第11話

「マギーガドルとセントラルジュは弱いから後回しで良い訳だな?」

「いえ、実はマギーガドル国とセントラルジュ国の2国は表面上わたくし達魔族と敵対していますが、水面下ではわたくし達魔族と友好関係を築いております」

「どういう事だ?」

 この世界の人間は全て自分の敵であると覚悟を決めたフィルリークはシフォンの言葉を受け、戸惑いを見せる。

「マギーガドル国は、ナナリィ王女を筆頭に、セントラルジュ国はピース王女を筆頭に水面下でわたくし達と協力をしております」

「協力? つまりはその2つの国は俺達の味方なんだな?」

「左様で御座います。ただし、留意点が御座います」

「留意点?」

「はい。ナナリィ王女ピース王女共に、わたくしとお姉様の様に強い権限を持つ王女では御座いません。勿論高い権力を持っておりますが、自分達の考えと反対の考えを持つ者を動かす為には相当の労力が必要で御座います」

「実は大臣が国王よりも強い権力を握っていたとかそんな感じか?」

 フィルリークは、ある世界のある国では世代交代を行ったばかりの若き国王が先代国王に就いていた大臣に様々な国務を任せていた事を思い出す。

「その様な感じで御座います」

「分かった、留意しておく」

「フィルリーク様。傷の治療を施した後、4カ国の案内を致しますが宜しかったでしょうか?」

 この世界の説明を終え、フィルリークが自分に向けていた敵意が消えた事を確認したシフォンは本来の任務の遂行を始める。

「ああ、頼む。俺もこの世界の事を知りたいと思っていた所だ」

「承知いたしました」

 シフォンはフィルリークに向け丁重に一礼をし、治療術ヒーリングを施しフィアとの戦いで受けた傷を治療した。

 シフォンの手の平より発せられる白く淡い光を眺めながら、

(ミィル……)

 ふと、フィルリークは前の世界で魔物との戦いで傷を負う度に軽口と共に治療術ヒーリングを施された事を思い出す。

 勿論それ以前の世界でも女プリーストより治療術ヒーリングを掛けて貰った事はあるが、その事を思い出した事は一度も無かった。

 前の世界で仲間達との別れる前日、ミィルティーナより自分への強い想いをぶつけられた事でフィルリークの無意識下で彼女に対する感情が根付いているのかもしれない。

「フィルリーク様? どうかなされましたか?」

「いや、魔族って案外手が綺麗なモンだなって」

 ミィルティーナの事を思い返していたフィルリークは、それを悟られない様シフォンに対して適当な事を言う。

「お褒めに頂き光栄で御座います」

 フィルリークの言葉を嬉しく思ったのか、治療術ヒーリングによる治療を終えたシフォンがフィルリークに手の平も見せる。

 シフォンの手は魔族でありながらも白く美しい肌であった。

「あ、ああ。凄く綺麗だぜ?」

「フフ、御姉様には内密になされて下さいませ」

 シフォンはそっと笑みを浮かべた。

 シフォンが浮かべる柔らかな笑みは美しい人間の女性となんら変わら無かった。

 並の男性ならばその笑みを見ただけで思わず心を貫かれそうであるのだが、アルテイシアより平和の事しか考えていないと言われた通り、フィルリーク自身はシフォンが見せる笑みに対して特別な感情を抱いていない様であった。

「分かった、そうしておく」

「では、まずはマシンテーレ国へ参りましょう」

フィルリークは、何故フィアに内密にしろと言われたか理解出来ぬまま、シフォンが発動させた転移魔法にマシンテーレへと転移する事になった。

 

―マシンテーレ城内―

 

 この世界の原動力である中性魔マナニュートを浪費し将来的にこの世界を滅ぼす強い要因を作っている敵性国家マシンテーレ。

 マシンテーレ国は国王のダルドニアが統治しているのであるが、実はダルドニア自体己の肉体を磨き上げる事にしか興味が無く国家の運営は第一王子であるリチャルドを筆頭に、重臣達に全て任せていたのである。

 その様に半ば国政に無関心でいい加減に見える国王であるが、マシンテーレが産み出す歩兵用兵器ですら美しい肉体が全てをはじき返し、美しき筋肉による一撃は強固な装甲を持つアンドロイド兵ですら粉砕し、マシンテーレ内でダルドニア王に逆らえる者は誰も居なかった。

 現在マシンテーレでは、やや優勢程度に過ぎない魔王軍との戦いにて、更なる勢いをつけるべく新兵器の開発を行っていた。

 その新兵器とは、真神マシンと呼ばれる巨大な人型兵器だった。

 全長は凡そ20Mもあり、一般的な成人男性の約12倍程の大きさを誇る。

 主な武器は近距離用に金属製の剣、遠距離様に巨大な銃としており、一瞬にして複数の魔族達をせん滅する事が可能だ。

 しかしながら、これだ巨大な兵器であるが故に真神の動力源は膨大な中性魔マナニュートを消耗する事になっている。

 これにより、元々多くの中性魔マナニュートを消耗していたマシンテーレは更なる中性魔マナニュートを消耗する事となってしまった。

「真神の状況はどうなんだ?」

 真神の製造状況を視察しに来たリチャルド王子が、整備員に魔神の製造状況を尋ねた。

「はい、ほぼ完成です。後は試神による戦闘データを組み込めば我々が想定する通りの戦果が上がるでしょう」

 試神。真神の試作型であり真神に比べ小さく、全長は凡そ10M程である。それでも魔族達をせん滅するには十分な力を持っている。

「いいぞ、いいぞ、これで魔族共に一泡吹かせてやれるんだぞ! ぼくちんの活躍を見たピース王女もナナリィ王女もぼくちんにめろめろんいなるんだい!」

 セントラルジュのピース王女にマギーガドルのナナリィ王女を意識するリチャルド王子。

 リチャルド王子の身長は160cmにも満たず、チビと言う言葉がちらつく領域であり、その容姿も容姿端麗と言う言葉は程遠く、残念と言う言葉が似合いそうなレベルであった。当然、マシンテーレ城内で自国の王子をその様に侮辱する者はおらず、リチャルド王子自身は自分を他の王族同様に容姿端麗であり、少々背が低いがそれがチャームポイントと勘違いしている様であった。

「ですが、リチャルド王子様。1つ欠点があり真神は試神を遥かに上回る中性魔マナニュートを消耗してしまいます」

「そんな事どうでも良いじゃないか」

「しかし、精霊達より中性魔の使用を減らす様頼まれていると聞きます」

 整備員が言う通り、マシンテーレの中性魔マナニュート浪費はこの世界の精霊が止める様に懇願をしてた。

 その頼みを無視した結果、精霊よりマシンテーレの中性魔浪費を止めて欲しいと頼みを受けた魔族との争いへ発展したのである。

 それでも尚、マシンテーレは中性魔マナニュートを浪費する試神の製造、果てには更に中性魔マナニュートを消費する魔神の完成へとこぎつけたのである。

「精霊がなんだってんだい! ぼくちんが良いと言うんだから良いんだい! 大体なんでぼくちんだけが咎められなきゃならないんだい! この大陸以外にもぼくちんと同じ欲に中性魔マナニュートを浪費してる国は沢山あるんだい!」

 精霊よりも自分が正しいと主張するリチャルド王子。一見気質自体フィアに似ている気がするが、彼の言動があまりにも残念であるが故フィアとは違いカリスマ性は1ミリグラムも感じられない。

「わわわ、分かりました……。試神の戦闘データですが……」 

「そんな事ならぼくちんに任せろい」

 どんと胸を叩きながら得意気に言うリチャルド王子。こんな見てくれであるが人型機動兵器を操縦する技術はマシンテーレで一番だったりする。

 リチャルド王子は今までも、試神が完成する前の小型機動兵器に乗り込み多数の魔族を打ち滅ぼしたと言う戦果をあげていたりしているのである。

「ありがとうございます。リチャルド様の戦闘データがあればこれぞ完璧と言ったところです」

「わっはっは、ぼくちんにまかせろい! じゃあな、ぼくちんは他の事で忙しいからな」

 リチャルド王子は得意気に高笑いをし、この場を立ち去った。

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