第7話 謎が増す宿屋
俺は身長を低くして階段から2階を覗く。相変わらず暗いし、1階よりも多くの瘴気が漂っている。
「夜目には自信があるが、この状態ではさすがに探索ができないな。『暗視』」
『暗視』という魔法によって暗い中でも目が見えるようにする。
この魔法のデメリットは『暗視』を使っている間、常に魔力を消費してしまうところにある。
これから戦闘を行うために魔力は温存しておきたい。だからなるべく早く標的の幽霊たちを見つける必要がある。
「ついでに、この宿屋に巣食っている他の幽霊やアンデッドどもも討伐しなきゃならないな。そうしなければ、この宿屋が安全になったとはいえない」
全く、面倒な話だ。
俺は二階にある部屋の扉をしらみ潰しに開いていく。
数体のゾンビがいたものの、大した強さではなかったために、あっさりと倒していく。
どの部屋も大したものはなかったが、たまに人間や魔物の死体とおぼしきものが放置され、異臭を放っていた。
「ん? この部屋は……」
そんな中、俺は周りとは少し雰囲気の異なる部屋を見つける。他の部屋とは異なり、扉にはガース&メリーと書かれた札が貼ってある。
「ガースとメリーは確か殺された恋人たちの名前だったはず」
俺は風林亭でなにがあったのか、あらかじめ調べあげている。情報源はカストルや帝都の情報屋、役所などだ。
その中で、殺された恋人たちについてもそれなりに知っている。男の名前がガースで女の方はメリーだ。
「もしかしたら、ここで2人は殺されたのかもしれないな」
自分が死んだ場所を主要なテリトリーにする霊は多い。俺は今まで以上に警戒しながら扉を開く。
「なにもいないか……」
部屋内に動き回るものはない。しかし、この部屋は他とは少し違った。
他の部屋には基本的に簡素なベッドや机、椅子などの家具しかなかったが、この部屋には子供用の
まるで、子供がいる一般家庭のようだ。おまけに、この部屋には死体などもなく、小綺麗になっている。
「恋人たちに子供がいたという情報はなかったんだが……。どういう事だ?」
ガタンッ!
突然、廊下の方から大きな物音が響く。
慌てて部屋から飛びだすと、さきほど探索した部屋の扉が大きく開いていた。
恐る恐る扉の開いた部屋の中を覗くも、中にはなにもいない。
「典型的なポルターガイストだな」
「ケケケケ……ケケケ」
不愉快な笑い声がしたので後ろを振り返ると、そこには1人の女が突っ立っていた。
白いシャツと青いスカートを履いている彼女は一見普通の女性に見えるものの、顔は青白い。明らかに死人だ。
「ケケケケ」
女は不気味な笑い声を発しながら、3階へと逃げていった。
「俺を上の階におびき寄せたいわけか。それにしても、あんな笑い声をだしてるって事はもうまともな理性は残っていないと判断して良いだろうな」
幽霊と呼ばれる存在にも、生前の記憶や社会常識を強く残しているものとそうでないものがいる。
前者とはまともに会話ができるため、討伐対象となることはあまりない。
しかし、後者は基本的に悪霊に分類されるため、見つけ次第討伐するというのが祓魔師の常識だ。
俺は3階へ続く階段を登り始める。
「うん?」
なにか違和感がある。階段を注意深く見つけると、階段の中腹あたりにある1枚の床板がおかしい。
そこだけなぜか埃が積もっていないのだ。俺は階段を一度降りると、袋から取りだした大きめの石を中腹にある床板に向けて投げつける。
ガタンッ!
床板に石が当たった瞬間、階段が急激な傾斜に変化し、階段下の床に大きな穴が空いた。
「うわおっ!」
階段下にいた俺は落下しそうになるも、穴の端を掴む事でことなきを得る。穴の下を見ると、地面には凶悪なトゲトゲが設置されていた。
俺は2階へと這い上がる。
「俺としたことが油断した。まさか階段下がなくなるとは。それにしても、1階にこんな仕掛けのありそうな部屋はなかったが……」
じっと穴を見つめる。よく見ると、穴の周囲には濃い瘴気が漂っていた。
「もしかして、この落とし穴は異空間に繋がっているのか?」
異空間はそんじょそこらの悪霊が作れるものではない。
「いったい、この宿屋はどうなっている?」
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