第9話

「何を抜かす? 私は魔族だぞ? 人間の言う卑怯とやらは魔族にとって勝つ為に当たり前の事だ」

「チッ、仲間を巻き添えにしねぇ事は褒めてやるよ!」

「ハッ! 構えるだけかい! 上等じゃない! ならもう一度食らいなッ」

 フィアは、先程フィルリークから真っ二つにされた魔法をもう一度放つ。

 巨大な雷球がフィルリークを包み込まんと襲い掛かる。

 フィルリークの後方には多数のギャラリーがいる。

 フィルリークがこれを回避すればフ

ハーデスの指示により避難していたギャラリー達は、二人の技と技のぶつかり合いに感激し、大きな歓声を上げる。

「俺の技を相殺させるとはやるじゃねぇか」

 フィルリークとフィアの大技がぶつかり発生した衝撃波を地上でモロに受けたフィルリークが、肩で大きく息をしながら片膝を付き聖剣で今にも倒れそうな身体を必死に支えている。

 今の衝撃で、防具に守られていない身体の部分からは無数の傷が生じており、ところどころ赤い血がにじみ出ており、フィルリークは相当なダメージを受けている様だ。

「キサマ、私とて同じ言葉を返させて貰うぞ」

 フィアもまたフィルリークと同じく全身に無数の傷を受け、紫色の血がにじみ出している。

 フィルリークの扱う聖属性が、魔族であるフィアが苦手である属性である為彼が受けた傷よりも深く出血量も多い。

 今の攻防の結果、滞空している力さえ失ったのか、フィアはゆっくりと地面へ舞い降りた。

 地上に降り立ち改めて身構えたフィアであるが、フィルリークと同じく肩で大きな息をしその構えは深く沈んでいる。

「ボロボロの癖に良く言うぜ」

 フィルリークはゆっくりと立ち上がると聖剣を放棄し、自らの拳に聖なるオーラを纏わせる。

「貴様、私を愚弄するつもりか、これは決闘だぞ」

 武器を放棄したフィルリークにフィアは、怒りの意を示す。

「そうさ、決闘だ。決闘であって殺し合いじゃねぇ。いいや、わりぃが聖剣ぶん回すだけの余裕がねぇんだ、アンタだって最早飛ぶ余力はねぇんだろ」

 フィルリークは嘘を付いていない。

 先日ディベロスとの戦いで使い切った聖熱力セイヴァフォースは完全に回復しておらず、先の攻撃を行った事で今のフィルリークには聖剣レーベンヴォールを用いて攻撃を行うだけの聖熱力セイヴァフォースは残っていない。

 フィルリークは、すぅ、と深呼吸をし身構える。

 先に仕掛けたのはフィアだ。

 フィアはフィルリークに向け突撃、勢いに任せた右ストレートをフィルリークに放つ。

 フィルリークは左腕で受け止めるが、聖なるオーラの力をもってしてもその威力を防ぎきる事は出来ず、大きくのけ反ってしまうが小さくバックステップを踏み態勢を整え蹴りでの反撃を仕掛ける。

 フィルリークの蹴りに対し、フィアも腕を使いガードをするが聖なるオーラの力が乗せられた蹴りに対し身が焼ける様なダメージを受けてしまう。

 属性相性の問題でフィルリークに対しフィアが不利である事が明確であるが、その程度の事では屈しないと言わんばかりに、苦痛な表情一つ見せる事無く素手による3連打を仕掛ける。

 フィルリークは腕を使い先と同じく受け止める。ストレートとは違い軽い拳撃であった為、のけ反るどころかよろける事無くその攻撃を受け切った。

「逃すか! いっくぜぇ! 聖掌光漸拳ッ!」

フィアの攻撃を至近距離でのガードに成功し、フィアに隙が生じた所をフィルリークが残っている聖のエネルギーを右拳に収束させ、フィアの腹部目掛け振り抜いた。

「なっ、くっ、こ、この」

 フィルリークの右拳がフィアの腹部にクリーンヒットすると同時に、フィルリークの右拳を覆う聖のエネルギーが解放、頭程の大きさを持つ白い球体となりフィアを襲い、受け切る事が出来なかったフィアはその身を後方へ向け大きく吹き飛ばされ、壁にぶつかり地面に落下する。

 そこに砂塵が巻き起こり、それが収まる頃にはフィアが立ち上がるかと思ったが、フィルリークの放つ技が致命傷だったのか地面に倒れ込んだまま微動だしない。

 残された聖エネルギーをほぼ使い果たしたフィルリークは地面に向け崩れ落ち、辛うじて片膝を立て倒れる事を防ぐも顔を上げる事もままならない程疲弊している。

「そこまでじゃ、勝者はフィルリークじゃ」

 ハーデスが勝者の名前を挙げ、同時にギャラリー達から更なる歓喜の声が上がる。

 自国の王女が敗北したにも拘らず勝者を賛美することから、やはり彼等魔族にとっては強さが正義であろうのだろう。

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