不穏
決行当日。
「これだけは約束。失敗しそうになったらすぐに逃げて」
「イメトレは何度もやったから大丈夫だって」
裕也は島民の影がないことを確認してから家を出ていった。
取り残された楓は深いため息をつく。
計画が成功する確率は限りなく低い。
用心深い長老から危険なデータを盗むことは容易でない。データがパソコンに移されていた場合、パスワードをどうやって解除するのか──楓の質問に対して裕也はお茶を濁すだけだった。
「でも、やるしかないよね」
復讐を果たしたい気持ちは同じ。走り出した今、自分だけブレーキを踏むことは許されない。
制服に着替えて薄化粧を施した楓は思いつめた表情で果物ナイフを掴むと、そっとポケットに忍ばせてから中央広場へと向かう。
そこは先週父親が亡くなった場所。樹齢100年のご神木には歴代の指切り制裁を受けた者の血がそのまま放置されて斑模様に変色している。
楓は比較的新しい血から顔を背け、準備で話し合っている長老たちの輪に加わった。
「おお、楓か。ん? 裕也はどうした」
「お兄ちゃんは風邪を引いたみたいで、今日は家で寝てます」
さっそく聞かれるのかと心臓がキュッと縮んだが、想定内の質問だったので言い淀むことなく答えられた。
「…………そうか」
長老の独特な間に卒倒しそうになるのを何とか堪える。
「段取りの確認が始まるから楓も参加しなさい」
「はい」
疑われることなく何とか場をやり過ごした。
本番が近づくにつれて島民が集まってくる。数少ない子供たちは指切りの誓いなど毛頭も興味がないらしく、休校を喜んではしゃぎまわる。
反対に上の世代は楓が真の島民になれることを心の底から祝福していた。
(この人たちは完全に指切りを信仰してる)
唯一味方になってくれそうなのは、指切りの風習に疑問を抱きつつも自分が標的にされたくない一心で忠誠を誓っている中間世代。
しかしこの場で楓が叫んでも意味がない。中間世代を味方に付けるには裕也が悪事を暴いて長老に非を認めさせるしかないのだ。
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