第15話 テューバ家勢揃い

「ぜぇぜぇ。やっと倒せましたわ」


「おめでとうございます」


俺は拍手をする。


「さきほどゴーレムの動きが突然変わったのですが。あれはマックスさんの仕業ですわね?」


「ばれましたか。このまま勝負がついてしまうのもどうかと思いまして」


「そんなことだろうと思いましたわ。まあでも、ゴーレムとの戦闘は楽しかったですわね。貴重な体験ですし」


「満足頂けたようなら良かったです。喉が乾いたでしょう? これをどうぞ」


俺は魔法の袋から果実水の入った水筒を取りだす。


「あら、ありがとうございます」


リーゼロッテは手渡された水筒のフタを外すと、喉をうるおすために果実水を一気に飲み干す。


「この果実水、とても美味しいですわね。もしかして複数の果実が混ざっているのでしょうか?」


「そうです。ぶどう、桃、リンゴ、ナシ、メロンなどの果実をすり潰して作ったものですね」


「中々贅沢な事をしておりますのね。マックスさんてもしや高貴な家の出身ですの?」


「……一応、父親は貴族ですね。なぜそのように思われたのです?」


「いえ、両親が私の家庭教師をあまり家柄の良くないものに任せるとは思えませんわ。それに、マックス先生は魔法以外にも様々なことに明るいですし」


「その、私は貴族の父親と愛人との間に産まれた人間なんですよ。一応、それなりの教育は受けていましたけども、正確には貴族ではないです」


いわゆる私生児とか庶子とか落胤と呼ばれるような存在だ。


貴族の子供であるため、平民からは特権階級側の人間と思われているが、貴族側からは貴族のなり損ないと見なされる場合も多い。


俺はそう言った微妙な立ち位置にいる。ただ、1級祓魔師になってからはそこらの貴族にも負けないだけの特権は持っていたけどな。


「あら、それは知りませんでしたわ。なんだかごめんなさい」


「いえ、別に大丈夫ですよ。自分の家庭教師がどんな身分の人間なのか気になるのは当然のことです。それより――」


「リーゼロッテ、戻りましたわ!」


「元気にしてるかい?」


今日はこのくらいにして、この後は座学でもしましょうと言おうとした刹那、俺の声は別の2人が発した声によってかき消された。


「マリアお姉様にジョニーお兄様!? お帰りなさいませ!」


俺たちの前に現れたのは赤く長いロングの髪を巻いている女と金髪碧眼の細身な男だ。


2人とも貴族風の格好をしており、リーゼロッテに顔つきが少し似ている。


リーゼロッテがお姉様お兄様と呼んでいるという事は、2人はおそらく彼女の兄妹なのだろう。


「ええ、ただいま。あなたの事が気になって社交界を早めに切り上げてきたわ」


「まあ、馬から落ちた件のことを心配されているのなら大丈夫ですわ。今はすっかり元気ですもの」


マリアと呼ばれていた令嬢は俺の方を見る。


「あなたがリーゼロッテの家庭教師をする事になったリオンですのね」


「リオン? 何を言っていますの? 彼の名前はマックスですわよ」


「おいマリア!」


ジョニーが肩ひじでマリアをつつく。


「あ、そうでしたわ」


おそらく、俺が今はマックス・ブルボーという偽名を使っている事を失念していたのだろう。2人もテューバ公爵から俺の事を聞いているはずだからな。


「えっ? なに? どういう事ですの?」


リーゼロッテは俺とマリアを交互に見る。


「まあ、大丈夫ですよ。もう少しだけ証拠を集めたいと思っていましたが。皆さんはテューバ公爵夫妻を広間に連れてきてくれませんか? もちろん、皆さんも一緒に居てください。私は少し準備をしてきます」



◆◆◆◆◆◆



「それでは皆さん、お集まり頂きありがとうございます」


俺はテューバ邸の広間を見渡す。広間のソファにはテューバ公爵夫妻とリーゼロッテ、そしてマリアとジョニーがいる。


つまり、家族全員が揃っているというわけだ。


「えー、まず、リーゼロッテ様には謝らねばならない事があります。私は家庭教師ではありません。元祓魔師の冒険者です。名前もマックス・ブルボーというのは偽名で、本名はリオン・ダーンズと言います」


「つまり、マックス先生……リオン先生は何かしらの事情で名前を隠しつつ、冒険者ギルドの依頼で私の家庭教師をしていたという事かしら?」


「半分は正解ですね。ただ、私は家庭教師としてではなく、リーゼロッテ様の事を調査するためにテューバ公爵から雇われたのです」


「!? お父様、なぜそんな事をされたのですか? 私はお父様やテューバ家に不利益をもたらすようなことはしておりませんわよ」


「確かに、表面的に見てお前はテューバ家を裏切るようなことはしていなさそうだな」


「ではなぜ!」


「リゼ、それは君がひと月前から様子がおかしくなったからだ。あれだけ不祥事を起こした自分の娘が急にまともになったら怪しむのは当然のことだろう? 性格の変わった人間が実は悪魔に憑依されていた事例は多いのだよ」


「お言葉ですがお父様、私は悪魔などに憑依されておりませんわ」


「リオン殿、彼女の話は本当なのですかな?」


「リーゼロッテ様の言っていることは本当ですよ。彼女は悪魔や魔物に憑依されているわけではありません。ただ――」


「ただ?」


「彼女は普通の人間ではなく、おそらく迷い人です」

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