第12話 リーゼロッテのとんでもない秘密
俺はリーゼロッテの部屋をでると、自分があてがわれた寝室に入る。
椅子に座ると、俺は魔法を発動する。
「『視界共有』」
目の前の光景が自分の部屋ではなく、リーゼロッテの部屋になる。『視界共有』は眷属の視界を見ることができるというものだ。
目の前にはリーゼロッテの両足が見える。
「机に座ってなにかをしているな」
リーゼロッテの部屋にいる別の眷属の視界を見る。今度の眷属は洋服棚の上にいるため、リーゼロッテが椅子に座ってなにをしているのかがよく分かる。
「ふむ。今日学んだ範囲の復習をしているわけか。偉いな」
俺は今、リーゼロッテの部屋に3匹のネズミを忍び込ませている。もちろん、3匹とも自分の眷属にしたものたちだ。
さっき、ネズミの健康状態を確認するために机の下を見たさい、リーゼロッテに声をかけられた時はひやっとした。
リーゼロッテに何者かが憑依していた場合、その場で戦闘になるおそれがあったからだ。
彼女になにも憑依していなかった場合、俺はただの部屋を盗み見ているヤバい奴になってしまうためそれはそれでまずい。
俺はしばらくの間リーゼロッテの様子を監視するも、特におかしな行動をしている様子はなかった。
しばらくすると、屋敷のメイドがリーゼロッテの部屋に入ってくる。
「お嬢様、夕飯の支度ができました」
「あらそう。今向かうわ」
リーゼロッテは教本やノートをしまうと、メイドと共に下の階に降りていく。
「数日間彼女を観察したが、このままでは埒が明かないな。『消臭』」
俺は魔法で自分のにおいを消すと、再びリーゼロッテの部屋へと赴く。そして主のいない部屋へと侵入した。改めてリーゼロッテの部屋を眺める。
椅子と机、本棚と洋服棚、更にはベッドのある、至って普通の部屋だ。
「だが、彼女の性格が大きく変わることになったきっかけがこの部屋の中にあるかもしれないな」
まずは本棚の物色を始める。
「魔法や恋愛物語の本ばかりだな」
続いて洋服棚の物色を始める。
「こっちは女物の服が入っているだけだ。令嬢がいかにも着そうな服しかない」
今度はベッドを見る。
「ん? これは?」
ベッドの下に木箱があるのを見つける。
「こんな所になにを隠しているのか、とても気になるな」
木箱には鍵もかかっている。ますます怪しい。
「だが、こんな鍵はあってないようなものだ『アンロック』」
あっさり開いた木箱の中に入っていたのは数冊の本だった。俺は早速そのうちの1冊を手に取り、タイトルを眺める。
「『フォード伯とジョン騎士には秘密がある』? なんだこのタイトルは」
パラパラと本を開く。内容はフォード伯とジョン騎士という2人の男がベッドや森の中でこっそりと情事に励むという内容だった。
要するにただのエロ本だ。
「昔、異世界から来た勇者たちはベッドの下にこうした本を隠していたという民間伝承があるが、それにならっているのか?」
俺は他の本のタイトルを確認する。木箱に入っていた本は全部で7冊になる。
そのうちの2冊以外はしっかりとした装丁がなされている。
『フォード伯とジョン騎士には秘密がある』以外のタイトルは『魔物狩りの後の淫夢』『勇者様、教会でなんてイけません!』『騎士と王子と聖剣ハート♡』『魔王を聖槍で屈服させるだけの話』となっている。
ちなみに全部官能的な内容だ。
「はぁ、なんというか、見てはいけないものをみてしまったな」
俺は残りの2冊を手に取る。両方とも装丁が粗末なものだ。おそらく、リーゼロッテがなにかを書き込むために使っているノートなのだろう。
「1冊目のタイトルは……『最近買った男奴隷の精力がハンパない件』か。これは嫌な予感がするぞ」
ページをめくる。
「うん。想像した通りの内容だ」
この本の筆跡は間違いなくリーゼロッテだ。彼女が趣味で執筆したのだろう。
「罪悪感がどんどん増していくな」
俺は最後に残った1冊を手に取る。
「ん? なんだこのタイトルは? なぜこの文字で書かれた本がこんなところにあるんだ」
最後の本は表意文字と表音文字の2種類で書かれていた。中身を開くも、そこに書かれている文字はほとんどがタイトルと同じ言語と文字になっている。
筆跡はリーゼロッテだ。
「内容的に、これは日記なのか? くそっ。もっとしっかりと日本語を学んでおくべきだったな」
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