第16話


「いや、シフォンの魔術も十分凄いと思うが」

「お気遣い感謝致します」

 シフォンが微妙に曇らせた表情を元に戻し、フィルリークに向け一礼をする。

「いや、そう言う訳じゃ」

「失礼したしました。フィルリーク様、ピース王女がわたくし達との対話を望んでおります故、ピース王女の元へ向かいましょう」

 フィルリーク達は、ピース王女が出す指示の下対話を行う為の場所へ向かった。

 フィルリーク達が念話にてピース王女の出す指示に従い辿り着いた場所はセントラルジュ城の内部にある応接の間だった。

 応接の間は、8坪程の広さであり中央には大理石で作られたテーブルが配置されている。

 その周囲に配備される椅子も同じく大理石製であり高級感を漂わせている。

 また、高さがある天井の中心部より豪華なシャンデリアが吊るされ、壁には絵画が飾られており、この応接の間は高貴な相手との対話に使われる事が伺われる。

「ミィル! ミィルなのか! もうアルテイシアの加護を受けられたのか!?」

応接の間に入るや否や、応接の間の中で自分達を待っていたピース王女を見たフィルリークが目を輝かせながら大きな声を出す。

「申し訳ありません、私はミィルと言う御方では無くピースです」

 フィルリークの勘違いに対し、ピース王女は柔らかな笑顔を見せ優しい口調で返事をした。

「そ、そっか、すまねぇ、あまりにもミィルそっくりで、俺はフィルリークだ。宜しく頼む」

 フィルリークがピース王女を見た瞬間に勘違いした通り、ピース王女とミルティーナの容姿は非常に酷似していた。

 二人共、鎖骨辺りまで伸びた流れる様な美しい黒色のストレートヘアーをし、清楚な雰囲気を出す美人である。また、背丈や体格も細身で長身と身体的特徴も酷似しているのであった。

 辛うじて二人の違いを探すとすれば、やはりピース王女は王族であるが故に身にまとう衣服が高貴である事位であろう。

 それ位に、ピース王女とミィルティーナの外見は酷似していたのである。

 また、フィルリーク自身二度とミィルティーナに会えないものだと割り切っていたのであるが、深層心理上存在するミィルティーナへの気持ちまでは隠し切る事が出来なかったのか、フィルリークがミィルティーナと再会した気持ちがあふれ出し抑えきれ無かった様で思わず声を、しかも大きな声を出してしまった様だ。

 その様子から、フィルリークが密かに持つミィルティーナへの想いに気が付いたシフォンはナナリィ王女には、まず勝てないライバル現れたと思ったのであった。

 また、ナナリィ王女がフィルリーク争奪戦にまず勝て無さそうであるが故にシフォンは妙にナナリィ王女の恋路を応援したい気持ちになっていたのである。

「ピース王女。申し訳御座いません」

 フィルリークが無礼を働いたと判断したシフォンは彼の代わりにピース王女へ謝罪をする。

「いえ、御気になさらず」

ピース王女は二人に向け笑顔を見せると椅子に座る様促した。

 それを見た二人は、ピース王女に促されるまま椅子へと座ったのである。

「改めて、お久し振りで御座いますピース王女」

「こちらこそご無沙汰しております」

「セントラルジュにて問題生じている問題とはどのような事が御座いましょうか?」

 今回対話を行う目的を、シフォンは先の念話にてピース王女より伝えられていたのだろう。

 シフォンはピース王女に対し、直接尋ねた。

「シフォン様。私の妹パルフェについてご存じでしょうか?」

「ええ、ある程度は。聡明で美人なお方でありますが、心の奥底に野心が灯っているお方と認識致しています」

 シフォンはピース王女に向け自らが得た情報を元に分析した結果、イメージされるパルフェ王女の説明をした。

「流石は魔聖将ですね、鋭い観察眼をお持ちと思います」

「いえ、この程度容易い事で御座います」

 シフォンは謙遜の意を示し、ピース王女に向け座礼をした。

「シフォン様が推察される通り、私の妹パルフェは密かに野心を抱いております。パルフェは神聖魔法の才能は無いのですが、代わりに邪術の才能が有ります。その才能に目を付けた邪教徒の人間達がパルフェとコンタクトを取り、水面下で邪術を駆使した大陸の征服を目論んでおります」

 だから、神聖魔法が主体であるこの街でそのイメージとは真逆である黒塗りの建物があったのだろうか。

「邪教徒か、奴等は面倒だ」

 フィルリークは以前の世界で敵として対峙した邪教徒集団の事を思い返しながら言う。

 その時の邪教徒は魔族の味方をし、死者を操り魔物と共に襲撃し撃退をしていた。

 彼等が使役する大量のアンデッドを討伐し、ネクロマンサー自身を説得、或いは武器を取り上げた後、ミィルティーナによる強力な神聖魔法の力で邪に堕ちた精神を浄化し正気に取り戻す等、彼等の命を奪う事無く邪教徒に対する問題を解決したのであった。

「彼等を討伐した経験があるのですか?」

「討伐した事は無いが、組織を解散させた事はあるな」

「まぁ、心強いお言葉ですね」

「あ、ああ、まぁな」

 フィルリークは照れ隠しの為、頭を掻きむしながらピース王女との視線を少しばかり外しながら返事をする。

 ナナリィ王女から褒められた時と違い、ピース王女の褒め言葉は素直に受け止めている事からフィルリークがミィルティーナに対し意識している感情が影響しているのだろう。

 フィルリークが抱いている心情が手に取る様に分かっているシフォンは、クスッと小さく笑って見せフィルリークの様子をじっくりと観察しているのであった。

「現在邪教徒による表立った動きはありません。しかし、表立って我が国に危害を加えている事実が無い今、邪教徒達は1つの宗教を信仰しているとされ活動を停止させる事は出来ません」

「もしも、邪教徒が動き出すとするならば我々魔族を撃退し、モスケルフェルトとマシンテーレが結託しセントラルジュに攻め込んだ辺りで御座いましょうか?」

「ええ、シフォン様の言う通り私も邪教徒が動き出すならば同じタイミングか、若しくは魔族を撃退する直前が怪しいと思います」

「万が一、邪教徒達が不穏な動きを見せるようでしたらわたくしにご一報下さいませ。可能な限り援護致します故」

「御好意感謝します」

 シフォンの打診に対しピース王女は立ち上がり一礼をする。

「この世界の崩壊を阻止する為であります故。わたくしの方からは、神聖魔法の使い手を欲する時はお願い致します」

 それに対し、シフォンも立ち上がり同じく一礼で返す。

「ええ。表立って送り込む事は出来ませんが、その時は私が管轄しているプリーストを送り込みたいと思います」

 ピース王女は柔らかい笑みを見せシフォンに返事をした。

「有難う御座います。それではわたくし達は一度魔王城へ帰還致します」

「はい。ご来訪有難う御座いました」

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