第173話 神の怒り

「あ、危な――」


 ヒビキは思わず防御態勢に入る。あんなに硬くて重量のある塊、かすっただけでも大ダメージを喰らってしまう。とっさの判断で身の回りに雷のバリアを貼るが、そんなもの簡単に貫通してしまうだろう……そう思った矢先、突然天空から何やらカーテン状の柱が舞い降り、簡単にアスファルト投げつけ攻撃を防いでしまった。


 ヒビキもユウヤも、一体何が起こったのか分からない。決してヒビキの技ではないし、ユウヤも別に何もしていない。心当たりが誰にもない中、その光はテレパシーで両者に語りかけてくる。


「やれやれ……解除ッ!」


「ぐわああああああああ!」

「グオオオオオオオオオ!」


 2人のコンパウンドが強制的に解除される。運が良いのかユウヤは正気に戻れたが、それでも「光の正体」が何なのか全く分からない。


「あれ、オレは今まで何を……てか、この眩しいやつ……一体何だ?」


「今更戻りやがったか、ユウヤ! オレにもよく分かんねぇが……とにかくヤベぇ気がする……!」


「ヤベぇ気がする、か。その程度の畏怖とは、オレも落ちぶれたものだな。なぁ、東雲ヒビキッ!」


「がっ……そ、その姿は……!」


 光は実体化し、まるで人間のような姿を表した。古代ギリシャのような衣装に身をまとい、頭には何らかの植物の葉で作った冠を被っている。靴は履いていないが、黒髪に黄色のバングカラーを入れた髪型はヒビキにそっくりである。


「おお、覚えてくれてたんだ。もちろん名前は知ってるよね……てか、図が高ぇだろゴラァッ!」


「……ユウヤ、そこの女を連れて……早く逃げろッ! 緊急事態だ、下手すりゃ……辺り一帯焼け野原だッ!」


「や、焼け野原!? てかそいつ、一体誰なんだよ!」


「こいつは……オレを洗脳した! 反錬力術組織としてのチーム・ウェザーに入れやがった……トール・ホリズンイリス。ロドリゲス・トール・ホリズンイリスだッ……グハァ!」


「えっ!? ヒビキ!?」


 見えなかった。というより、ヒビキが倒れてからロドリゲスがヒビキの腹を殴りつけたのだ。まるで剣術の達人が、鞘にその剣をしまった後に敵が斬られて倒れるように、その刹那の攻撃は「攻撃を入れる」、「ダメージを与える」の視覚の時間軸を前後させてしまったのだ。今見えるのは、明らかにブチギレたロドリゲスの顔だ。


「様をつけろ、様を! オレ達とただの人間が同等だと言うのかゴラァ!」


(雷鳴のような威圧感のある脅し方……あの時のヒビキとまるで変わらない!)


 ユウヤはロドリゲスとやらを警戒する。ユウヤもホリズンイリスの血は引き継いでいるのだが、この名前は一切効いたことがない。だからこそ、何をしてくるのか、何を考えているのかが分からない。とにかく確定しているのは、危険人物だということだ。


 ユウヤはヒビキに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がる。ユウヤは以前ヒビキに提案されたこと、「聖霊と聖霊のブレンド」を改めて持ちかけてみるが、ヒビキはそれを魚皮した。相手は因縁のある悪魔、自らの手で祓わねばならないのだと。


「ロドリゲス……よくもオレを騙して、自らの野望を叶えようとしたな! オレはがならず、お前をブチのめすッ!」


「フフフフ……アーッハッハッハッハッハ! 寝言は寝て言え、この三流が! オレはお前を0.1秒もかからず消し炭にできるし、10秒あれば……こうすることもできるのだ」


 ロドリゲスは指先に小さな火花を生み出した。それは線香花火のようにパチパチと音を立てながら輝いているが、ロドリゲスが息を吹きかけた途端にそれは雨雲のように大きく成長し、四方八方に黄色い閃光がほとばしる。


「な……こいつやりやがったッ! ならば……雷雲地獄、てめぇを地獄に叩き落としてや――」


「うるせぇ、三流! オレの真似事ばかりしやがってェ!」


「ぐふぉお……っ!」


 ヒビキは肩を雷で貫かれ、再び地面に倒れる。それを見てロドリゲスは高らかに宣言する。


「さて……今の雷は強制的に我らに人々を従わせるための雷。クヌムのアクセサリーなどなくとも、これで人類は我が下僕よ!」


「な……んて、ことを……!」


「さて……現代事変、文明の終わりを始めよう!」



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