第161話 タケトシの過去 その2
タケトシが慌てて不良の攻撃を止めるも、水弾は無関係のクラスメイトの方へと向かっていく。慌ててタケトシも自分の上靴を投げつけ、水弾を破裂させようと試みるが、まるでプールに靴が沈んでいくかのように上靴は水弾をすり抜け、ただびしょ濡れになっただけで床にボテンと落ちてしまった。
当然、水弾はなんの関係もないクラスメイトの方へと飛んでいき、しまいには顔面に激突、その勢いにより床に叩きつけると共に頭から足まで全身をびしょびしょに濡らしてしまったのだ。
「キャァァァー!」
「え、え!? 大丈夫? かわいそう……てか、何よアイツら、本当に!」
「おい岩田ー! さっさとそいつら倒せよ、お前が招いた奴らなんだろー!」
(やっぱりオレの責任になるんだよな、コレ……)
「ギャハハハハハ! アイツだけ大雨に降られたみたいになってるぞ、おもしれぇー!」
「傘誰か貸してやれよ、天気予報はハズレることも多いんだぜー! ガーッハッハッハァ!」
「おい、弱虫のイキリ野郎ー! 次はお前がそうなる番だぞー!」
(こいつらマジで……だけど、手を出せばこっちが悪くなるんだろ……? それともオレがただ、こいつらが満足するまで殴られればいいのか? くそったれ!)
「うぅ……うぅ……うえええええええええん! ママに買ってもらった大事なパーカーがぁ……うわあああああああん!」
「可哀想……ホント最低ね!」
「先生に後で言ってあげるよ、ウチは味方だからね!」
突然の暴行に、攻撃を受けたクラスメイトは泣き出す。周りの友達もその子を慰めるが、不良達はむしろ追撃を加える。
「うるっせえー、泣けばいいと思いやがって! 今度はお前ら全員、カバンの中身も水没させてやるぞー!」
「ギャハハハハハ! イヤならさっさと頭下げやがれー? さもなくば教科書もスマホもタブレットもぶっ壊れちゃうぞぉぉ!」
「うわあああああ! 教室が水浸しになるううう!」
「うわっ……! 頑張って書いたノートが……」
「嫌ああああああああ、もうやめてえええ!」
やりたい放題の不良に対し、ついにタケトシの堪忍袋の緒が切れる。まるで溜まっていたマグマが噴火するかのように、長年抑え続けられてきたプレートが跳ね上がるかのように。気がつけばタケトシの拳は岩盤のように硬く握られ、山のように高く頭上に掲げ上げられていた。
「もう、許さない。もう、我慢しない……」
そう呟いたタケトシを、不良達はむしろ馬鹿にする。カッコつけている、ビビらせようと必死になっていると、むしろ「やれるもんならやってみろ」と挑発する。
「こいつら……もう知らねえぞ……」
その瞬間、廊下と教室中に燃えるような閃光が駆け巡り、大地が震えるような轟音が響き渡った。そして気が付けば廊下中の窓ガラスは粉々、不良達は誰一人残らず気絶していた。
「ったく……これでしばらくはこないだ――」
「キャアアアアアアアアアア!」
「うわ、あいつやりやがったぞ! 大事件だ!」
「帰れよ……学校がメチャクチャじゃねえか、帰れよ……!」
タケトシが不良達をまとめて倒すも、教室に響き渡ったのは「帰れ」コールだった。コワモテキャラだったタケトシは元々クラスにあまり馴染めておらず、さらには幼い者で生成される小さな社会の残酷さとでも表そうか、邪魔者だと“ボス”に認識されれば、それに従い皆から淘汰されてしまうように、タケトシはクラスから追い出された。
そんなタケトシを待っていたのはさらなる罰の連鎖だった。親、先生、他にも様々な”偉い人“から説教される毎日……次第にタケトシは心を病み、毎日部屋から空をぼーっと眺めるばかりになった。
「はぁ……たまにユウヤが手紙持ってきてくれるものの……オレはもうどうしたらいいのか分かんねえよ」
タケトシはユウヤから届けられた手紙を並べては、読み飽きた文章を何度も眺める。
「『元気か?』『また遊ぼうな。鬼ごっこで』『オレは味方だ』……ごめんな、ユウヤ。オレはもう……外の風を浴びるつもりは無いんだ」
動画サイトでたまに筋トレをして体を鍛えようとするも、ストレスや運動不足からか体力は落ちていくばかり。もう、生まれてきた意味が全くわからない……そんなある日、1人の人物がタケトシのもとを尋ねてくる。
タケトシの部屋まで聞こえてくる、インターホンの音。宿題が届けられたのか、ユウヤが来てくれたのか、それともただの郵便かセールスマンか……。窓からこっそりその正体を確かめようとカーテンを少しめくると、見知らぬ中年のおっさんがそこに立っていた。
身長はまあまあ高く、全体的にスラっとしている。だが、どこか若いアスリートなような気迫を感じさせ、決して弱そうには見えない。
「誰だ、あれ……? 妙に体型はビシッとしてるけど……」
気がつけば、夢中でタケトシはその男のことを眺めていた。誰なんだろうと、不思議と興味が湧いたのだ。すると男もタケトシに見られていることに気付いたようで、チラッとタケトシの方を見てはニコッと微笑んだ。
(ば、バレた……!? これまでそんな人いなかったのに、まるでセンサーでも頭に埋め込んでるみたいだ!)
タケトシは慌ててその身を引っ込めるが、男はまだこちらのことを見てくる。そして、何やら口に手を当て、パクパクと動かし始めた。何を言っているんだろう、気付いた時には、タケトシは窓を少し開け、その男が喋っている内容を聞き出そうとしていた。
(あのオッサン、一体何を……?)
「岩田君。岩田タケトシ君。話があります……良ければ親御さんと一緒に、いかがですか?」
「話……? てか、アンタ誰だよ。知らねぇ奴には着いていかねぇ、鉄則だ……って、なんで名前知ってんだ!?」
「おっと失礼致しました。私は栄田。栄田リキタロウと申します……貴方のことはお父さん、お母さんから既に聞いておりまして。あ、私のお仕事はカフェのマスター、そして……ちょっとした武道家でもあります」
髪がやや灰色に染まりつつある、スーツ姿の栄田と名乗る男の胸からは、チラッと金メダルが顔を見せていた。
(あのメダル……まさか!)
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