第100話 約束
「……先生」
「どうしました? 鳥岡君」
「オレ、普通の人類、では無いんですよね……今日確信……してしまいました」
シュウタロウが言ってきた言葉。ホリズンイリス族の使命というワード、裏切り者という怒号、ジェフリー・ゼピュロス・ホリズンイリスという呼び方。
思い返せば、夢の中でもそういった名前で呼ばれることが稀にあった。普段夢というのは昼頃にはその内容をほとんど忘れていることが多いものだが、その例の悪夢に至っては忘れたくても忘れられない、嫌でも脳裏に染みついてくるものだった。
これまでユウヤは平和を脅かすチーム・ウェザーと敵対してきた。その中で仲間もできた。どんどん敵を倒してきた。
だが、その言い出しっぺのユウヤ本人が「実は人類に牙を剥く側の存在」だと今日、確信してしまった。いや、思い出したと言うべきだろうか?
だが、だからといってチーム・ウェザーとの争いを中止するワケにはいかないし、奴らに加わることもできない。そもそも、親友のタケトシが囚われの身、今すぐにでも助けに行きたい程だ。
しかし、どちらにせよ「ユウヤの正体」が知れ渡れば自分は信用を失う。意図せぬ、望まぬ裏切りをしてしまうのが、本当に怖い。
友人、娯楽、日常。様々なものに囲まれることでそのトラウマを意識しないようにしていたが、今日をもってそれも難しいものとなった。不意にもユウヤの頬に、涙が流れる。それを横目に真銅も声を震わせながら返答する。
「ゼッ……鳥岡君、絶対忘れないでほしいことが、あるんです……」
「忘れないで、ほしい?」
「……そもそも平和と混乱は紙一重です。いかなる生活を支えてくれる物も、量や状況によっては牙を剥いてくる……錬力術の使い方を間違えなければ、平和を愛する普通の人類と何ら代わり無いのです」
「せ、先生……」
「……先生も、実は鳥岡君と同じような境遇なんです。だからこそ私達は、人間社会に牙を剥くなんてことは……絶対にやめましょうね……あと、これ」
「え?」
真銅は車を停め、小指を差し出してきた。急な出来事にユウヤは驚き、
「求婚すか?」
なんてちょろけてみたが、真銅はその小指をユウヤの手に当て、急に歌い出した。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます……指切った」
「えっ、オレもう19っすよ!? それに何で先生と――」
「まだまだ子どもよ、私からすれば、ね」
「こ、これ以上やるなら……学生課にチクりますよ」
「フフフ、元気出てよかったです」
真銅は前を向き、再び車を走らせる。不思議とユウヤは、普通なら謎な真銅の一連の行動に、どこか温かみを感じていた。
季節は春、ようやく暖かくなってきた頃。だが、今年のゴールデンウィークは……あまり楽には過ごせなさそうだ。
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