が使っている魔法や武器の使い方を覚えていきますわ。ですから、弟子にしてくださいまし」
「どうして俺の弟子になろうとするんだ? 1人でも冒険者になれるだろう?」
「理由は2つありますの。1つ目の理由としては、私は平民社会のことを知らないからですわ。だから、きっと1人で冒険者になったらトラブルを起こしてしまうと思いますの」
なるほど。確かに、没落した貴族などが平民社会になじむのは大変だときく。
「それで2つ目は?」
「2つ目は、単純に1人で冒険者になるのが怖いからですわ。失礼かもしれませんが、冒険者には良いイメージがないですわね。その、私のような女が冒険者になると、男の人が寄ってくると言いますし」
冒険者というのは社会からのはみ出し者が多いからな。
次男三男のために実家を継げなかった下級貴族や商人の子供、犯罪を起こして故郷に帰れなくなった者、身分が低いため、高給の職に就けなかった者などが多い。
女冒険者が男性の冒険者によって乱暴されることも多いと聞く。
確かにリーゼロッテが俺の弟子として同じパーティーに所属しているとなれば、男の冒険者も手を出しにくいだろう。
「どうして俺の弟子になりたいのか分かったよ。まあ良いぞ。弟子にしてあげよう」
「感謝しますわ。正直、断られると思っていました」
「俺は弟子をとるような人間じゃないんだが、あんたの才能が無駄になるのはもったいないと思ってな。それに、異世界の文化や技術には一応興味があるから、できれば教えてくれ」
「分かりましたわ。ところで、さっきからお前とか
「分かったよ、リーゼロッテ。これで良いか?」
「リゼで良いですわよ。ある程度親しい人たちにはそう呼ばれていましたの」
「俺は別にリゼと親しくなった覚えはないけどな」
「な、私だって別にリオンさんと親しい間柄になったなんて思っていませんわ。ただ、師匠と弟子の関係なのに略称で呼ばれないのは不自然だと思って提案しただけですの」
リーゼロッテは立ち上がると、顔を横に向けて怒りだす。
「まあ、なんだ。そんなのでいちいち怒っていたら身が持たないぞ。俺は他人を怒らせることには定評があるからな」
「……なんだか、リオンさんがどんな人となりなのかがだんだん分かってきましたわ」
◆◆◆◆◆◆
2週間後、俺とリーゼロッテは帝都近くにある山中を歩いていた。うっそうとした木々が生い茂っており、視界はとても悪い。
「どうしてこんな不気味な場所に来ましたの?」
リーゼロッテが首を傾げる。
「今日は実践を兼ねた試験を行おうと思ってな。合格したら俺と一緒に依頼を受けることを許可しよう」
「本当ですの? 頑張りますわ。ふふ、ついに冒険者として活動できますのね」
「あくまで俺が合格だとみなしたら、の話だけどな」
「そんなことは言われなくても分かってますわ」
俺はここ2週間、ずっとリーゼロッテに祓魔師や冒険者として活動するために必要な訓練をほどこしてきた。
本当は試験を行なうのはもっと先にする予定だったが、リーゼロッテの飲み込みが想像以上に早かったので今日行なう。
もしかしたら、リーゼロッテには物事の習得が他人よりも何倍も早いという能力が備わっているのかもしれない。
昔異世界から来たという勇者一行も難度の高い魔法を短期間で習得したそうだし。
「それで、試験とはいったいどんなことをすれば良いんですの?」
「これから、俺が3つの試練を言う。それを全てクリアしたら試験に合格したとみなそう。1つ目はホーンウルフ5頭の討伐、2つ目がリーフリザードという小型の魔物の捕獲。3つ目が――」
「3つ目は?」
「この山中に隠れている俺を見つけること」
「は?」
俺はリーゼロッテの前から、幽霊のようにすーっと姿を消した。
◆◆◆◆◆◆
「消えた? もしかして、いつの間にか幻覚で私の目をごまかしていたんですの!?」
リーゼロッテは不安そうに周囲を見渡している。
「まったく、俺が幻覚魔法を使っていたことに気づけないとは。まだまだだな」
俺は潜伏先からリーゼロッテの様子をうかがう。自分の目で直接リーゼロッテを見ているわけではない。
山中には複数の眷属を配置しているため、彼らの目を通してリーゼロッテを見ている。
テューバ家で俺が部屋の外から彼女を監視していたのと同じ要領だ。
凶悪な魔物がリーゼロッテの前に現れるなど、不測の事態が起きたときには即座に対応することができる。
「周りを見渡しても、いませんわね……。もうすでに試験は始まっているということに違いありませんわ。頑張りますわよ」
リーゼロッテは意を決して山中を歩き始める。
「まずはホーンウルフ5頭の討伐ですわね。ええと、こういう時は」
彼女は魔法の袋からメモ帳を取りだすと、パラパラめくる。
「そうでしたわ。魔物はやみくもに探しても見つかりませんもの。ホーンウルフのような動物系統の魔物は川沿いに出現することが多いのですわね。それなら、まずは川を見つけないと」
そう言いながら、今度は袋からこの山の地形が書かれた地図を取りだす。
「ええと、おそらく私が今いるのはこの位置ですわね。そして川がこの位置だとすると……。このまま山中を歩いていたら、方向感覚が分からなくなって道に迷いますわ。どうしたら良いんですの……」
ふむ。そう言えば、リーゼロッテにはまだ森の中で方角を把握する魔法を教えていなかったな。
基本的には俺と行動を共にしてもらうつもりだったし、2週間という限られた期間ではそこまで教えられなかった。
仕方ない。助け舟をだしてやるか。
「ゴーレム起動」
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