第14話

「フィルリーク様。不穏な気配を探知致しました」

 ふと、シフォンが緊迫した声でフィルリークに告げる。

「不穏? 確かに強力な気配がするな」

 フィルリークが返事をした刹那、遥か彼方より疾風の如く駆け付けた何者かが4体の魔族に近付いたかと思えば、剣による鋭い突きを繰り出し魔族達の急所を的確に貫いた。

 急所を貫かれた魔族達は一瞬にして絶命、その場に崩れ落ち、倒れ伏せた。

「細かい事は後程説明致します!」

 シフォンは転移魔法を使い、フィルリークと共に別の場所へ転移した。

 シフォンの転移魔法により転移した先は、魔法国家マギーガドル城下街の上空だった。

 マギーガドルの街並みも基本的にはモスケルフェルト城下町のモノと同じであるが、街道脇に建てられている街灯は球状の宝玉が使われており街に建設されている魔導プラントより魔力を供給する事で発光させる、マギーガドルの特徴とも言える設備があった。

「先程は失礼いたしました」

「あ、ああ、取り乱しているみたいだが、一体何だったんだ?」

「はい、先程の者はブラッツ王子で御座います。彼はわたくしの気配消去魔法を通り越し気配を探知する事が可能で御座います。それ故にブラッツ王子に気付かれる前に転移いたしました」

 シフォンが乱れた脈拍を整えるべく、1つ深呼吸をしフィルリークに説明をした。

「そうか。しかしアレ位の速さならばいい勝負が出来そうだったな」

「それは頼もしいお言葉で御座います。しかしながら今のわたくし達はあくまでフィルリーク様にこの大陸にある街を紹介しているだけに過ぎません。ですが、ブラッツ王子からすれば自国の情報を入手せんと企てるスパイと思われる危険があります。非常に高い確率で仲間への伝達がなされ数の暴力で負けてしまう事になります。転移魔法で離脱するにせよ、わたくし達がモスケルフェルトに居たという情報によりよからぬ作戦を立てる可能性も御座います」

「少し残念だが仕方無いな」

 フィルリーク自身強敵との戦いを好む傾向があり、出来る事ならばブラッツ王子と対戦したいと思った。

「フィルリーク様、何者かがこちらに向かっております」

 特に敵意を示す気配で無いのか、シフォンは少々不思議な顔を浮かべながら何者かの行く末を見守る。

「あれか? 真っ直ぐ俺達の所に向かって来てるな、このままではぶつかるぞ」

「その様で御座いますね」

フィルリークとシフォンは、猛スピードで自分達に向かって来る何者かの射線から外れる様に少しばかり移動した。

「わーーーーっ! こんな空中に人が居るなんて聞いてないよっ!!!!」

 ほうきにまたがり猛スピードで突っ込んで来た何者かはギリギリの所でフィルリークの存在に気付き慌てて回避を試みるが失敗、さらに減速も上手く出来ず5階建ての建物の壁に激突し近くにあった家の屋根に落下してしまう。

「ナナリィ王女ですね。気配を消し滞空していたわたくしに責が御座います故治療を施しに参りましょう」

フィルリークとシフォンは、屋根の上で頭を押さえ蹲っているナナリィ王女の元へ向かった。

「申し訳ございません」 

 シフォンは、頭を押さえうずくまっているナナリィ王女に向け治療魔法ヒーリングを施した。

 淡く白い光がナナリィ王女を包み込み、暫くすると壁に激突した際の痛みが引いたのかナナリィ王女はゆっくりと立ち上がりシフォンを睨みつける。

「もうっ! 酷いじゃないか! 空に居るならせめて気配は消さないでよね!」

 ナナリィ王女は、ムッっとした表情でシフォンに当たり散らすが隣に居るフィルリークを見た所で少しばかりムッとした表情を緩めた。

「申し訳御座いませんナナリィ王女。わたくしの不手際で御座います」

 シフォンは、ナナリィ王女に丁重な一礼を見せ詫びる。

 ナナリィ王女は、コホンと咳払いをして、

「あ、シフォン王女だったの? マギーガドルの調査ならし、仕方無いよ」

ナナリィ王女は視線を泳がせ、フィルリークをチラチラ見ながら、

「シ、シフォン王女サンもお忍びで、でぇとも必要だもんね?」

 と言うナナリィ王女であるが、それが真実であって欲しくない気持ちを持っている様にも感じられるのか、フィルリークをチラチラ見ては視線を外す行為を繰り返している。

 ナナリィ王女の様子から全てを察知したシフォンはクスッっと笑って、

「御安心下さいませ、フィルリーク様とその様な事は御座いません」

 シフォンの言葉を聞いたナナリィ王女は、パァッと顔を輝かせてシフォンの手を両手で握り、

「ホ、ホント? こんなカッコイイ人がフリーなんですか!」

 ナナリィ王女がにこにこしながらフィルリークを見つめる。

「カッコイイ? 誰がだ?」

 自分の目の前に居る女性からにこにこ笑顔で見つめられているにも関わらず、フィルリークはその言葉を掛けられたのが自分だという事を自覚出来てない様だ。

「えへへ。謙遜しちゃうだね? 素敵だよ♪」

 フィルリークを理想の王子様と思うナナリィ王女は、フィルリークの胸元辺りに抱き着いた。

「な、何だ!?」

 突然の出来事に、フィルリークはナナリィ王女を振り払おうとするが、

「ふふーん、好意のアピールだよ☆ ライバル多そうだから強気にいかなくっちゃ♪」

「好意のアピール? 俺に? 俺は何もしてねぇぞ?」

 フィルリークは、初対面の女性からいきなり好意を持たれた事に対して強く困惑している。

「フィルリーク様は意外と罪深き殿方で御座います」

 シフォンはフィルリークが女性に対して鈍いと思い、クスッと笑いその様子を傍観している。

「お、おい、止めてくれねぇのかよ!?」

「出来る事でしたらこのまま傍観したいところで御座いますが、野次馬が集まっておりますね」

「ムムッ、みんな空気読んでよ」

 シフォンが言う通り、こんな白昼堂々民家の屋根の上で男女が抱き合っていれば誰だって気になり注目するだろう。

 気付いている者が何人いるか分からないが、それが自国の王女なら猶更だ。

 シフォンに指摘されたナナリィ王女はフィルリークから離れ、「ちょっと待ってて」と告げると自分が壊した建物の修繕に対する交渉へ向かった。

 しばらくした所で交渉を終えた、ナナリィ王女がフィルリーク達の所へ戻って来た。

「アンタ王女サマだよな? 妙に律義だな」

 フィルリークが元居た世界の王女と言ったら我がままで横暴な人間しか浮かばず、恐らく彼女達ならば同じ事をしても家主に対し適当に有耶無耶にする姿しか予想が出来なかった。

「ふぁい? ボクが壊したんだから当たり前だよ?」

 フィルリークの問い掛けに対し、ナナリィ王女は目を丸くしキョトンとしている。

「そ、そうか、そうだよな俺が住んで居た世界の王女サマとやらが可笑しかっただけか」

「住んでた世界?」

 自分は異世界の人間とでも言いたげなフィルリークに対してナナリィ王女がオウム返しをする。

「では、ナナリィ王女。人の居ない場所に向かいましょう」

 少なくともフィルリークに付いての詳細情報をナナリィ王女は兎も角大衆に聞かれる事は不利益になると判断したシフォンは意図的に話の腰を折り、移動の提案をした。

「そうだね、ボクはキミ達とお話したい事があるんだ。お話出来そうな場所に案内するよ」

 シフォンの意図を汲み取ったナナリィ王女は提案に賛同し、対話用の場所へ向かい案内をした。

ナナリィ王女に案内された先は、マギーガドルの北西部に位置する人気の無い開けたエリアにポツンと建てられた小屋だった。

この小屋は、レンガで作られた1階建ての小屋であり大きさは5坪程だ。

小屋の扉を開け、中に入ると中央には木製1.5M四方で四角のテーブルがあり周囲には8人分の同じく木製の椅子が並べられていた。

 フィルリーク達は、ナナリィ王女に勧められ椅子に座り続いてナナリィ王女自身も椅子に座った。

「ボク達マギーガドルの方針なんだけど。セントラルジュのみんなとおんなじで魔族サンたちと敵対したい訳じゃないんだ。でも、モスケルフェルトやマシンテーレの人達みたいに近接戦闘に強い武力を持っていないボク達は彼等に従うしか無い。悔しいけど、ボク達魔法使いは前線で戦ってくれる人達が居ないと持ってる力通り戦えないから」

 ナナリィ王女は力の足りなさを不甲斐なく思う悔しさを堪えながら唇を噛み締めている。

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