第14話 令嬢にしては泥臭い?
リーゼロッテはゴーレムに対して複数種類の魔法で攻撃する。おそらく、ゴーレムがどの属性の魔法に弱いのかを確かめたいのだろう。
しかし、基礎魔法ではゴーレムにあまり通用しない。全く効かないわけではないが。
リーゼロッテの攻撃によってゴーレムたちには傷がつくも、ゴーレムたちは構わずリーゼロッテに近づいていく。
「あ、そうそう。手加減はしますが、クレイゴーレムは土でできています。殴られるとそれなりに痛いですよ」
「そういう大事な事は早めに言ってくださいまし! ええっと……きゃあ!」
クレイゴーレムの一体が拳を振り下ろし、リーゼロッテを殴りつける。
リーゼロッテは慌ててゴーレムたちから距離をとった。
「『フリーズ!』」
ゴーレムたちの足元が凍りつく。ほう。リーゼロッテは基礎魔法ではない、氷魔法も扱えるのか。
それにしても、軽い痛みを感じればリーゼロッテもなにかぼろをだすかもしれないと思ったが、特におかしな言動はしなかった。
まあ、俺の推測が正しければ、リーゼロッテはなにかに憑依されているわけではないのだが。
「これでしばらくの間動けませんわね。『ウォーターカノン』!」
水の濁流が一体のゴーレムを襲う。ゴーレムは水圧に耐えることができず、胴体に大きな穴を開けるとそのまま動かなくなった。
「はあはあ……。一気に3体まとめて倒すつもりだったのですけど、ゴーレムが予想以上に硬いせいで一体しか倒せませんでしたわ」
「リーゼロッテ様、私の作ったゴーレムは胴体部分が分厚くなっています。比較的もろい手足にウォーターカノンを当てていけば簡単に倒せますよ」
「そういう大事な事はもっと早く言ってくださいまし。私は今のでだいぶ魔力を使ってしまいましたわ」
「では、クレイゴーレムとの戦闘はここまでにしておきますか」
「いいえ。魔力がなくなったくらいでは諦めませんわよ。マックス先生、ゴーレムは近距離攻撃で倒しても良いのでしょう?」
「別に構いませんが」
「分かりましたわ」
リーゼロッテは魔法の袋から細い剣を取りだす。柄の部分は金色に輝いており、オパールのような青い宝石で装飾されている。
いわゆるレイピアと呼ばれる短剣だ。
しかし、あんなにきらびやかだと無くしたり破損した時のショックが大きそうだ。
祓魔師や冒険者をやっていれば武器の紛失や破損は良くあることだからな。
そのため、戦闘を生業としている職業の人間は武器に装飾をほどこしたりはしない。
まあ、リーゼロッテは貴族令嬢だからな。武器にもある程度の華やかさは必要なのだろう。
「行きますわよ!」
レイピアを2体のゴーレムに向けながらリーゼロッテは駆け出す。近づいてきたリーゼロッテに向けてクレイゴーレムたちは拳を振り下ろす。
「遅い! 『加速』」
リーゼロッテは速度をあげる魔法によってゴーレムたちの拳をなんなく避ける。
「今度はこっちの番ですわよ! 『アイスソード』」
レイピアに冷気がまとわりつく。リーゼロッテはゴーレムたちの間を風のように通り抜ける。そしてゴーレムたちの関節にレイピアを突きつけていく。
冷気を帯びたレイピアの攻撃によってゴーレムたちの手足は動きがにぶくなった。
ふむ。俺がゴーレムの弱点は手足の可動域と言ったことを参考にして攻撃の仕方を変えたわけだな。
そして、彼女はもう大規模な魔法を使えないことから近接武器に魔法を付与して戦っている。
こうすることにより、少ない魔力でゴーレムに対抗する事ができるからだ。短時間で機転を利かしてこのような戦い方をするとは思わなかったな。
いや、歴戦の兵士であればこのくらいの機転の利かせ方は簡単にできる。ただ、貴族令嬢でここまでの戦闘センスがある者は少数なはずだ。
貴族というのは平民よりも魔力が多い傾向にあるため、魔法でゴリ押しして戦う者が多いしな。
「『加速!』」
リーゼロッテは得意の水魔法でゴーレムたちを翻弄し続け、的確な斬撃でゴーレムたちの手足を少しずつ破壊していく。
その様はまさに水を得た魚のようだ。ゴーレムは魔法生命体の中ではそれなりに耐久力がある。
ゴーレムの中でも比較的低級のクレイゴーレムでもそれは変わらない。ただし、一部の例外を除けばゴーレムには知能がない。
もともと魔法でインプットされた情報をもとに行動しているだけの存在だ。そのため、多くのゴーレムは動きがワンパターンだったりする。
俺が作ったクレイゴーレムにももちろん知能はない。
「このままだとあっさり倒されてしまうな。『ゴーレム操作』」
俺は2体のゴーレムに魔力のパスを繋げて自らゴーレムたちを操作する。傷だらけになっているにも関わらず、ゴーレムたちの動きは素早くなった。
「!? 『加速!』」
リーゼロッテがゴーレムの攻撃を避けるも――。
「しまった!」
避けた先には2体目のゴーレムがリーゼロッテに向けて拳を振り下ろしていた。
「この!」
しかし、リーゼロッテは拳を振り下ろそうとするゴーレムの胴体部分を思いっきり蹴飛ばす。ゴーレムは衝撃によってふらつき、拳は空振りする。
「やぁっ!」
体勢を崩したゴーレムに向けてリーゼロッテはレイピアを振り下ろす。ゴーレムの脚は崩れ、動かなくなった。
しかし、そうこうしているうちに最後のゴーレムがリーゼロッテを襲う。ゴーレムは両手を使い、リーゼロッテの胴体を掴むとぐるぐる回転する。
彼女は両腕ごと掴まれたため、ゴーレムに向けてレイピアを振りかざすことすらできない状態だ。
早くこの拘束から逃れられなければ、リーゼロッテは方向感覚を失ってまともに動けなくなるだろう。
「ぐぅっ。ゴーレムのくせに力が強いのですわね。アイスニードル」
アイスニードルはクレイゴーレムの目をつぶす。しかし、それでもゴーレムは回転し続ける。回転するのに視界はいらないからな。
そもそも、俺が今回作ったゴーレムは魔力感知によって周囲の状況を把握している。目はあるが、ほとんど飾りだ。
「こうなったら『アイスカッター』」
ゴーレムの右腕が氷のナイフによって切断される。それによってリーゼロッテはゴーレムの拘束から開放され、地面に投げだされる。
「ゴホッゴホッ」
リーゼロッテは咳き込むも、受け身の仕方が上手かったためかすぐに起き上がる。そして片腕を失ったゴーレムに向けて何度もレイピアで切りつける。
最後のゴーレムはついに脚の関節が外れてしまい、地面に倒れ伏した。
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