第8話

ィアが放った魔法は彼等に直撃する事となる。

 いや待て、後方に集まるのは人間達の敵魔族だ、だから自分が回避してしまえば自動的に魔族を減らす事が出来る。

 しかし、確かハーデスは自分を救世主と言った、それに。

 過去の世界、似た様な状況で自分を囲うギャラリーは人間達だ。

 フィルリークが頭で考えるもそれを無視しフィルリークの身体は勝手にフィアの魔法を回避せず剣で受け止め上空へ向け弾くという行動をとっていた。

「糞がッ!」

 フィルリークが持つ聖剣により弾かれた魔法は斜め45度の角度で遥か彼方へと飛んで行き、後方に控えるギャラリー達に被害が及ぶ事の回避に成功した。

「ハハハハハ! わざわざ観客を庇うなど馬鹿な奴め!」

 魔法を放ったフィアは、自分の魔法を受け防御態勢に移行しているフィルリークに突撃し、格闘によるラッシュ攻撃をを仕掛ける。

「おい! 同胞を何だと思ってやがる!」

 フィアの格闘ラッシュに対し、フィルリークは剣で受け止め、防ぎきれない攻撃は身体を上手く逸らし身にまとう鎧のブレストプレート部分で受け止める。

 だが、フィアが放つ拳の威力は凄まじく、肉体へのダメージは鎧のお陰で防げてもその勢いまでは防ぎきれず、フィルリークは空中へと吹き飛ばされてしまう。

「つくづく人間とは愚かなモノよ! 私は魔族の王女、同胞がどうした? 避ける事すら出来ぬ弱い者は必要無いッ」

 空中に吹き飛ばされ態勢が崩れているフィルリークに向け、フィアは魔法による無数の雷の矢を生み出し、放つ。

「ふざけるな! それでも王女なのかよ!」

 フィルリークは、空中で縦方向にクルリと回転し体勢を立て直すと、縦横無尽に空中を駆け回りフィアが放った雷の矢を回避した。

「そうだ、それでも私は王女だ。貴様の様に観客だからと敵に手を緩める甘っちょろい世界で生きていけぬ地位だ」

 フィアは、再びフィルリークに向け無数の雷の矢を放つ。

 フィルリークは、先と同じく縦横無尽に宮中を駆け回りフィアの攻撃を回避しつつ、聖剣をフィアに向け構え、急降下を始めた。

「これはお前との決闘だろ! 敵だからと無関係な者を巻き込んで何が勇者だってんだ!」

 周囲のギャラリーはフィルリークにとっては本来敵である魔族。

 しかしながら、勇者としての正義感が勇者としての使命感が、或いは今まで戦って来た感覚から周囲のギャラリーは敵では無くそれを守るべきものと感じ取っているのであろう。

「勝利の為に全力すらも出せぬのか、ハッ、勇者なぞ甘過ぎて話にならぬ!」

 フィアは、フィルリークが上空より自分に向け降下の勢いを乗せ威力を増した聖剣による突き攻撃の軌道を読み、それからずれる様に斜め上方に跳躍し、背中の翼を使い飛翔しフィルリークの上を取った。

 フィルリークの攻撃はフィアに対し外れ、地面に向け突き刺さる。

 その時に生じた衝撃で、地面が抉られ小規模のクレーターが発生した。

 ギャラリー達からすればフィルリークの攻撃は、フィアに当たらなかったが十分に魅せられる攻撃であったのか、歓喜の声を上げ盛り上がっている者が多い。

 目の前に自国の王女がいる中で、対戦相手が人間であるフィルリークの攻撃に対して歓喜の声を上げ盛り上がった彼等は、力さえあれば種族関係無く認めると言う素直な一面を持っているのかもしれない。

フィルリークが、地面に突き刺ささる剣を即座に引き抜き、自分の上方で滞空するフィアを見上げる。

「うるせぇ! 人間って奴はお前達魔族みたいに自分本位じゃねぇだけだ!」

 フィアに侮辱されたフィルリークは怒りの色をあらわにし、滞空するフィア目掛け地面を蹴ろうと身構える。

「フンッ、ならばその様な事言う余裕を奪ってやろうじゃないか!」

 フィアは鋭い眼光でフィルリークを睨みつけると、手のひらを天に向けながら右手を突き上げ、魔力を集中させる。

 バチバチバチ、と音を鳴らしながら黒い光を放つ雷の球体がフィアの手の平上方に産み出され、フィアの魔力が注がれる度その大きさを増していく。

その魔法を見たハーデスが、ギャラリー達に向け指示を出しギャラリー達を避難させた。

恐らく、これからフィアが放つ魔法は周囲一帯に大きな損害を与える事になるからであろう。

「来いよ、アンタの大技受け切ってやるぜ」

 フィルリークは、精神を集中させ聖熱力セイヴァフォースを剣に集めフィアの魔法の完成に備え待ち構えた。

「ハッ、強がっていられるのも今の内よ! 漆黒雷破撃アークネスヴォルテックス、覚悟なさい!」

 フィアは、右手の平の上で直径5m程の大きさとなった漆黒の雷球をフィルリーク目掛け放った。

「上等じゃねぇか! 俺の力見せてやるぜ! 聖熱飛鳥破ッ!」

 フィルリークは、聖剣をフィアが滞空している方向へと振り抜くと、聖剣の先からフィアが放つ漆黒雷破撃アークネスヴォルテックス目掛け鳥の形をした巨大な白いオーラが放れた。

「白い光!? だからどうしたと言うのよ!」

 フィルリークが放った白いオーラを放つ技が、魔族である自分が苦手とする聖属性であると判断したフィアが一瞬日和って見せる。

「うおおおおおおお! 食らいやがれえええええ!」

 フィルリークは気合を込め、自らが放った技に更なるエネルギーを注入する。

「チィッ! 人間の癖に生意気いなっ!」

 フィアもまた、自らが放った漆黒雷破撃アークネスヴォルテックスに更なる魔力を注入し、その威力を増大させる。

 お互いが放った大技は、空中でぶつかり合うと周囲に轟音を巻き起こすと共に白い光と黒い光が物凄い速さで交互に点灯し、光の海へといざなった。

 フィルリークが瞬きをした瞬間、技がぶつかった際に生じた衝撃波が辺り一帯を襲い、中庭に植えられていた鑑賞用の樹木エリア諸共吹き飛ばし、周囲を荒れ果てた地へと変貌させる。

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