第15話

「はい。しかと心得ております」

 ナナリィ王女の言う通り高い攻撃力を持つ魔法、つまりは長い詠唱時間を必要とする魔法は剣士と言った前衛の人間が敵の攻撃を引き受けてくれなければ発動する事が出来ない。

 ほぼ無詠唱で高威力の魔法を連発できるフィアやムリンの技量が異常に高いだけであり、魔族であれ一般的な魔法を扱う者は高い攻撃力を持つ魔法を放ちたければ長い詠唱時間を必要とするのである。最も、魔族軍は前衛を務め上げられる者も十分に居る為マギーガドルが抱えている問題は0に等しいのであるが。

「一番大事なのは、この世界を壊さない事だからね。だから、この世界を壊さない考えが一致する魔族サンと組むのが一番なんだ」

「仰る通りで御座います。わたくしとしても無駄な殺戮は望んでおりません故。しかしながら、わたくし達と同盟を結んでも尚問題点は残ります」

 今の話はあくまでマギーガドル側が前衛を確保する事で戦力が最大限の性能を発揮出来るだけである。

 マシンテーレのアンドロイドが子供魔族を襲った際に使用し一瞬で子ども魔族を焼失させたレーザーガン、それの威力は凄まじい上に魔法と違い詠唱時間を必要としない上遠距離からも攻撃が出来ると言う凄まじい性能を誇る武器を持っている。

 魔族軍やマギーガドルでも同等の芸当を出来る者もいるが、それは将菅クラスと限られた数でしかない。

 アンドロイドみたく、ほぼ一般兵にも関わらずそれだけの攻撃性能を持つとなると単純に同じ攻撃性能を出せる兵士の数で負けてしまう事になる。

「そうなんだよ。マシンテーレのアンドロイドさん達の前じゃセントラルジュの人達から防御力や魔法防御力を上昇させる魔法を使って貰えても耐える事すら難しいんだ」

「それ故、大衆はモスケルフェルトとマシンテーレの味方になる事を望むので御座いましょう」

 シフォンの言う通り、一般大衆の多くは目の前の敵を誰にしどうするかだけを考える、短絡的な考えならば自分達が必要とする前衛能力を持つ上に圧倒的な攻撃性能を誇る者を味方につけるべきと考えるだろう。

「でもさ、仮にボク達人間が魔族サンを滅ぼすでしょ? でも、そうしたら次はボク達やセントラルジュの人達が狙われちゃうんだよね」

「でしょうね。世界を崩壊の危機に近付けさせる行為ですら己のエゴの為に実行し続ける身勝手な人間が別国家の人間を滅ぼそうと考えない可能性は低いでしょうから」

 シフォンの言う通り、野心に溢れた人間が考える事は自分達の国家が大陸を、ゆくゆくは世界を支配する事だろう。例え自国民以外を虐殺したとしても。

「だからボクは魔族サンと上手くやる方法を模索してるんだけど、でも、ボクの力じゃ大した出来ないんだ。王女サマなのにね」

 ナナリィ王女は悔しさを隠そうと乾いた笑いを見せる。

「それはわたくしも同じで御座います。王女とは所詮権力があるだけで一人の力では何も出来ない無力な存在で御座います」

 シフォンは姉であるフィアを思い浮かべ、1人で戦う事に拘らず仲間と戦えば更に高い戦果をあげられると思いながら述べる。

「そう言うモノなのか? 俺の世界の王女様はあらゆる物事は自分のお陰と考える様な連中ばかりだったな」

「そうなんだ。あ、でも、マシンテーレの王子はフィルリークさんが言う様な人かな?」

 ナナリィ王女は、マシンテーレのリチャルド王子が見せる傍若無人振りを思い出しながら言う。

「やはり。世界の破壊に関して何も考えない連中ならばそんなもんか」

「仰る通りで御座います。その王子のせいか、マシンテーレは我々魔族を滅ぼした後他国の人間を奴隷として確保、不要な人間は全て虐殺する方針であると耳にした事も御座います」

「その話、ボクも噂で聞いた事あるよ」

「本当なのか?」

 マシンテーレに対する噂を聞いたフィルリークは心の奥底から湧き上がる怒りを抑えながらも二人に尋ねる。

「あくまで噂の範疇で御座いますが、マシンテーレの野心、リチャルド王子の性格を考慮致しますと噂が真実である可能性は向上致します」

「そうか」

 人間とは、アルテイシアが言う通り愚かな面もあるのだろうと思い知らされたフィルリークは自分の正義との迷いを隠し切れず小さく返事をした。

「ね、フィルリークさんは何処の出身なの?」

「ああ、それは」

 フィルリークがナナリィ王女に返事をしようとしたところで、

「フィルリーク様はわたくし達が異世界より召喚を行った勇者で御座います」

 シフォンでなく、フィルリークに説明をして欲しいと思っていたナナリィ王女は少しばかりムスッとした表情を見せ、

「ゆうしゃ? 王子様じゃないの?」

「はい。世界の平和を導く事を使命とした御人で御座います」

「へー、やっぱりカッコイイ人なんだね!」

 ナナリィ王女はニコっと笑顔を見せ、フィルリークの顔をじぃーっと見つめる。

「気のせいじゃないのか?」

 自分の容姿を特別良いと思っている訳ではないフィルリークは、やはりナナリィ王女の誉め言葉を受け流す。

「あはは。気のせいじゃないよ」

気のせいじゃない事を証明する為か、ナナリィ王女はフィルリークにウィンクをして見せた。

「そ、そうか」

「そ、そ。あはは、平和になったらボクが迎えに行くからね☆」

 ナナリィ王女はニコッと悪戯っぽく笑って見せた。

「いや、それは」

 この世界に平和が訪れた時、フィルリークはまた別の世界に行かなければならない。

 ナナリィ王女の真意は兎も角、それ故にフィルリークはナナリィ王女に対して曖昧な返事をする事しか出来なかった。

「それではフィルリーク様。わたくし達はセントラルジュへ参りましょう」

 ナナリィ王女との対話が一段落した所でシフォンが切り出した。

「あれ? もう行っちゃうの?」

 それに対しナナリィ王女が少し寂しそうな表情を見せる。

「はい、今回はフィルリーク様にこの世界の案内を致してます故、セントラルジュの紹介も必要で御座います」

 ナナリィ王女に対し、シフォンが退席の説明をするが。

「むぅ~セントラルジュのピース王女サンってボクと違って大人しめで清楚で美人なんだよ」

 ピース王女にフィルリークを取られてしまうのが嫌と言いたそうなナナリィ王女である。

「仰る通りで御座います。しかしながら、ナナリィ王女の明るく元気で活発な性格は男性陣にとって魅力的であると存じ上げます」

 ナナリィ王女が勢い余り壁にぶつかってしまうと言う少々ドジな面がある事を言わなかったのはシフォンのナナリィ王女に対する気遣いだろう。

「あはは? そう、そうだよね? やっぱボクも負けてないんだね?」

 フィルリークと違い、自分に対する誉め言葉を素直に受け取るナナリィ王女。

「それでは改めて、わたくし達はセントラルジュへ向かいます」

「うん、またね。今度来た時はマギーガドルの街を観光させてあげるよ」

「はい。その時は宜しくお願いします」

 シフォンは、ナナリィ王女に一礼すると転移魔法を発動させフィルリークと共にセントラルジュ城下街へ転移した。

 セントラルジュの街並みもまた、マギーガドルの街並みと似た様なモノであった。

 それでもマギーガドルとセントラルジュの違いを述べるとするならば、マギーガルドは建物のカラーリングが地水火風の基本4属性をイメージさせる、茶色、水色、赤色、緑色の建物が多かったが、セントラルジュでは神聖魔法のイメージを彷彿とさせる白色の建物で溢れていた。

 時折黒色や灰色の建物も存在していたが、これらは個人の趣味の範疇だろうと考えられるが、もしかしたら何か特別な趣向もあるかもしれない。

「ここも水面下では俺達の味方なんだよな?」

「はい。セントラルジュの方々は、マギーガドルの方々と比べ我々魔族に対し有効的な者は多くおります。詳しい理由は分かりませんが、セントラルジュの方々は攻撃能力をあまりお持ちにならない点からだと推測されます」

 シフォンの推測は概ね合っている。しかし、実はセントラルジュには少なからず邪教徒が存在している為、彼等の影響もセントラルジュの人々が比較的魔族と友好的である理由の一つとなっている。

「あれは? 魔族か?」

「その様で御座います」 

 フィルリークは、マシンテーレやモスケルフェルトを案内された時と同じく、ここセントラルジュの城下街内にも魔族が居る事を発見した。

「通行人と談笑している様に見えるな」

 先の2国と違い、この街に居る魔族は通り掛かった人間が魔族に襲い掛かる事も無く井戸端会議の様に談笑していた。

 シフォンが言った通り、この街の人間は魔族と友好的である事の証明であると伺える。

「平和な町並みが何よりで御座います」

「全ての国がこうだと良いんだけどな」

 フィルリークは青空を見上げながら呟いた。

「フィルリーク様。どうやらピース王女に探知された様です」

 ピース王女から念話を受け取ったシフォンがフィルリークにその旨を告げる。

「探知? ピース王女はそれだけの使い手なのか?」

「恐らくピース王女の扱う神聖魔法にその様な魔法が御座いましょう」

「へぇ、そいつは大したものだな」

 一国の王女が持つ強力な魔術に対しフィルリークは感心する。

「わたくしの気配消失魔術が未熟故、申し訳御座いません」

 シフォンは、普通の人が気付かないレベルで微妙に表情を曇らせながら言う。

 シフォンは負の感情を表に出さない様心掛けているが、内心は自分の魔術が打ち破られる事が許せないのだろう。

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