第5話

―魔王城―


 フィルリークが次に転移する世界に存在する魔王城。

 この魔王城は魔王ハーデスが治め、愛娘である第一魔王女フィア、第二魔王女シフォンがハーデスの補佐を行っている。

 第一魔王女フィアは雷属性の魔法を得意とし、その威力は魔術に秀でた魔知将ムリンが扱うモノすらも凌駕する。また、体術を駆使した近接戦を得意とし、単騎で多数の人間軍を打ち破る事も多々ある。単騎でも大きな成果をあげられる反面、仲間と言う概念を持たず血縁関係に無い魔族を信用しない性格をしている。

 第二魔王女シフォンは、魔族でありながらも聖属性を扱う事が出来る類稀な才能を持っている。主に傷を負った魔族達の治療を行う傍らで深く考えず突撃を繰り返す姉を制御、その他魔族軍の指揮を行う参謀役を務めている。

「お父様!? 何をするつもりですか!?」

 魔王城内にある暗い一室にて、魔王女フィアが魔王ハーデスに向け声を張り上げる。

 部屋の中心部には青黒い光を放つ六芒星魔法陣が展開されており、この魔法陣を展開させた魔王ハーデスが詠唱を始めようと立っている。

「フィアよワシは何度も説明したぞ。魔王軍の窮地を救うべく異世界から勇者を召喚するんじゃ」

 魔王ハーデスが魔王軍の窮地を救うべく言う通り、現在の魔王軍は人間軍達に攻め込まれ徐々にではあるが戦力を削られている。

「ですからその人間の勇者を何故私達の救世主として呼ぶのです!」

 フィアがハーデスに抗議する通り、魔族にとって人間は滅ぼすべく敵である。

 現にこの世界でも人間達は自分達の敵として魔族を滅ぼそうとしている。

「そんなもんしらんわい。女神あるなんとかかんとかがワシ等魔族を救う戦士として勇者ふぃ・・・? を送り込むって言っていたからの。そのふぃなんとかかんとかが覇邪王でぃべろすとやらを討伐し終えてやっとワシ等を助けてくれるって話になったん訳じゃ。文句なら女神あるなんとかに言うんじゃ」

 ハーデスがフィアに言う通り、ディベロスを討伐したフィルリークは女神アルテイシアの命によりハーデスの前に召喚されるらしい。

 それはつまり、人間であるフィルリークが魔王の味方となる事であり、フィルリークが今まで経験した多数の世界では平和を取り戻す為にはその世界を征服しようと目論む魔王を討伐する事でありそれ等の事とは真逆の事象が起ころうとしている訳である。

 これでは女神アルテイシアは世界を滅ぼす為フィルリークを召喚する様に思えてしまう。

「つっ、女神がどうしたって言うんですか! 女神が言うなら人間等と言う下等生物の手を借りるのですか!」

 誇り高き魔族の王女であるフィアにとって人間の手を借りると言うのは己の自尊心を大きく傷つける事だろう。

 種族の平和を取り戻す為己の自尊心を捨てられないのはフィアが若い証拠なのかもしれない。

「いやー、フィアよ? 女神は神様じゃぞ? ワシ等魔族よりも上の存在でこの世界を構築したとかなんとかかんとかってわけじゃからのぉ?」

 伊達に長い月日を生きている訳ではないハーデスは、人間だろうが種族の平和を取り戻せるならば遠慮無く利用しようと言う考えが伺える。

「神がなんですか、人間の手を借りねばならぬならその神が間違っているのです!」

「そんな事言われてものぉ。ワシ等魔族だけでは人間軍を迎撃し切らんのじゃ。それに、人間軍を打ち滅ぼしたとしてもこの大陸以外にも人間はおるんじゃ。フィアよ、人間がこの世界が滅ぶ要因を作っている事は知っておるじゃろう?」

 神ですら間違っていると言い放つ自分本位とも言えるフィアに対し、ハーデスがゆっくりとした口調で諭す様に言う。

「し、知っています。愚かな人間共がこの世界を維持する為のエネルギー、中性魔マナニュートを際限無く消耗するせいでこの世界が滅ぶ危機を生み出しているのでしょう?」

 この手の話を覚える事は苦手なのか苦し紛れに言うフィア。

「そうじゃ。ワシ等魔族の様に普通に魔術を扱うだけならば中性魔マナニュートが枯渇する事は有り得ないのじゃ。じゃが、人間国の1つマシンテーレの様に膨大な中性魔マナニュートを消耗する事で産み出される動力源、それ等を使用した機動兵器、これを大量に生産されたとなれば数百年後にはこの星が無くなるかもしれないのじゃ」

 ハーデスはフィアに理解させる為少々大げさに説明をしてみせる。

 実際にマシンテーレ1国が機動兵器を量産した所で中性魔マナニュートを使い切る事はまず有り得ないのだが、マシンテーレが、現在ハーデスが把握している機動兵器よりも更に高性能な機動兵器を開発しそれが今よりも遥かに中性魔マナニュートを消費したり、そもそも中性魔マナニュートを浪費する人間達はハーデスが居城を構える大陸以外の、外海を経て辿り着ける大陸にも存在している。

 そこまで考慮すれば、ハーデスが大袈裟に言った事はあながち嘘ではない。

「ならば私がもっと強くなれば良いだけです」

「そうじゃの、それも大事じゃの。しかしのぉ、万が一もあるんじゃ保険じゃよ保険、手駒は多ければ多い方が良いんじゃ。そりゃぁ、今回の一件でこの星が滅ぶ事も無ければ人間軍との争いが拮抗かワシ等がやや優勢位じゃったらワシも人間などと言う下等生物の協力なんぞ求めんわい」

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