第120話 錬力術の発見者
「ならば……一瞬で畳み掛けてやらぁ! 喰らええええ!」
「オレも! スクワット140kgの脚力を喰らええええ!」
ユウヤのアッパーとタケトシと飛び蹴りが同時にブティフールに直撃する。だが、ブティフール本人はびくともしない。その表情は、気怠いとか面倒くさいとか、そのようなものだ。
「科学者の我に錬力術で勝てないならまだしも……フィジカルでは優れていてほしかったが」
「ケッ、こいつバカにしてやがるぜ! ならば連続で豪速球をお見舞いしてやろうかねぇ」
「あぁ……オレもやってやる!
「やれやれ、その程度……基本のキから学び直せ! 吹き飛べぇ……
凍てつく冷気に、いともたやすく燃え盛る石と風の球がせき止められる。ユウヤとタケトシもさらに力を振り絞ってそれに対抗するが、対するブティフールは涼しげだ。それを見たヒビキはカナやカエデ達に耳打ちして指示を出すと、駆け出しなが、大きく息を吸ってその両手を突き出した。
「元・部下のケジメはここでとる!
「ア、アタイだって! クロール・エンクローズッ!」
「私も! ホウセンカ、喰らええっ!」
雷、水、草。それぞれの攻撃がユウヤとタケトシを後押しするが、依然としてブティフールは余裕そうだ。
今、ブティフールは5人の錬力術による攻撃を同時に受けている。だが、なぜか余裕そうに立っているだけであり、今にも攻撃をすべて押し返してきそうな雰囲気である。
「くそっ……こうなったら禁じ手、『ブレンド』を使うしかない……おいユウヤ、ペガサスの力を開放しながらオレに手をかざせ!」
「ブ、ブレンド……? 何だそれ!?」
「知らねぇのか……聖霊を宿す者が、同じ目的のためにその力を同時に解放することで一時的に生み出せる、めちゃくちゃ強い存在のことだ! 言わば……聖霊と聖霊の合体、さらに人間化だ!」
「そ、そんなことが……」
「いいから説明はその後だ! さぁ、その手をオレにかざせ、そしてペガサスの力を解放するんだ!」
「お、おう……」
ユウヤはこれまでやってきたように、ユウヤの内部にいるペガサスの力を解放しようと精神を統一する。だが、まるで空き家のチャイムを何度も鳴らしているかのように、全く音沙汰がないのだ。
「あ、あれ……おかしい、発動できない!」
「おいなぜだ! 集中しろ、おい後ろの女! ユウヤの代わりにヤツの攻撃を防げ!」
「お、おう!
「は、はいですわ! タロットは……法皇の逆位置! あぁこれでは拘束しかできませんが……喰らいあそばせっ!」
イチカとメイが加勢し、ユウヤのための時間を稼ぐ。だが、ユウヤは未だに能力を使えずにいる。ヒビキもだんだん苛立ちを見せ始めるが、その原因を知っている真銅はなかなか真実を打ち明けらせずにいた。
このチーム・ウェザーの拠点に来る直前、突如ユウヤが宿す聖霊「ケルピー」が暴れ、ユウヤの自我を乗っ取り暴れだそうとしたのだ。
(
「……おい、ババァ! その石に封印してんだろ、ペガサスを!」
「な、なぜそれを!?」
真銅が葛藤している中、ヒビキは怒鳴り声を上げる。どうやら獄霊石について何やら知っているようだ。だが、今ユウヤが暴走状態に入ることは避けたい、何と言われようとユウヤに聖霊を戻すつもりは無い。
だが、ヒビキは何度と目でしつこく「構わない、戻せ」とジェスチャーを送ってくる。真銅が理由を説明しようと口を動かしたその瞬間、倉庫の屋根に雷がズドンと落とされた。その轟音でついにユウヤにこのことを勘づかれてしまい、ついに真銅は獄霊石をユウヤに差し出した。
「……鳥岡君、どうか暴走はしないでください」
ユウヤはコクリと頷いて石を受け取った瞬間、ユウヤの体は眩く輝き出した。時に白く、時に青黒く、他にも様々な色がユウヤを包んでいる。
「グァア、アアアアア……!」
「ユウヤさん! お、落ち着きくださいまし! 自分という存在を忘れぬこと、それが今大事なことですわ!」
「アアアアアア……アアアアアアアアアアア!」
ユウヤは見るからに苦しそうだ。まるで、この世に存在する全ての痛みや苦しみを同時に受けているかのようだ。その様子を見て、ブティフールは呟く。
「二ヒャヒャヒャヒャ! いかなる生物だろうと、どこかに限界がある! どうやらその閾値を超えてしまったようだなぁ!
たとえホリズンイリス族の末裔だとしても……所詮そいつは落ちこぼれ、聖霊がその気になればその身は崩れ落ちるのだぁ!」
「う、うるさいぞシュークリーム! ナメてんじゃねぇ!」
「生物の限界は我こそが一番悔しく感じた存在! だからこそ発見したのだ、25年前に錬力術という革命を!」
「ブ、ブティフールが……錬力術の発見者だと……?」
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