第5話 冒険者の依頼とギルド長

「というわけで、俺指名の依頼があるはずなのだが」


俺は冒険者ギルドに来ていた。先日、カストルの依頼を受けることにした俺は彼に冒険者ギルドを通して依頼するように頼んでいた。


カストルを信用していないわけではないが、基本的に依頼は冒険者ギルドを仲介した方が余計なトラブルに巻き込まれることを防げる。


おまけに、冒険者ギルドに加入している冒険者がギルド外で依頼を受けることは禁止されている。


バレたら罰金があるため、余計にギルド外で依頼を受注するメリットはないわけだ。


「確かに、リオン様ご指名の依頼が届いております。しかし申し訳ございません。リオン様はこの依頼を受けることができないのです」


受付嬢は非常に申し訳なさそうな顔をしている。


「どうしてだ?」


「依頼の難易度が金級冒険者相当になっておりまして。鉄級冒険者のリオン様ではこの依頼を受けられません」


ふむ。ゴースト系統の魔物は特殊な能力を持っているものが多く、討伐するのが難しい。


そのために討伐の推奨ランクも冒険者ギルドでは高めに設定されているんだな。


しかし、これでは依頼を受けられない。困ったぞ。


「少し良いかね?」


突然、俺と受付嬢が会話をしているところに、立派な服を着た中年の男が割り込んでくる。


「君がマザンを気絶させた新米の冒険者か」


「マザン?」


「『紅蓮の流星』のパーティーリーダーを務めている大柄の男だよ」


『紅蓮の流星』……。


「ああ、昨日絡んできた連中のことか。金級冒険者らしいが、大したことなかったな」


「ほう。言うではないか。私の名前はアルバだ。当ギルドのギルド長をしている。こちらについてきたまえ」


俺はアルバに案内されるがまま、冒険者ギルドの従業員用通路に入っていく。


案内された部屋は応接室らしく、立派な2つのソファーが向かい合うように設置されている。


アルバは奥にあるソファーに腰掛ける。


「さあ、座るが良い」


「了解した」


アルバに促され、俺も手前にあるソファーに腰をおろす。


「それで、わざわざこんな密室に俺を案内しておいてなんの用だ?」


「なに、お困りのようだから助けようと思っただけだ。金級の依頼を受けたいのだろう? ならばギルド長の特権でお前を銀級へと昇格させよう」


「それはありがたいな。それで、なにが目的なんだ?」


「なに、期待の新人を手放したくないから便宜を図っただけだ……と言いたいところだが、君はそれでは納得しないだろう。後日、指名依頼をしようと考えている。元祓魔師リオンよ、期待しているぞ」


「アルバ、やっぱりあんたは俺の正体に気がついていたか」


「当たり前だ。オリハルコン冒険者に比べれば知名度は低いものの、1級祓魔師の名もそれなりに知られているからな。特に1級祓魔師リオンは色々な意味で有名だ」


「そうか。まあ、あんたのおかげで依頼をこなせるようになったわけだし、感謝しておく」


「これが銀級冒険者用の冒険者プレートと保証書だ。受け取りたまえ」


俺はアルバから銀色の冒険者プレートを受け取ると、再び冒険者ギルドの受付へと戻った。




◆◆◆◆◆◆




「銀級冒険者になったんだが、これで金級冒険者相当の依頼も受けられるよな?」


「銀級冒険者になったとは? えっ? そのプレートを見せてください」


先程の受付嬢にプレートを渡す。


「……確かに本物ですね。そう言えば、さきほどギルド長とお話されに行かれましたよね。なるほど。理解しました。銀級冒険者ということなので、金級冒険者相当の指名依頼も受けられます」


「ならば早速依頼現場に行ってくる」


「お、お待ちを!」


「まだなにかあるのか?」


「ええ。鉄級の冒険者プレートはまだお持ちですか? 古い冒険者プレートは破棄する必要があります」


確かに、身分証としての役割がある冒険者プレートを複数持つわけにはいかないか。俺は受付嬢に鉄級の冒険者プレートを手渡す。


「あと、これから依頼現場に行くのですよね?」


「そうだが」


「パーティーは組まないのですか?」


「パーティー? そんなものを組む必要はないな。パーティーを組んだら自分の報酬も減ってしまうし」


「普通、冒険者はパーティーを組んで依頼を受けるのですが……。1人では不測の事態が起きた時に対応できませんよ?」


「大丈夫だ。俺は最近まで祓魔師として働いていたが、パーティーを組むことなく、様々な悪魔や悪霊を倒してきたからな」


「それなら良いのですが。ご武運を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る