第4話 帝都初の依頼
「その声はリリィの祖父か」
「そうじゃ」
「先ほど、俺のことをじろじろ見ていたが、やはりなにか用でもあるのか?」
「お主は祓魔師なのじゃろう?」
「……」
「図星なようじゃな」
「なぜ分かった?」
「お主が身につけている指輪や首輪を見てピンときたんじゃよ」
俺は自分の右人差し指と首元をみやる。俺が身につけている指輪は『浄化の指輪』といい、瘴気から身を守ってくれる効果がある。
また、俺が身につけている十字架のついた首輪は『分離の首輪』と呼ばれている。
悪魔や悪霊といった存在が己に憑依するのを防いでくれる効果のあるものだ。
「なるほど。俺の身につけているものは確かに祓魔師がよく装備しているものだな。そこから推測したわけか」
まあ、俺が持っている指輪と首輪は特注品なため、そんじょそこらの祓魔師が持っているものよりも強力だがな。
「左様。そこで祓魔師様。あなた様に依頼したいことがあるんじゃよ」
「そうか。ならまずは部屋に入れ」
「感謝するぞい」
そう言いながら、老人が部屋に入ってくる。
「うわっ。酒臭いな」
「ふぉふぉふぉ。料理した後に飲んできたからの。お主も1杯どうじゃ?」
床に座った老人が手に持った酒瓶を俺の前にだす。
「このワインはそれなりに値打ちのあるものじゃないか」
「そうじゃな。儂が秘蔵している酒の中でもそれなりに良い物じゃよ。だが、遠慮することはない」
「ならお言葉に甘えて」
俺は腰に提げている袋からグラスと干し肉を取りだす。せっかく良い酒を飲めるんだ。これくらいの用意はしないとな。
ちなみにグラスを取りだした袋はただの袋ではない。
空間魔法が付与されており、見た目はあまり大きくないものの、沢山のアイテムを収納することができる。
老人が俺の用意したグラスにワインを注いだため、早速グラスを手に取ってワインを飲む。
「芳醇な香りがして美味い」
「そう言って頂けると嬉しいのぉ」
「それで、俺が祓魔師だとよく分かったな。『浄化の指輪』にしろ『分離の首輪』にしろ、一般には知られていないものだ。もしかしてあんたは教会の関係者なのか?」
「まあそうじゃの。正確には教会の元関係者じゃ」
老人の名前はカストルというらしい。彼は元孤児で、教会の運営する孤児院で育てられたらしい。
「教会への恩義もあって、昔は祓魔師になろうとした事があっての。その影響で色々と祓魔師関係の知識を得たんじゃよ。まあ、儂には才能がなかったので祓魔師になるという夢は諦めたんじゃがな」
「で、祓魔師になるのを諦めた後に宿屋の運営を始めたわけか」
「いや、その頃は宿屋を開業するだけの金がなかったのじゃ。だからとある宿屋にて働きながら宿屋の開業資金を稼いだんじゃよ」
「あんたは苦労人なんだな」
「いやいや、別に嫌なことばかりではなかったわい。働いていた宿屋は『風林亭』と言うんじゃが。そこの主人は色々と便宜も計ってくれたしの。あんな事が起きるまでは……」
「あんな事とは?」
「儂が独立してここの宿屋を開業してからしばらくたった日の事じゃ。『風林亭』で殺人が起きたんじゃよ」
殺されたのは2人の恋人だったらしい。両者の実家は仲が悪かった。
そのため恋人たちは駆け落ちしていたのだが、女側の実家が刺客を送って2人を殺害したようだ。
「もちろん、状況的にそれしか考えられないというだけで、女側の実家が刺客を送ったという確かな証拠はないのじゃ」
その後、宿内では2人の幽霊が現れるようになってしまったという。それを見た客は離れてしまい、『風林亭』は破産してしまったとのことだ。
「『風林亭』を経営していた夫婦は精神的に疲れ果ててしまっての。宿屋が潰れた後はすぐに2人とも亡くなってしまったんじゃ。夫婦には子供がいなかったため、本来は彼らの親族が『風林亭』の建物と土地を相続するはずじゃったのだが、幽霊のでる事故物件を引き取りたいという者がいなくての。色々あって今は儂が『風林亭』の所有者になっておる」
「それで、あんたは『風林亭』の幽霊を俺に除霊して欲しいわけだな」
「その通りじゃ」
「『風林亭』は廃墟になってからだいぶ時間が経っているのだろう?」
カストルが風林亭で働いていたのは若い頃のはずだ。
「もう何十年も前の話になるのう」
「なぜ今になって、『風林亭』の幽霊を討伐して欲しいと俺に依頼するんだ?」
帝都には腕利きの祓魔師が何人もいる。これまでも彼らに討伐依頼をする機会はあったはずだ。
「これまでは廃墟になった宿屋の幽霊討伐に必要な金がなかったからじゃよ。宿屋運営には経費も掛かるし、別の事業で失敗した結果、借金もあったからのぅ。それに……」
「それに?」
「この話は誰にも言わないで欲しいのじゃが……」
「誰にも言わないことを誓おう」
「最近、『風林亭』の近くで行方不明事件が頻発しておるのじゃよ」
「もし仮に『風林亭』と行方不明事件に何かしらの関係性があった場合、あんたは罪に問われるかもしれないな」
「そうじゃの。だからこそ、何とかして欲しいのじゃよ。儂は捕まりたくない。どうか」
カストルは床に頭を擦り付けながら土下座を行う。
「それなりに報酬はだせるのか?」
「純粋な依頼費用として金貨10枚をお支払いしたい。追加でそうじゃの、先ほど頂いた金貨3枚はお返しするぞい」
「ふむ。依頼料金として金貨10枚の上に、部屋を借りるための1ヶ月分の料金がタダになるのか。悪くない。取引成立だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます