《第一章》 第二話
【プロローグ】
人類の文明は進化を続け、
その技術力を飛躍的に成長させた
だが同時に、環境汚染や資源の枯渇など、
自然への影響は深刻化し、
貧富の差による略奪や犯罪も比例して
増加の一途を辿っていった
そんな中で起きた大陸間による”世界戦争”
争いの果てに生まれる新たな恐怖と、
強大な”兵器達”…
東では海を引き千切るモノ
西では地を踏み砕くモノ
南では空を切り裂くモノ
北では光を飲み込むモノ
”四大兵器”と呼ばれるそれらは、
世界を破滅へと導いて行く
”発展”と”闘争”、
人類は変わらず悲劇を繰り返していた…
数十年の後、
世界を一変させる出来事が起こる
”オーバー・カタストロフ”(常識の崩壊)
神の怒りか、あるいは星の嘆きか
世界中の火山が噴火し、地表は割れ、
荒れた波が人類の築き上げた文明を押し流した
世界を破滅に導いた四大兵器さえその波に消え
降り注ぐ火山灰と吹き出す瘴気により、
世界は瞬く間に先の見えない深い霧に包まれた
太陽光はほぼ遮られ、動植物の八割が死滅
地上で生活する事は生物にとって困難となった
しかし、生き残った人類は
ある日”奇跡”を手に入れる…
火山灰に紛れて現れた小さな贈り物
”エナジー・ストーン”(原初の石)
適正の熱を加えれば数十倍から数百倍という
凄まじいエネルギーの蒸気熱を生み出すソレは
人類の希望の光となるのだった
コレを用いる事で訪れた新時代こそ
”高次元蒸気開拓時代”である
―――それから数百年の時が流れ、現代…
【場面転換】アジト 8時30分AM
ガスマントルの光が優しく照らす一室
壁伝に張り巡らされた鉄パイプから
片隅の装置に熱が送り込まれ
発生した蒸気により
フライパンの上の”ジャガーポテト”が
香ばしく蒸し焼きされている
それ以外の具材は、何も無い
ゼファ:
「えーーー!肉は!?」
シュナイザー:
「ある訳ないだろ?そんな高価な物…」
ゼファ:
「食ーいーてーぇーよー
なあーーーシュナイザーさんよぉ!?」
シュナイザー:
「無いものは無いよ…」
ゼファ:
「ぁああ岩トカゲの尻尾ぉおお!
卵でも良いからぁああ…」
シュナイザー:
「卵の方が貴重だよ…まったくも~
仕方ないだろ?
資金調達の為に採掘しに行ったのに、
誰かさんが
”採掘なんてしてたら間に合わねぇ!”
とか言って、
助けに飛び出しちゃったんだから」
ゼファ:
「…身体が勝手に動いちまったんだよ
良いだろ別に…あー…腹減ったぁ…」
シュナイザー:
「君はそういう奴だからね
…ま、それが良いんだけど(ボソリ)」
ゼファ:
「んぁ?なんっか言ったかあ~…?」
シュナイザー:
「気のせいじゃない?幻聴だよ」
ゼファ:
「俺も遂に年貢の納め時かぁ…」
シュナイザー:
「何処で覚えるのさ…そんな言葉」
メル:
「あ…あの」
助け出した少女…メルが、
部屋の奥の扉から顔を覗かせ
おずおずと二人に話しかけた
ゼファ:
「おっ!おはようメル!
よく眠れたか?」
シュナイザー:
「おはよう、メルちゃん」
メル:
「お…おはよ…ひゃっ」
ゼファ:
「あ!おいこら”ルーツ”!」
突然、扉の横から大きな手が伸びて
メルを確保、掌に乗せてゆっくり立ち上がる
ソレは全長三メートル程ある…ロボット
シュナイザー:
「ルーツ、だめだぞ!
メルちゃんはお客様なんだから
もっと優しくしなくちゃ…」
メル:
「え…と…この子は…?」
ゼファ:
「ソイツはルーツって言って―――」
シュナイザー:
「蒸気駆動式機械人形”スチームドール”
名前はルーツ…僕が造ったんだ」
ゼファ:
「疲れて眠っちまったメルを運んだのも、
そのルーツなんだぜ?」
メル:
「そうなんだ…」
シュナイザー:
「ルーツ、メルちゃんを降ろして?」
指示を受け、抱きかかえたメルを
ゆっくりと床に降ろすルーツ
メル:
「…ありがとう…ルーツ」
シュナイザー:
「よしよし、良い子だねルーツ」
命令通りにメルを離し、
しゃがみ込むのを確認してから
満足そうにルーツの頭を撫でるシュナイザー
ゼファ:
「シュナイザーは親バカだなぁ?」
シュナイザー:
「そーゆー君こそ、
ルーツが初めて自立歩行に成功した時は
涙流してたくせに」
ゼファ:
「あ、あれは…違げぇよ」
メル:
「…造れる人、沢山居るの…?」
ゼファ:
「ん-どうだろうなぁ?
シュナイザーは”特別”だからな」
メル:
「…すごいね、シュナイザー…」
シュナイザー:
「まぁね~?」
カーテンの掛かった広い窓に近づくゼファ
ゼファ:
「俺達の街には職人が多くてな?
才能がある奴は技術者として、
力がある奴は採掘者として
それぞれの環境で育つんだ…
んで、自作した物や掘り当てた物なんかを
売ったり買ったりして暮らしてるのさ?
もっとも、俺達は探求者になったから
もうすぐこの街を出ちまうけどな…」
閉ざされたカーテンを開けるゼファ
そこから見える景色に息を呑むメル
メル:
「わぁ…」
ゼファ:
「ようこそ、メル
鋼の峡谷(きょうこく)…”ベレヌス”へ」
眼下にあるのは夢のような世界
歯車が絶え間なく動き、複数の鉄パイプが
蒸気をありとあらゆる場所へと届けている
広場に聳(そび)え立つ時計塔を中心として
行き交う人々が街を彩り、活気付く
霧の掛かる断崖絶壁に広がった
鈍く輝く鋼の街並み…
ゼファ:
「…どうだ、俺達の故郷は?」
メル:
「綺麗…」
始めて見る光景に、
メルは胸をときめかせる
シュナイザー:
「反応を見るに、
街の子じゃないみたいだね…」
ゼファ:
「なんとなく、そうだとは思ってたさ?
こんな可愛い…」
シュナイザー:
「ん?」
ゼファ:
「いや、なんでもない…にしても、
どっから来たのかも忘れちまってたか…
あ、そうだシュナイザー、地図あったろ!
アレ見せたら何か思い出すかも?」
シュナイザー:
「それもそうだね、
メルちゃん、こっちに来てくれる?」
メル:
「…?」
シュナイザー:
「四大陸には資源や技術力で
一番発展した代表的な場所があるんだ
この地図で言うと―――」
向かった先、
シュナイザーが指を差したのは
壁に飾られた大きなボロボロの世界地図
メル:
「これが…世界…」
シュナイザー:
「此処、鋼の峡谷ベレヌスがある
東の”ディアン大陸”
城塞都市ケルヌーンがある
西の”ゴブニウ大陸”
天空要塞マクリヴがある
南の”リィル大陸”
そして、軍事国家クロム帝國がある
北の”オグマ大陸”…」
メル:
「…広い」
ゼファ:
「別に無理に覚えなくったっていいぜ?
ややっこしいしな…
俺なんか覚えるのに一週間はかかった」
シュナイザー:
「…僕は一日で覚えたよ」
ゼファ:
「このガリ勉」
シュナイザー:
「脳筋」
ゼファ:
「んだとくすぐるぞっ」
シュナイザー:
「やめろぉ!」
メル:
「ふふ…」
ゼファ:
「で、どうだ?なんか思い出せそうか?」
メル:
「ううん…ごめんなさい…」
ゼファ:
「そ、そっか…そうだよな?」
シュナイザー:
「謝らないで?焦らず、一歩ずつだよ?」
ゼファ:
「そうそう!地道に行こうぜ?
細かい事は気にすんなって!
笑ってりゃあ何とか成る!」
シュナイザー:
「…君はもっと気にした方が良いと思うよ」
ゼファ:
「ぁ?なんか言ったか?」
シュナイザー:
「気のせいじゃない?幻聴だよ、幻聴」
ゼファ:
「そうかぁ?アレ、なんか…
さっきもこんな会話したような―――ウッ」
急に片膝を着いてしゃがみ込むゼファ
シュナイザー:
「どしたのゼファ?」
メル:
「…大丈夫?」
ゼファ:
「腹…減…った…」
シュナイザー:
「も~…大げさなんだよ君は」
メル:
「…ふふふ」
シュナイザー:
「メルちゃんも、食べるよね?」
メル:
「…うん!」
ゼファ:
「肉が無くても良い…
だから…ありったけを…!」
シュナイザー:
「わかったから席に座りなよ…」
普段は二人の空間で、
はじめて三人…机を囲む
いつもに増して賑やかな、
ちょっぴり遅めのモーニング―――
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