第13話

しかし、指先が僅かに上下している事からまだ生きてはいる。

子供魔族が動けなくなったところを、3人目の人間が子供魔族の頭部を目掛けハンドガンで銃撃を仕掛ける。タン、タンと火薬が弾ける音が響くと銃から発射された弾丸は子供魔族の頭部に命中し、子供魔族の脳髄を爆散させた。

 幾ら魔族と言えど頭部を爆散させられてしまっては即死だ。

子供魔族の命を奪った4人組は、その魔族の死体から所持品を奪い取り、更に爪や翼辺りで使えそうな武威を剥ぎ取ると、1人目の人間がレーザーガンを取り出し子ども魔族の死体に向け発射し、その死体を跡形も無く焼失させたのであった。

「チッ、これが人間のやる事なのかよッ!」

 目の前で行われた残虐非道な行為に対し、フィルリークは思わず声を荒げた。

 一見すれば魔族を人間が打ち倒したかのようにも見えるが、そんな事よりも幼き魔族相手に4人の大人が囲い強盗行為を行った事に対してフィルリークは激しい憤りを覚えていた。

「この様に、弱者であろうが平気で多人数で囲い込み平気で虐殺を行う人間達は下劣な存在と思いませんでしょうか?」

「そうだ、アンタの言う通りだ」

 シフォンの質疑に対しフィルリークは、この世界の人間は悪党なのだろうと判断を下す。

 だが、何か迷いがあるのかその言葉に強さを感じられない。

「フィルリーク様の世界では、集落に迷い込んだ他民族は問答無用でその命を奪う事は当たり前で御座いましたか?」

 シフォンはフィルリークが抱いている迷いを断ち切る為言葉を加える。

「いや、そんな事は無い」

 シフォンに指摘されフィルリークは、やはり今の4人の人間が異常であるという考えを抱く。

「今回の件だけで自身に対する人間達への葛藤が消えるとは思いませんが、僅かながらでもその葛藤が消えれば幸いであると存じ上げます」

 シフォンはフィルリークに詫びるかの様に一礼をする。

「いや、別にそこまで畏まらなくても良いが、アンタ王女だろ?」

「いえ、わたくしは王女でありますが魔聖将も兼ねております故」

 そっと笑みを浮かべながら返事をするシフォン。 

「そ、そうか、そういう事ならそうするしかねぇな」

「はい。マシンテーレは概ねこの様な感じです。続いて武力国家、モスケルフェルト国へと参ります」

 シフォンは転移魔法を使い、フィルリークと共にモスケルフェルト国城下街の上空へと転移した。

「ここがモスケルフェルトか? 俺が知っている街並みと変わらねぇな」

 モスケルフェルトの街並みを見たフィルリークが呟いた通り、モスケルフェルトの街並みはマシンテーレ国の様な機械染みた景観では無く、レンガ造りの建物が並び道路もまた石により作られており石材をベースとして作られたフィルリークがよく知る街並みであった。

 また、道の脇には丁寧に整備された花や木が植えられ、露店商が商売を行っており人々の活気にも満ちていた。

「仰る通り、この街はこの世界での一般的な街並みをしております」

「そうか。この国の兵はどうなんだ?」

「はい。この国の兵は主に魔法が不得手ですが、武器を扱う事に長けている戦士達が集まっております。わたくし達魔族からすれば大した事は無いので御座いますが、幾分戦士達の数は多く、物量で押すという戦術を持っております」

「物量が問題なのか?」

 フィルリークは、今まで魔族や魔物相手の戦いで仲間達の補助魔法を受けブレイバーモードへ変身すれば多数相手でも特に苦戦した覚えのない為、シフォンが物量で押す戦術を問題視した事に対し違和感を覚える。

「はい。一般的に1対2の状況で1側が勝つ為には相手の4倍の実力が必要になります。1対3でしたら9倍、1対4でしたら16倍と言った感じで、少数側は非常に勝利が困難になります」

「それは知らなかったな」

「それだけフィルリーク様がお強いので御座いましょう」

 シフォンよりスッと褒められたフィルリークは指で頬を掻き少し照れている仕草を見せた。

「シフォン、あれは?」

 ふとフィルリークが地上に目をやると、路地裏付近にてマシンテーレと同じく人間達より魔族が襲撃されようとしていた。

 マシンテーレの時とは違い、生体の魔族が4体に人間は3人と数だけで言えば魔族の方が優位で、人間側は革製の防具に身を纏った剣士の様だ。

 防具から見るに、彼等が持つ剣は恐らく鉄製と言った安価な者だろう。

 フィルリークの経験上、鉄製の武器で魔族の皮膚を貫くには相当な筋力が要る。

 ぱっと見襲撃を仕掛けている剣士達は筋肉自慢には見えず、魔族に打ち勝つの難しそうだ。

 数の差を含め、魔族達が人間達を迎撃出来る可能性は高いだろう。

「恐らくモスケルフェルトの情報収集を目的とした者でしょう。人間達に見付かってしまった事は情けなくありますが、万が一彼等の命が危うくなった時はわたくしが救援に向かいます」

「ああ、そうだな」

 フィルリークも目下の魔族達が対峙した人間達に負けるとは思わなかったのかシフォンの意見に賛同し彼等の様子を上空より伺う事にした。

 人間達の襲撃を受けた魔族達の迎撃戦、人間の1人が1体の魔族の攻撃を受け、重傷を受けた。

 この際、魔族は人間からの反撃を胴体に受け、剣による斬撃を受け、傷口からうっすらと血が流れだす。

 と流れ出る血がゆったりとしている所から傷は浅そうだ。。

 残り2人の人間達が、重傷を負った仲間の盾になる様に立ち塞がる。

 彼等は勇敢なのか、今まで魔族の討伐を楽にこなして来たからなのかあまり悲壮感をだしていない。

 今しがた重傷を受けた仲間は、偶々当たり所が悪かったと考えている様に見受けられる。

 このままの流れが続くならば、魔族達は人間達の迎撃に成功するだろう。

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