第2話 他国への移住、そして冒険者ギルド
俺は小高い山の上から、目的地の都市を眺める。都市の中心は標高が高くなっており、そこには皇帝の住まう宮殿がある。
その周りには貴族や高位聖職者、上級商人などが建てた屋敷が広がっていた。
帝都には建物を囲うようにして巨大な外壁がそびえ立っており、外壁の外には大きな堀が存在している。
「さすが、『世界の半分』という異名を持つ大都市なだけはあるな」
そう、ここは教皇が直接統治を行っているアムナー法国ではなく、シュヴァン帝国という国の帝都だ。
法国の聖都から追いだされた俺は結局、アムナー法国からでていくことに決めた。法国では教皇や教会が大きな権力を持っている。
そんな国で教皇から破門された事がばれれば、まともに仕事が来なくなってしまう。
人々は1級祓魔師の力を恐れているため、強引に脅せばそれなりの仕事を得られるかもしれないけどな。
まあ、そんな面倒な事はしたくないのでわざわざシュヴァン帝国に来たわけだ。この国はアムナー法国と友好的であるとは言いにくい関係だ。
だから、法国にて広まるであろう俺の悪評がこの国にまで影響するとは考えにくい。
俺は小高い山を降りていくと、そのまま帝都に向かっていった。
◆◆◆◆◆◆
俺は帝都の大通りを歩いていく。
帝都の入り口には衛兵がいたものの、俺の身なりが良かったせいか、特に尋問されることも無く通過する事ができた。
しばらく歩みを進めると、やがて大きな5階建ての建物が見えてくる。お目当ての冒険者ギルドだ。
ギルドの中に入ると、1階は居酒屋になっていた。多くの者が昼間だというのに酒を飲んで潰れている。
魔物狩りはそれなりの金になるものの、3年以内に命を落とす者が多い。つまり、いつ死ぬか分からないのだ。
そのため、冒険者には貯金という概念が基本的には存在しない。大金を稼いだら短期間で一気に使ってしまう者も非常に多い。
冒険者登録を行うために奥を向かおうとした刹那――。
「おい、青いローブをまとったお前」
「俺のことか?」
声がした方向を見ると、そこには一人の大柄な男と、その取り巻き達が俺のことを睨みつけていた。
「見ない顔だな。どこのパーティーに所属している?」
「いや、どこのパーティーにも所属はしていないぞ。これから冒険者登録をするところだ」
「冒険者登録? お前がか?」
「そうだ」
「「「「「ハハハハハハハハッ」」」」」
男たちが一斉に笑いだす。
「お前みたいな
「悪いな。俺には一応魔術の心得があるんだ。その提案は断る」
「あ゛あ゛? お前、金級冒険者パーティー『紅蓮の流星』の言ってることにケチをつけんのか!?」
全く、酔っている人間というのは面倒くさいな。
「そうだと言っている。酒の飲みすぎで脳が腐ってるんじゃないか?」
「喧嘩売ってんのか!」
激怒した大柄の男がこちらに近づいている。その他の冒険者たちは俺を気の毒そうな目で見つめながら酒を飲んでいる。
彼らの会話に聞き耳を立てると、どうやら紅蓮の流星は少し前に重要な依頼で失敗してしまい、機嫌が悪いようだ。
なるほど。だからこんな滅茶苦茶な絡み方をしてくるのか。大方、ひ弱な俺をいたぶって感情を発散させようということなのだろう。
大男は俺に向かって拳を振り下ろす。それをかわすと、俺は大男の腹を殴りつけた。
「ぐえっ」
痛みに顔を歪ませながら、大男は床に倒れて気絶する。冒険者ギルドを静寂が支配する。誰もが驚きのあまり、声をだせずにいるようだ。
まあ、見た目がひ弱な俺が金級冒険者のパーティーリーダーと思われる男をあっさりと倒してしまったのだ。
そういった反応をするのが普通だろう。
「他人を危険な冒険者にさせないよう、わざわざ身体を張ってまで止めるなんて良い奴じゃないか。それで、お前たちも俺が冒険者になる事に異論があるのか?」
大男の取り巻きに声を掛ける。彼らは顔を青ざめて首を横に振った。
「そうか。なら、この男を介抱してやると良い」
俺は大男を取り巻きたちに向けて突き飛ばす。
「「「「うわあああああ!!!!」」」」
取り巻きたちは蜘蛛の子を散らすように逃げだした。
「リーダーを置いて逃げるなんて、薄情な連中だな」
周囲に睨みをきかせると、他の冒険者たちは俺から目線をそらす。関わってはいけないと思われているのかもしれない。
まあ、面倒な絡み方をされるよりはずっとましだ。俺は冒険者ギルドの受付へと進む。
「どのようなご要件でしょうか?」
受付嬢の顔は引きつっていた。
「今日は冒険者登録をしに来た」
「分かりました。少々お待ちください」
受付嬢から冒険者に関する説明を受けていく。
冒険者には等級があり、上からオリハルコン、アダマンタイト、ミスリル、プラチナ、金、銀、銅、鉄となっている。
冒険者になりたての頃は基本的に鉄級冒険者から始める必要があるらしい。
基本的に自分の等級に見合った依頼を受けなければならないものの、一応ワンランク上の依頼も受けることは可能なようだ。
「しかし、上の等級の依頼を失敗した場合、通常よりも多くの違約金を払わねばならなくなります。ご注意を」
「なるほど。失敗するわけにはいかないわけか。頭に入れておこう」
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