第4話
「すまない。ミィルの気持ちは嬉しい。だが俺は勇者として戦い続けなければならない」
「嫌だよ! だったら私、貴方についていく!」
涙を溢れさせた瞳のまま、ミィルティーナがフィルリークに懇願する。
自分と共に異世界へ行きたいと言われた事とが無いフィルリークは少し困惑し、
「それは構わない、だが実現出来るか分からない。アルテイシアに聞いてみる」
フィルリークは思念による会話にて、女神アルテイシアにこの旨を尋ねた。
『結論から言えばミィルティーナがフィルリークと共に異世界へ転移する事は
「どうして……」
フィルリークとアルテイシアの念話はミィルティーナにも伝わっていた様で、自分がフィルリークと同じ世界へ転移する事が不可能と知ったミィルティーナは唖然とした表情を見せている。
『異世界転移を行った際、貴女の肉体が持ちません。確実に、肉体は跡形も無く失います。残された魂が転移出来る可能性が無いわけではありませんが、数多の世界があるとは言え肉体が存在しない状態から蘇生可能な技術、魔術等の手段を持つ世界は非常に稀です』
女神様に言われたからと諦めたくない。
ミィルティーナのフィルリークへの強い気持ちがアルテイシアに対し抗議の言葉を紡ぎ出させる。
「でも、それでもフィルの居ない世界を生きなきゃいけないなら! 稀でも何でも私は行きたい!」
アルテイシアの説明では、無理矢理異世界転移を行えば99%以上の確率で死ぬ事になる。けれど、0%ではない事に希望を見出したミィルティーナは強い意志でアルテイシアに訴える。
『わたくしは女神です。死神ではありません。人間が無駄死にする様な事は致しません』
「だ、だったら私にも加護を下さい! 私だってフィルと一緒に覇邪王ディベロスを倒したんだから!」
それでもミィルティーナは食い下がる事無く可能性を紡ぎ出す。
『残念ながらミィルティーナにはわたくしの加護を受けられるだけの器がありません。仮にわたくしの加護を与えたとしても貴女の肉体、若しくは精神が耐えられず精神の壊れた人形、若しくはその場で命を落とす事になるでしょう』
待っていた言葉は、やはりミィルティーナにとって残酷なものだった。
「そんなの! そんなの酷いよ! どうして、どうして私だけ大好きな人とお別れしなきゃいけないの!」
フィルリークへの想いが暴走し、ミィルティーナは感情的で支離滅裂な言葉を述べる。
アルテイシアは、ミィルティーナの言葉に対し少し思う事があったのか若干の間をおいて、
『それはミィルティーナだけではありません。フィルリークは平和の事しか考えられず、女性の気持ちを察する事は非常に不得手です。貴女の様に想いを強くぶつける女性は今まで居ません。フィルリークと共に歩んだ女性の仲間には胸の内に想いを秘めたまま別れを迎えた者が多数居ます』
ミィルティーナからしたら気休めに過ぎないだろう。それでも、自分だけが悲運な別れをしなければならないと言う訳ではない事を伝える事で僅かながらではあるがミィルティーナに冷静さを取り戻す事は出来るかもしれない。
「だけど、だけど……」
アルテイシアが思った通り、ミィルティーナは少しばかり冷静さを取り戻したのか、肩の力を抜き、拳を軽く握りしめ、俯いた。
『そうですね、貴女自身がわたくしの加護を受けられる器を手に入れられる事、
アルテイシアが、ミィルティーナに微かながらもフィルリークと再会する為の希望を伝える。
未来にて、フィルリークと再会出来る希望を抱く事が出来たミィルティーナは少しばかりの沈黙を経て、
「分かりました……」
ミィルティーナは眼を閉じ呟く様に言った。
『貴女にこれを授けましょう』
アルテイシアはミィルティーナの元に星形のペンダントを異空間より召喚した。
それは透明に澄み渡り美しい鉱石で作られている様に見える。
「これは……?」
ミィルティーナは眼下に現れたペンダントを不思議そうに見つめ、手に取る。
『わたくしの加護を受けられる資格を得た際、反応を示す様作られたペンダントです。貴女が既に会得している神聖の力に更なる磨きを掛ける事がわたくしの加護を受けられる為の近道となるでしょう』
「有難う、御座います……」
ミィルティーナは授けられたペンダントを身に着け、フィルリークにギリギリまで傍に居たいと懇願し、フィルリークはそれを承諾したのであった。
祝賀会は終わりを告げ、フィルリークは国王に改めて次の世界を救う旨を報告し翌朝、改めて共に戦った仲間達へ別れの言葉を述べるとフィルリークは女神アルテイシアの力により次の世界へと転移したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます