5章 神域編
第203話 神域へ
ユウヤはオーディンと手をつなぎ、目をつむる。するとその刹那、エレベーターに乗っているかのように全身に重量が襲いかかり、眩しい光がまぶたに突き刺さってきた。
(うえぇっ……酔いそうだ、だけども、引きかえすことなんて……)
ユウヤは自らの胸をさすりながらも、無言でただただオーディンの手を握り続ける。教わったワケでも学んだワケでもないが、本当で「ここで手を離したら大変なことになる」と察した。
でも、何もしない時間というのは人類にとって退屈なものである。ユウヤは恐る恐る、オーディンに「今自分たちがどういう状況なのか」を尋ねることにした。
「……じ」
「ん? 何か言ったか、ボレアスよ……」
「おや、じ……親父。その……今オレはどこに向かっているんだ? 全く検討もつかない」
「それはな、ボレアスよ。向かう先は正しい歴史。本来あるべきだった世界――」
「そうじゃなくて! その……なんだか気持ちが悪い。乗り物酔いしちゃったみたいな感じでさ」
「乗り物酔い……? あぁ、この移動が苦痛と申すか。それなら大丈夫、そのうち慣れるさ。ボレアスはあまり下界と我らの神域の移動をしていないだろうから、この感覚に苦痛を覚えるのも致し方ない」
「少し……座ってもいい? 疲れちゃったんだ、色々と、本当にもう……」
涙ぐみながら、声を絞り出すようにお願いをするユウヤ。だが、オーディンは「好きにしろ」と言わんばかりにため息だけで返答する。
本当に本当に、ユウヤはもう限界だった。もはや明日のことなんて考えられない、今はただ地獄という名のタスクをロボットのようにこなすのみ。今の移動の苦痛も、気がつけばどうでもよくなっていた。
『ごめん。今度あいつ探し出すつもりなんだ。こんなことされて黙ってられるか?
それに朝の授業であんなこと俺がしなければ……ここまで酷くならなかったのかも』
すべてが動き始めた、あの日……。今思えば、あの日のユウヤはある意味とても生き生きしていた。皆のために、自分達の日常を破壊した悪魔共を倒すんだと立ち上がったあの日。
もし、かつてのヒビキに従い、大人しくチーム・ウェザーやホリズンイリス一族の言うことを飲み込むことを選択していれば、今頃どうなっていたのだろう? 今と同じ絶望のその先にいたのだろうか? どちみち、どこかのタイミングで反旗を翻そうとしていたのか? あるいは……?
ただ1つ確実なのは、「きっとどこかで選択を誤った」こと。まるで無限に続くクイズ付きの迷路で、どこかは分からないが誤答してしまったのだということ。
(どこで間違えた? オレは一体……)
記憶をたどる。確か……ヒビキに立ち向かおうと特訓して、数多の敵を倒して、そのうち親玉が分かって、立ち向かっているうちにどんどん新たな真実と相対し、仲間が死に、そして今、オレをさんざん蔑んでいた父と神域とやらに向かって……
「ハァ……わかんない」
回答、不可能……。頭は別に悪くない、勉強もまあまあできる、自分の間違いを認められないワケでもない。でも、本当に不明なんだ……。
途方にくれていると、肩にずっしりとした重みが乗っかってきた。
その正体は、父の手であった。
「……わからぬだと? ならばこれから、正解を見つけていけばよかろう。我らは全知全能の一族なのだから」
「ぜんち、ぜんのう……」
あぁ、そうだ。これからリカバリーしていけばいい。今までだってそうしてきたじゃないか! 失敗すれば、またやり直せばいい。学校でも部活でも私生活でも! そうだ、そうなんだ……!
「ハハハ、これからの風向きが見えてきたよ……!」
ありがとう……親父!
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