第146話 覚悟
「ま、またこの技ぁ!? 2人とも止めるよ、今度こそ!」
「いや、この威力は……!」
雷浪から放たれた必殺技はアパタイザー達3人に襲いかかったと思いきや、そのままその射程距離をぐんぐん伸ばしながら空高くへと打ち上げてしまった。
「ハハハハハ、どうよこの威力! これでも10分の1の力も出してない。アタイの錬力値は……15万くらいはあるんじゃないかなぁ」
(15万だと……!? 確かコウキのヤローの錬力値は自称10万、やはりこの秘術を使えば奴らの野望を打ち砕けるかもしれない!)
「よし、雷浪! とどめを刺せ、二度と反抗できねぇようにな!」
「えー……まぁ、そろそろ時間制限も過ぎちゃうもんね。なら、一気にやっちゃいますよっと」
雷浪は数十メートルほど飛び上がると、空中に投げ出された3人の前に立ちはだかった。そしてニヤリと笑みを微かに浮かべたかと思いきや、右腕に水を塊上に装着しながら頭上に掲げる。
「今度は叩きつける番だぜ! セイレーン・サイレン……これで終わりだああああああああ!」
「く、くそっ……!」
ザバアアアアンと、大きな波が水面に叩きつけられた音。そして、人魚の歌声のような神秘的な音が混ざったかのようなハーモニーと共に強烈な一撃がアパタイザーに襲いかかる。3人がアスファルトの地面に落下するのを見届けるかのように、雷浪は青と黄色の2つの光に分かれ、それぞれカナとヒビキの体内に戻っていった。
「っ……! ハァ、ハァ、ハァ……わかってはいたが、スタミナ消費のフィードバックが凄まじいな……だが、流石にあの連撃で奴らも撃破できただろ……」
ブレンドの代償として、ヒビキに普通の戦闘の何倍以上もの疲労が襲いかかる。まるで徹夜で激務を終わらせたかのような重さのある疲れ。ヒビキはアパタイザー達が落下した方思われる、大きな砂埃が立ち込める中へと四つん這いゆっくりと歩き始める。
「もし生き残ってても……ダメ押しの一撃で倒してやるさ……」
ブレンドにより一瞬だけ生み出せた戦士、雷浪は想像を遥かに超える強さを誇っていた。それも余裕に溢れた様子で3人を圧倒、これで負けるはずがないとヒビキは考えていた。
「声も息も聞こえねぇ……だがダメ押しの準備を……」
ヒビキは右腕に雷を纏い、少しずつ煙の中に近づいていく。あと一歩、万が一襲われても相打ちにできるだろう、そんな距離にまで縮まったとき、中には倒れた3人と共に、ヒビキも知らぬ何者かが立っていた。
「まっ……まさか!」
「フフフ、その通りさ。ブレンドが可能なのは自分達だけとでも思っていたのかい? ましてや、手順を説明するかのようにオレ達の目の前で発動していたというのにな……!」
顔は長いヒゲを生やした天狗、腕は植物の茎のように長細く、そして下半身は重機のよう。何と形容すればいいのか分からない、だが危険なのは間違いない謎の存在がそこにいたのだ。
ヒビキは一旦距離を取りながら謎の存在を上から下まで観察する。いや、むしろ身体が勝手にこの場から逃げ出そうとしていたのだ。0.1秒でも早くここから立ち去らなければそれを認識する瞬間すらなく命を奪われてしまう。ヒビキは固唾を飲み込む。
(よりにもよって一番実力があるヴィアンドですら気絶してピクリとも動かねぇ……これじゃあのバケモンが運転手のいないモンスターマシンのように暴走してしまうのは確実……オレは墓穴掘っちまったのか、もしかすれば……!)
ヒビキの横で倒れるカナも、まだまだ目覚める気配がない。近くにいる誰かに助けを求めるなんてできるはずもない。このバケモノが時間制限により消滅するまでどうにか耐えるしかない!
「……な、なあ。名前は何だ? オレは東雲ヒビキ。好きなタイプはバスケ部のサブリーダー的な――」
「その対話に何の意味があると言うのだ? オレは破壊に破壊を繰り返す、そのつもりしか無いんだぞ」
「……ならこうしよう。ここからちょっと移動したところにオレの知り合いが建てた闘技場がある。そこで好きなだけ暴れるがいいさ」
(見たところこいつは暴れたいだけ……適当にハッタリを重ねればそのうちタイムミリットで消滅してくれる、てかそうするしか無い!)
今の状態では勝てないと察したヒビキは、知性を生かした心理戦でどうにかこの状況を収めようとする。だが、残念なことにバケモノはあまり乗り気では無いようだ。
「闘技場ォ? そこで一体何ができると言うんだ。見たところお前はヘロヘロ。ここで戦ってもそこで戦っても結果は同じだろう? 第一、人間のスタミナ回復はそんなに速くはないだろう」
(チッ……チャンスは簡単に舞い降りません、ってか……ならばこうするしか!)
「分かったぜ、バケモンさん。まずはお前の実力がどれほどまでかお手並み拝見だ、これを受け止めてみろよ」
ヒビキはテニスボール程の大きさの雷の球を作る。そしてキャッチボールをするような感覚で軽く投げてみせる。あえて全力で投げないのは無駄に戦闘意欲を刺激しないため、そしてボールの速度を落として1秒でも時間を稼ぐためだ。
(これで倒せることが無いなんて分かってるさ……ここでやるべきは時間稼ぎ、頼むぞ、暴れるんじゃねぇ!)
「ヘヘヘ……その程度か? 本気でこいよ、ほら」
バケモノはヒビキが投げたボールを簡単に消滅させてしまった。ならばもう一発、今度はもう少し強いのを投げてやる。今度はバレーボール程のサイズのものを投げつけた。
「今のオレにとっちゃこれが限界だぜ……スタミナが既に空っぽだからなぁ……」
(マジで余裕ねぇんだよこっちは……! これでも時間稼ぎかつ相手を油断させる効果はあるけどよ……まじで消滅してくれさっさと、雷浪を再召喚は不可能なんだよ!)
ヒビキは膝をついて倒れるフリをし、これ以上余裕がないですとこれでもかとアピールしてみせる。ビリビリと音を立てながら高電圧を纏ったボールがバケモノに飛んでいく。
「……この程度か、つまらねぇ。ならば生かす価値も無さそうだなぁ、東雲ヒビキィ!」
「何っ!?」
バケモノは雷の球を空高くへと跳ね返し、鞭のような腕をしならせヒビキを睨みつけてきた。
(あと1分、いや50秒だけでも! 足止めするしか無いな、1人で……!)
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