《第一章》 第八話

施設深部 16時14分PM

電球の寂しい灯りの中、

壁にしゃがみ込み

息を切らすゼファと

傍で座るメル


ゼファ:

「ハァ…ハァ…ッ

ここまで来たら、大丈夫だろ…」


メル:

「ゼファ…」


ゼファ:

「ん…どうした?メル?」


メル:

「…ごめんなさい…」


ゼファ:

「あぁ?なにがだ」


メル:

「…私が、人じゃなかったから…」


ゼファ:

「なんだ、そんな事か」


メル:

「だって…私は…兵器で…

戦争の道具で…でも…」


ゼファ:

「…」


メル:

「私は…なんにもなくて…

ゼファのように強くもなくて…

シュナイザーのように賢くもなくて…

ルーツのようなおっきな身体もなくて…」


ゼファ:

「…」


メル:

「私にも…チカラがあれば…

皆みたいになれたら―――」


ゼファ:

「メル」


メル:

「…」


言いながら不安そうに俯くメルに

強い視線を向けてゼファは、告げる


ゼファ:

「俺は誰かを羨ましいと思う事はあっても、

誰かになりたいと思った事は一度もないぜ?」


メル:

「ゼファ…」


ゼファ:

「お前には、”お前”の良さがある

…だろ?」


メル:

「…うん」


見つめ合う二人


シュナイザー:

「まったく…君ってヤツは、

かなわないなぁもー」


突然、ゼファの通信機から声が届く


ゼファ:

「シュナイザー!無事だったのか!」


メル:

「大丈夫?」


シュナイザー:

「うん、なんとかね?それよりゼファ…」


ゼファ:

「あぁ…今とんでもねぇ敵と戦ってる」


シュナイザー:

「古代兵器、地を踏み砕くモノ…だね」


ゼファ:

「知ってるのか?」


シュナイザー:

「此処からでも見えるよ、

文献でしか知らないけど

まさか戦う事になるなんて―――」


ゼファ:

「何か策は無いか?弱点は?」


メル:

「シュナイザー…」


シュナイザー:

「…ブリンガーは、古代言語で

”齎(もたら)す者”って意味なんだ…

ソイツは人に近い造形なんだよね?」


ゼファ:

「ああ、攻撃も単調、殴ったり踏んだり…

まるでデケェ子供だぜ…」


シュナイザー:

「だったら、コアは胴体…

人でいう心臓に近い場所にあると思う」


ゼファ:

「なんでわかるんだ?

腹の下とか、背中とか、頭かもしれねぇだろ?」


シュナイザー:

「…わかるよ、何かに凄く似せるって事は

それだけ”愛情”を注いでいる証拠だから」


ゼファ:

「それなら何とか成るかもしれねぇ…」


メル:

「ほんと…?」


シュナイザー:

「一縷(いちる)の望みだけどね…」


ゼファ:

「シュナイザー、アレを使うぜ?」


シュナイザー:

「クイックチャージャーだね?」


装置を取り出すゼファ


シュナイザー:

「ソレはコラプサーのシステムを

強制的にオーバークロックして、

一発だけ即時回復させるんだ

ただし、あくまで試作型…発動した後は

全てのチャージ時間がリセットされて

ソレ自体も半日は使えない

けど、使うなら…」


ゼファ:

「ああ、今しかねぇ…!

よし、これでエネルギーが一つだけ回復した

こういう絶望の中でこそ、光は強く輝くんだ」


メル:

「ゼファ…」


ゼファ:

「諦めんなメル、俺がついてる」


メル:

「うん!」


ゼファ:

「…そうこなくっちゃな」


シュナイザー:

「諦めない心―――

”ブレイブ・ハート”…」


ゼファ:

「コイツの、名前か?」


シュナイザー:

「…どうかな?」


ゼファ:

「ッフ…良いんじゃないか?」


シュナイザー:

「気を付けてね」


ゼファ:

「あぃよ」


コラプサーの銃身が展開し、

まるで炎の様に染まる

それと同時に

ゼファの闘志が、赤く燃える―――



【場面転換】帝國戦艦内司令室 16時29分PM

部屋の中央で佇む一人の男

映像を前にして腕を後ろ手で組み、

そのマスクに巨人の姿が映り込む


ヨウェル:

「とても楽しんでいるようですねぇ

外に出るのは数百年ぶりでしょう…

実に喜ばしい…

さぁ、見せて下さい?

アナタ方が、どう対処するのか」


突如として巨人の前方が煙に包まれる


ヨウェル:

「ほぉ?…あの煙は…なるほど、

鬼ごっこの次はかくれんぼですか…

やれやれ…本当に飽きませんねぇ?」


ノイズが走り視界不良となった映像を放置し、

窓際へと近づくヨウェル

そのマスクの奥の瞳は静かに、

しかし不気味に揺らめく



【場面転換】施設深部広場 16時30分PM

広場を覆う濃密な煙

あらゆる場所のパイプから蒸気が噴き上げる

それにより創り出された、煙幕である


シュナイザー:

「その煙すごいね、どうやったの?」


ゼファ:

「ここの施設のバルブを

片っ端から全開にしたのさ…

スチーム・ボムみてぇに

できんじゃねぇかと思ってな?」


シュナイザー:

「やるじゃん」


ゼファ:

「我ながら、だろ?」


シュナイザー:

「アイツ等の視界はたしかに防げた…でも、

ブリンガーはがむしゃらに攻撃してくる…

確実に撃ち込むには近づかないと―――」


ゼファ:

「俺に考えがある…

メル、ここで待ってろ」


メル:

「ゼファ…待ってる」


ゼファ:

「おう、行って来る」


シュナイザー:

「どうするつもり…ゼファ!?」


ゼファ:

「こう…すんだよ!」


走り出すゼファ

迷いは、ない

巨人の拳がゼファを襲う


ゼファ:

「ッハァア!」


唸りをあげて襲ってくる拳を

ギリギリの所で躱(かわ)す


ゼファ:

「まだだ…!」


風圧で押し返されそうになるが、

勢いのまま進むゼファ


ゼファ:

「まだまだ…!」


巨人の手が薙ぐ様に迫る

それを躱し、進む


ゼファ:

「もっとだ!」


続けて迫る拳を

また躱し、進む


ゼファ:

「もっと!」


躱して、突き進む


ゼファ:

「もっと!!」


ただ、前に向かって


ゼファ:

「こ・こ・だぁあああ!」


巨人の右拳が

勢いよく地面に突き刺さる

そう、これは”あの時”の再現

突き刺さった腕を駆け上がるゼファ

胸部に照準を定め、吠える


ゼファ:

「フ ァ イ ナ ル バ ー ス ト!」


コラプサーから蒸気が吹き上げ

放たれる、必殺の一撃

巨人の胸部に弾丸が突き刺さり

強烈な爆風で装甲を破壊する


シュナイザー:

「すごい!すごいよゼファ!」


損傷し内部機構が露出

後ろに大きく体制を崩してそのまま


ゼファ:

「よし…!やっ―――」


倒れずに、巨人の顔がこちらへ向く


ゼファ:

「なに!?」


巨人はメルに向かって左手を振り上げ

そして…振り下ろされる


シュナイザー:

「危ない!!」


メル:

「きゃあ!!」


ゼファ:

「メル!!」


叩きつけられた手の勢いで

地面が割れ、隆起し

辺り一面が砂埃と土煙で覆われた


シュナイザー:

「ゼファ!メルちゃん!

二人とも大丈夫!?」


メル:

「あ…ぅ…」


ゼファ:

「う…ぐ…」


煙が薄っすらと晴れ、巨人の手と

瓦礫の下敷きとなっていたのは―――


メル:

「どうして…」


シュナイザー:

「まさか…ゼファ!?

おいしっかりしろ!!」


ゼファ:

「生き…てるよ…心配…すんな…」


息も絶え絶えで満身創痍のゼファ


メル:

「どうして助けたの…ゼファ…

私なんかの為に…こんな…」


シュナイザー:

「メルちゃん…」


ゼファ:

「メ…ル…」


メル:

「私なんて機械なのに…

戦争の副産物でしかないのに…!」


ゼファ:

「…同じさ…人も、機械も…

俺達は…何かの副産物なんかじゃねぇ…」


メル:

「ゼファ…―――!」


巨人の手が徐々にゼファにのしかかる

その重圧に身体中の骨が悲鳴を上げる


ゼファ:

「ぐぅ…ぐぁああああ!!」


メル:

「―――やめて…やめてぇえええ!!」


突如としてメルの身体が輝き

辺り一面が青白い光に包まれる


シュナイザー:

「ゼファ!メルちゃん!

通信機が…故障!?」


ヨウェル:

「なんと…あの”光”は…」


メルを中心として光が広がり、

その莫大なエネルギーで

首の装置は破壊され

粉々となって足元に転がる


ゼファ:

「メル…!お前…」


メル:

「思い出したの…

これが私の”チカラ”…

絶望を喰らい、希望を見出す

”革命”のチカラ―――」


脈動するように広がった光の中、

散ってしまった想いが集まるように

小さな光の粒がゆっくりと収束していく

近づく機械蟲達の光すら失われ、

光は新たなチカラへと生まれ変わる

それはまるで…”生命の奔流”


ゼファ:

「光が…集まっていく…」


メル:

「…大丈夫」


ゼファ:

「メル…?」


メル:

「私が…ついてる」


ゼファに寄り添い、

耳元で何かを伝えるメル


ゼファ:

「ッ!…あぁ、わかった…

一緒にやろう」


銃身が展開し、廃熱機構が剥き出しとなる

二人の指が銃のトリガーに添えられると

蓄えられていたエネルギーが迸(ほとばし)り、

バチバチと音を立てて電磁波が帯びて行く…

そして、紡がれる―――決意の言葉



メル:

「(同時に)”エクリプス”…」


ゼファ:

「(同時に)”エクリプス”!」



解き放たれた弾丸が強烈な光を纏い

一瞬で巨人の胸を貫いた

その圧倒的な破壊力に

巨体が崩れ、消し飛ぶ



【場面転換】帝國戦艦内司令室 16時44分PM

窓の外、光る球状のエネルギーと

そこから放たれた閃光を前に

一人呟くヨウェル


ヨウェル:

「―――”滅びの歌”…

やはりアレに託していましたか

”博士”もお人が悪い…」


部屋の中央、機械が取り付けられた

青白く光る装置に向かって話しかける


ヨウェル:

「ここは引くとしましょう…

あの範囲内では、私の身が持ちません

”今は”ね…ですが―――」


向き直り、歩き出す


ヨウェル:

「必ず手に入れますよ…

もうじきです…楽しみですねぇ」


暗がりに居る女性に話しかける


ヨウェル:

「”アナタ”も、そうは思いませんか?」


赤い瞳を持つ金髪の女性は、

その問いに答えず、ただ付き添う


ヨウェル:

「さぁ、行きましょう…

我々の理想とする”時代”を築く為に…」


そして二人は、扉の奥へと消えた

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