第148話 下水流の秘策
「総理、総理! 先日から急激に日本全国で事件数が増加、具体的には先週の20倍以上となっている件についてなにか一言お願いします!」
「総理、一体どうなっているんですか! 調べによると皆全く同じアクササリー状のものを犯行時に身に着けており、当容疑者全員に当てはまるのは身体能力が成人男性の平均を遥かに上回っているんです! 例のアクセサリー、販売停止命令も視野にいれるべきではないですか!?」
「下水流総理、下水流総理大臣」
「答弁いたします。現在、仰られたとおりそのような事件が増加していることは認識しております。しかし『例のアクセサリー』と一連の事件の因果関係はまだ証明されておらず、特定の企業やインフルエンサーを国として証拠なく責め立てる行為は決してあってはならな――」
「それならこの通りです! 証拠として押収したこの指輪! 何やら微量の電磁波を出していることがコンピューターにて確認しており、解析したところ『コウキ様に従え』『ホリ……なんちゃら一族こそ世界の覇者』と音声を発していることが分かっているんです!」
コウキにより
国としても、これらの事件に対しいち早く動かなければならない。そらは議員から官僚まで全員に一致した認識であった。だが、特殊錬力隊や警察などが全く彼らに歯が立っていないこと、また国民の活動を決定的な証拠も無しに規制することなど、現代の民主主義国家においてはかなり困難なことであった。
だからこそ事件はさらに悪化していくばかりで……総理も有識者も、皆どのように動けばいいかもはや分からなくなっていた。
(ワシにだって疑いを持っている奴らはいる……例の不沈陽とやらの生放送! だが、疑わしきのラインを越えない限り私の口からあーだこーだ言うことは……でも調査はかけておくべきか?
特にあの大学生グループ、とりおか、ゆう、や……? 達について!)
「……その一族、及び『コウキ様』などについても調査を強化することを直ちに検討します。罪のない者達がいかなる野望のために襲われることなどあってはならない、極めて遺憾である。現在私から言えることはそれしか無いが……直ちに動きます。以上」
下水流は内心、かなり焦っていた。このままでは国全体が甚大な被害に襲われ、滅亡まで起こりうるのではないかと。だが、総理という立場上、そして法律、人権的な考えからも、法外な措置をとることなど許されないが……とある1つの決心が、総理の中でついた。
(特殊錬力隊の中でも先鋭中の先鋭……特別錬力隊を派遣するしかない!)
特別錬力隊。錬力術を駆使しあらゆる災害や大事件を解決してしまう。ある者は岩盤の如き肉体を持ち、またある者は天才学者の数倍以上の知能を持ち、そしてある者は音速を遥かに凌駕する脚を持つ……人間離れした者の集まり、それが特別錬力隊である。
本日の国会を終えた後、下水流は官邸に直帰し、直ちに錬力隊本部に電話をかけた。本部はかなり驚いた様子であったが、下水流から近々命令が降りることは察していたようだ。
「もしもし。聞こえるか? 私だ、下水流だ」
「そ、総理……電話をかけてきたってことはまさかアレ、本当に行うつもりですか」
「あぁ……いいか? これはバレたら本国、いや世界中から最大級の批難を買うことになる。だが、1人でも犠牲者を出さないためには必要な措置なのだ」
「で、ですが! 私達の使命は市民を守ること、ましてあの作戦はそれに反します!」
「かまわん、責任はすべて私が取る! いいか、これは何人にも聞かれてはならない……近くに盗聴器、隠しカメラ及び他の人物はいないな?」
「え、えぇ……探してからにしましょうか」
錬力隊員も下水流も、部屋の中をくまなく調べ上げる。これから告げられ、実行される作戦は前代未聞のとてつもないものであるからだ。他の議員も官僚も、下水流が既に動いているなんて勘付きもしていない。
「どうだ、怪しいブツは無さそうか?」
「はい、こちらは。それで、これは確認なのですが……」
「ああ。まずは北から南まで、ホリズンイリス族のスパイがいないかくまなく調べ上げろ。ワシが一番怪しいと感じている、かつ接触がたやすいのは……鳥岡ユウヤ、19歳の大学生だ」
「分かりました……万が一反撃された場合、どうすれば?」
「ラクショーに戦闘不能にできるだろう。その実力があればな」
「……分かりました、総理もスキャンダルなどには気を付けて。それでは」
電話はここで終わった。ユウヤ達はまだ知らないが、国を巻き込んだ壮絶な戦いが、既に始まってしまったのだ……
一方、ユウヤに会うためにはるばる移動中のスズ。彼女はポケットからとあるメモを取り出し、内容を再確認するかのように綴られた文章に目を通してニヤリと笑うと、心の中で野心を剥き出しにして呟いた。
(チーム・ウェザーの戦力を1カ月足らずで大きく削り、土壇場での馬鹿力が特徴……面白そうな男じゃん。でも……深く絶望しちゃう日も、すぐそこにまで迫ってるんだけどね)
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