第2章 公爵家の令嬢
第10話 新たな依頼
「こちらが報酬の金貨10枚になります」
受付嬢から金貨が手渡される。これは風鈴亭の悪霊を討伐した件で貰える報酬だ。
俺は受け取った金貨を自分の袋へと入れる。
「リオン君、少し良いかね?」
声をかけてきたのはギルド長のアルバだ。
「何の用だ?」
「この前言っていた指名依頼の件だよ」
「ああ。そう言えばそんな事を言っていたな」
「ここで話すのもなんだ。応接室に行こう」
俺とアルバは応接室に行くと、向かい合ってソファに腰かける。
「で、あんたの言っていた指名依頼というのは祓魔師でないと解決できないようなものなのか?」
「うむ。だから君に頼んでいるのだ」
「……俺が教皇から何を言われたのか知っているのか?」
「もちろんだとも。君は教皇聖下から破門されたのだろう?」
「それを知っていて俺に頼むわけか」
「その、正確に言うと依頼をするのは私ではなくてね。私の友人なのだよ。彼は貴族でね」
「そういう事か」
貴族というのは面子を気にする傾向にある。
だから世間や社交界で噂されるのを防ぐため、教皇配下の祓魔師ではなく、俺のような祓魔師くずれの冒険者に依頼したりすることがあるのだ。
教皇配下の祓魔師は特定の貴族と関わりのある者も多く、彼らに依頼をだすと社交界で噂になってしまう可能性があるからな。
「いやあリオン君、君が帝都に来てくれて本当に良かったよ。ここには元祓魔師やそれに類する経歴の者がいなくてね。貴族や商人から表向きにしたくない依頼が来たとしても、中々依頼を受理できなかったのだよ」
「俺はしばらく帝都に滞在するつもりだし、なにかあれば指名してくれ」
「うむ。そうしてもらおう」
「じゃあ、どんな依頼なのか教えて貰おうか」
俺はアルバから依頼内容の説明を受ける。依頼をしてきたのはテューバ家という貴族家らしい。
「聞いた事があるような?」
「ふむ。そうだろう。テューバ公爵はこの国でも大きな権力を握っているからな」
「ほう。まさか公爵家の依頼だとは思わなかったな」
「だが、君であれば公爵レベルの貴族から依頼を受けた事もあるのだろう?」
「もちろんだ」
とはいえ、俺はシュヴァン帝国の貴族とはあまり関わりがない。
これまで多くの貴族から依頼を受けてきたものの、俺の活動拠点はアムナー法国やここよりも西方の国家だったからな。
教皇からは目をつけられているし、今後はシュヴァン帝国の貴族とコネを作っていきたいところだ。そういう意味で、今回の依頼はぜひ引き受けたい。
「そのテューバ家にいる次女が何者かに憑依されている可能性があるのだよ」
「憑依か……。なるほど。その手の依頼なら得意だ」
風鈴亭で悪魔から探偵に向いていると言われたが、祓魔師にはそうした対象を観察する能力も必要だったりする。
◆◆◆◆◆◆
アルバから依頼を受けた3日後、俺は帝都にあるテューバ家の屋敷前にいた。
「何者だ!」
屋敷の門兵たちがこちらに槍を向ける。
「俺の名前はリオン・ダーンズ。テューバ家から指名依頼を受けた者だ。話は聞いているだろう?」
「ふむ。冒険者プレートはあるか?」
「ああ」
俺は門兵の1人に冒険者プレートを見せる。
「借りるぞ」
門兵は冒険者プレートを持って屋敷の中に入っていく。しばらくすると、門兵が戻ってきた。
「入って良いぞ」
俺が屋敷のエントランスに入ると、1人のメイドがこちらに寄ってくる。
「リオン様ですね。お話は聞いております。どうぞこちらに」
メイドの案内のもと、応接室に案内される。さすが公爵家の応接室なだけあって、冒険者ギルドの簡易なものとは全然違う。
ソファは柔らかいし、机の縁は金で彩られている。更に、壁には高そうな絵が飾ってあった。
「少々こちらでお待ちください」
そう言いながら、メイドが机の上にカップを置く。そしてポットから熱い紅茶を注いだ。
「悪いな」
俺は近くに置かれた角砂糖を紅茶に入れると、カップを手に持って紅茶の香りを楽しむ。
うん。良い香りだ。これはかなり良質な茶葉を使っているぞ。庶民が使うような茶葉はまともに香りがしないからな。
スラム街の人々が飲む茶葉に至っては混ざり物が多すぎるせいで悪臭がすることもあるらしい。
紅茶を少しの間楽しんでいると、2人の夫婦が部屋に入ってくる。
「これはこれはリオン殿。お待たせして申し訳ない。私はビヨード・テューバと申します」
恰幅の良い男が申し訳なさそうな顔をする。この男がテューバ公爵か。俺は座っていたソファから立ち上がる。
「いえいえ。お気になさらず。私は紅茶を頂いておりましたし、気に病む必要はありませんよ」
「あら、紅茶がお気に召して下さったのなら良かったわ。その紅茶は私が茶葉をブレンドしたものですのよ」
女の方がこちらに笑顔を向ける。彼女が公爵夫人なようだ。
「まだ名乗っておりませんでしたわね。私はローズ・テューバ。公爵夫人でしてよ」
「私も名乗っていませんでしたね。リオン・ダーンズと言います。元1級祓魔師で今は冒険者をしています」
俺は公爵夫人の顔を見る。端正な顔だちだが、少しやつれているようだ。
「あの、なにか?」
「いえいえ。公爵夫人というお立場は苦労も多いのではないかと思いまして」
「苦労ですか……。ええ、そうかもしれません」
「うちの家内の者がすいません。しっかり化粧をするよう言い聞かせたのですが」
テューバ公爵が頭を下げる。
「いや、別に嫌味で言ったわけではないんです。今回の依頼の件と公爵夫人が疲れているのにはなにか関係があるかもしれないと思っただけですよ」
一部の悪魔や魔物は周囲の魔力を奪い取る能力があったりするからな。
「なるほど。もしかしたらその可能性もありますな。さ、もう一度ソファにおかけになってください」
テューバ公爵に言われた通り、俺が再び腰かけるとテューバ公爵と夫人も向かい側のソファに座る。大物貴族にしては随分と腰の低い2人だ。
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