第116話 信頼という欠陥建築
「この扉を開ければ、絶賛作業中のコウキ達がいる! 念のため……アイツは決してラクショー、いや強敵なんてレベルじゃない。覚悟はバッチシか? ……さぁ、行くぞっ!」
ヒビキが勢いよく扉を開いた瞬間。その視界の真ん中に笑顔で立っていたのはコウキであった。さらにコウキは撮影用のカメラを至るところに設置しており、胸元にはマイクまで付けている。
天井から吊り下げられた大きなモニター。そこにリアルタイムで映っているのはユウヤ達であった。驚くイチカ、固く拳を握るヒビキ。思わず先制攻撃を仕掛けようと足が動きそうになるユウヤに、それを静止する真銅。ただコウキを警戒するメイとカナに、それを嘲笑うコウキとその無数のリスナー達。
コウキは胸元に付けたマイクを口元で抑え、わざとらしくユウヤ達を歓迎する。
「おーーっと、侵入者と裏切り者達よ! よくここまでたどり着いた、おめでとう!」
「コウキ……今すぐオレの雷で消し炭にしてやる。そしてお前の大人気ストリーマー人生も、この掃き溜めみてぇなチームの進撃も全て、ここで終わりにしてやる」
「おいおいヒビキ君……どうやら教えを信じられなくなっちゃったみたいねぇ。それにさっき、感じてたよぉ? キミがナギサちゃんと戦ってるときの雷……衰えたなぁ、まるで静電気だった!」
「ほ、ほう……ならば消してやるぜ、喰らえええええ、億雷鉄砲ぉぉぉ!」
早速ヒビキは必殺技でダメージを与えようとするが、コウキはそれを軽くあしらってしまった。雷は後ろへと弾き飛ばされ、壁に激突して消滅する。
「やっぱり衰えた……いや、オレのアクセサリーのお陰で手にしていた力を放棄した、と言うべきかな?
改めて説明してやろう! 錬力術とやらには、オレ達が作った単位が存在する! その者が繰り出せる最大火力のエネルギー量を錬力値と言い、100rとか5000rと言った形で表す!」
「な、何が言いたいんだよ」
(ヒビキのやつ、明らかに同様してやがる……別格なのか、あの終始ふざけ倒したチャラ男的な奴は!?)
「フッ……今のヒビキ君、多分1800rほどしか実力ないよ? ユニコーンの力を使えばもっと伸びるだろうけど。7人で来てくれたみたいだけど……誰もオレの力には届かなさそうだねぇ……なぜならば……」
「……」
「オレは『何かを消し去る』という感情の下で錬力術とやらを使えば使うほど、その練度が光速の如く磨かれていく特異体質! そして今のオレの錬力値は……10万、もう一度言う! 100000rもある、常人の500倍だ!」
「い、いつの間に! お前はせいぜい7000rほどだっただろうが!」
ヒビキの語尾が震えている。そして明らかに強がっている。チーム・ウェザーの奴がたまに口に出す錬力値という数値。今、自分の錬力値などは全く分からないが……今の自分達が「機転を利かす」ことで倒せる相手では無い、それは事実なのであろう。
今更逃げ出すことなんて不可能、さてどうやって戦おうか……そうユウヤが考えていると、突如コウキに話しかけられた。
「おぉ、そこのキミ! 名前、なんて言うんだい?」
「あ、名前? オレは鳥岡ユ――」
「嘘をつくんじゃねえええええええ、ボケェェェ!」
コウキは憤怒し、火球をユウヤの頭上スレスレに投げつけてきた。
「あぶねっ! ……何すんだ!」
「正直に名を名乗ることしかできないぐらい、思い当たる罪状でもあんのかゴラアアアアアア!
お前の本当の名前は……ジェフリー・ゼピュロス・ホリズンイリス! そうだろう!」
「て、てめぇなぜそれを!」
「え、ユウサクお前いつも偽名使ってたのか!?」
「ジェフ……え、何て言った?」
「まさか本名では無かったとは、ですわ……」
「事情」を知らぬ女性陣から驚かれるユウヤ。だが、何より意外だったのが、ヒビキとカナが何やら事情を知っていそうなことだ。
「え!? ホリズンイリスって……オレ達を利用している、神の名を名乗る、伝説の一族の名前じゃねえか! どういうことだ!?」
「ユウヤがアタイを助けてくれたのは事実だけど……でも、そんなの初耳だぞ!?」
「え、いや、これは……」
ユウヤはたじろぐ。そもそも、ホリズンイリスとやらについてユウヤ自身もあまり知らないのだ。だが、このようなときに限って「最悪」は連鎖するもので……
「え、
「ウ、ウチも信用しないぞ! チーム・ウェザーの親玉とかじゃない、そうだよなユウタ!」
「アッハハハハハハハハ! 撮れ高抜群、ランキング急上昇! その絶望した顔、オレへの苛立ち! それこそ錬力術を爆発させる原動力となるんだ!
さぁ、怒れ、暴れろ、破壊衝動を巻き起こせぇ!」
コウキは大爆笑だ。そして、モニターには今の状況を空調の聞いた部屋から楽しむ大量のリスナーによるコメント。滝のように流れるそのコメントを1つ1つ拾うことなんて不可能だが、ただ1つ分かった事実は、「この何万人というリスナーが皆、コウキの味方」ということだ。
ユウヤの脳内に、もはや我慢という2文字は無い。潰してやる、消してやる、跡形も無く。皮肉にも、コウキの言う通り破壊衝動により今ユウヤは満たされている。そして、今錬力術を使えば世界まるごとまっさらにできる、そんな自信が不思議と湧いた。
ついに、気付けばユウヤの口は勝手に動いていた。
「……消してやる、やろうぜ。コウキ」
「あーゴメンね、最初の敵はオレじゃ〜無いっ! 出てこい、ニューヒーロー、ディジェスティフ」
「……承知」
大きな物音と地響きを起こしながら突如ユウヤ達の目の前に現れた人物。かなり恵まれたその大柄な体型。それにどこか冷静沈着そうな風貌。首元に怪しい首輪とペンダントを付けた、見覚えのある男。
「……本当の、世界にあるべきもの……何だと思う? 風谷ヨウマ」
「か、風谷……? おいおいふざけてんじゃねえぜ……タケトシだよな……?」
「風谷ヨウマ? ……おいコウキ、一体何をそいつに吹き込――」
「それは我だ、ヒビキ……!」
「ブ、ブティフール……! なぜだ……!」
次に現れたのはブティフールという白衣の男。ユウヤ達も彼には見覚えがあった。以前、タケトシを突如誘拐した者だ。
「理由を説明する前に、もう1人紹介人物がいる……出てこい!」
「やれやれ……やっとアイツを絶望させられるっちゅーんか……」
「そ、その話し方……! シュウタロウ、てめぇええええええ!」
「えっ、シュークリーム!? 嘘だよな、おい……なぜそちら側におるんだよ!?」
追いつけない。次から次へと新たな人物が現れる。混乱する一行に配慮したつもりなのか、シュウタロウが次に放った一言は単純、かつ冷酷なものであった。
「鳥岡、いやホリズンイリスか。とにかく……この、裏切り野郎……!」
「なっ……!」
「ワシに言ったこと、そのままお返しや……人間社会では鳥岡ユウヤと名乗り、しかしその正体はその文明を壊さんとするジェフリー・ゼピュロス・ホリズンイリス。
「やめろ、やめろ……うわああああああああああ!」
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