教会をクビになった祓魔師の俺は冒険者になって特殊な依頼を解決する
紫水肇
第1章 新たな生活編
第1話 教皇から破門される
「リオン、ボルザ伯爵の言っている事は本当なのか?」
神殿にある謁見の間にて、俺は教皇から尋問されていた。
「はい、教皇聖下。私は確かにボルザ伯爵家の長男であるハンス・ボルザに憑依した悪魔を払いました。その時にハンス殿を犠牲にしてしまった事もまた事実です」
淡々とした口調で教皇の詰問に答える。俺の名前はリオン・ダーンズ。教皇直属の祓魔師をしている。
祓魔師というのは人類を脅かす悪魔や悪霊、特殊な魔物などを狩る職業だ。
「なぜそのような事をした。時間をかければハンス殿を殺す事なく取り憑いた悪魔を滅ぼせたのかもしれんのに」
「お言葉ですが聖下。ハンス殿に取り憑いていたのは高位の悪魔であり、私でも滅ぼすのにかなり苦労しました。あのままではハンス殿以外のボルザ家の人間が被害にあう可能性も高く、仕留め損ねるわけにはいかなかったのです」
「何が仕留めそこねるわけにはいかないだ! この無能祓魔師めが!」
俺の言い訳を聞いていたボルザ伯爵が声を荒らげる。
「無能と言われましても。一応、私は1級祓魔師なのですが」
祓魔師には1~10までの階級がある。1級祓魔師は祓魔師の中でも1番上位の階級だ。
「ぐっ……。貴様のような人間が1級祓魔師とは」
「ボルザ伯爵、落ち着いてください。ハンス殿を救えなかったことに関しては私も申し訳なく思っています。救えなかったのは完全に私の落ち度ですから。しかし、彼は悪魔に意識を完全に乗っ取られてしまう前、ボルザ伯爵家が壊滅するのを防ぐため自分が犠牲になると言ったのです。彼の意思を尊重し、他の方が悪魔の犠牲になることを防ぐため、私は彼もろとも悪魔を討伐したのです」
「うるさい! 私はそれに納得していないのだ! この人殺しめ! そもそも、ハンスが自分を犠牲にしたという証拠はあるのかね? ハンスが死んだとき、ハンスの周りには貴様しかいなかったのだぞ」
「申し訳ございません。ハンス殿が自らを犠牲にしたという証拠はありません。悪魔の浸食度合いが強く、ハンス殿が遺書を残す猶予はなかったので」
「この無能め! いつか必ず殺してやる!」
俺を殺すと言ったボルザ伯爵だが、俺からは距離を取っている。教皇聖下や神殿を警護する聖騎士たちも同様だ。
あらゆる魔術や呪術に精通している1級祓魔師に対して不用意に近づけばどうなるか分かっているからな。
そんな中、一人の男が俺に近づいてくる。メガネを掛けた真面目そうな祓魔師だ。男の名前はブレイン・マーニュスト。
彼もまた俺と同じ1級祓魔師だ。
「さっきから話を聞いているが、今回は明らかにお前が悪い。責任をとって何らかの処罰を受けるべきだ」
そう言いつつ、ブレインは鞘から太刀を抜くと、俺に刃を向ける。
「同じ祓魔師に対して武器を向けるとはな」
「私はもうお前を仲間だなどとは思っていない」
「そうか」
俺は対抗するため、腰にさげていたショートソードをブレインに向けて威嚇する。
「2人とも止めんか」
教皇の命令により、俺とブレインは武器の切っ先を下げた。
「これは教皇聖下、貴方様の御前で失礼いたしました」
ブレインは教皇に対して頭を下げる。
「構わん。お前が義憤に駆られる理由もよく分かる。リオン」
「はい。なんでしょうか?」
「お前を教会から破門する。もう二度と私の前には現れるな」
「承知しました。教皇聖下、この度はご迷惑をおかけしまして申し訳ございません。今までありがとうございました」
俺は教皇に対して深々と頭を下げる。
「ボルザ伯爵、あなたの長男が亡くなった件に関しては教会が謝罪と賠償を行う。それで良いか?」
「ええ。聖下自身がそのような事を仰って頂けるのであれば、ハンスも救われるというもの。私に異論はありません」
「それは良かった。ブレイン、リオンを聖都の外まで見送れ。こっそり聖都に入り浸らないよう、監視するのだ。しかし、リオンと戦おうとはするな。1級祓魔師同士が戦えば、聖都の町が廃墟になりかねん」
「承知しました。リオン、私に着いてこい」
「言われなくてもそうするよ」
「リオン!」
ボルザ伯爵が大声で俺の事を怒鳴りつける。
「私は貴様のことを絶対に許さないからな! 絶対にだ!」
ハンス殿の意向に沿って悪魔を討伐したは良いものの、ボルザ伯爵家からは完全に目をつけられてしまったな。
俺は黙ってボルザ伯爵に頭を下げると、ブレインの後を着いて行った。
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