第97話 残り、3分

「石化……なかなかに厄介ですね……ならば今ここでその力、封印させて頂きます……!」


 真銅は着用していた虹色の服を一部引きちぎり、それをお札のようにヒカリの頬に貼り付ける。一体どのような力を込められているのだろうか、ヒカリが脱力していくのが見てとれる。


「な、何……これは……やめてください!」


 ヒカリはその布切れを引き剥がそうとするが、布は一向に1ミリも剥がれようとしない。ただでさえ脱力させられているというのに、焦るヒカリの体力はますます奪われていく。


 真銅は今なら助かる方法がある、というような悪人面でそれを見てヒカリの耳元で囁く。


「いいのですか? 強大な力を捨てる代わりに苦しい因縁を捨て、普通の人間として生きられるんですよ?」


「うる……さい……! 散れ、アポロン・ラン――」


「……チャコール・バインド!」


「……!? 動けな、い……それに焦げ臭い!」


「消し炭になりたくなければ……その炎を消しなさい」


 真銅は息を切らしながらもアポロンランチャーの炎を見つめながら囁き続ける。真銅の代表的な技、チャコール・バインドは相手を拘束するだけでなく、敵の動作や火気によっては攻撃技としても利用できる。

 ヒカリのアポロン・ランチャーもなかなかの火力がある技だ。だが、逆に言えばヒカリ自身が大きな爆発に巻き込まれる可能性がある、ということだ。


 ……屈辱。ヒカリにとって真銅は始末の対象だ。そんな真銅の言う通りにしないといけないなんて、そう考えるだけでヒカリの心の炎は熱く、醜く燃え上がる。


「消し炭、炎……? ならば全員道連れにしてやります、アポロン・ランチャアアアアア!」


「まさか……! やめなさ――」


 ドカアアアアアアン! 再び大きな爆炎が真銅とヒカリを包み込む。それを見てユウヤと戦闘中のシュウタロウは天井を見上げながら舌打ちをする。


「チッ、聞き分けない野郎や……! この建物だって耐久性は無限やない言うのに……!」


「耐久性?」


 ユウヤが問いかけると、シュウタロウは機嫌悪そうにユウヤを容赦なく突き飛ばす。


「ぐあっ!」


「建物がこうなっちゃう、ちゅーことや!」


 何度も何度もユウヤの体に蹴りが嵐のように襲いかかる。ペガサスの力を使ってもその実力差は埋められていない。このままでは全身の骨が砕けてしまいそうだ。

 だが、骨折なんてしている暇はない、ならば粉骨砕身、当たって砕けてやる! ユウヤは痛みを堪えながら立ち上がり、気合を入れながらシュウタロウに襲い掛かる。


ロデオ……砕け散れぇぇぇ!」


 今度は無数の蹴りがシュウタロウに浴びせられる。シュウタロウも腕でその猛攻を防ごうとするが、その表情に余裕はあまり無さそうだ。


「ぐあああっ……ワシのマネして……恥ずかしくないんか……」


「恥? 真似? 戯言吐いてる余裕があるのか? かなり苦しそうだけどなぁ!」


「苦しい……? ならイチかバチか、見せたろうやないかぁ! 必殺その3……”グラビティ“!」


「なっ……!」


 ユウヤの体は意志と関係なく天井に向かって。そして落下はどんどん速さを増し、天井に叩きつけられてしまった。成すすべなく術を受けたユウヤを見てシュウタロウは高笑いする。


「ハハハハハ! 空が恋しくなったのか、ペガサスちゃんよぉ」


「な、何が起きた……」


「今、重力の方向を変えたんや……鳥岡ユウヤ、お前自身だけのな」


「て、てめぇ……それならここから狩ってやる!」


 ユウヤは天井を蹴って滑空するようにシュウタロウに襲い掛かる……が、再びシュウタロウは


「グラビティ!」


 と叫ぶ。すると今度はユウヤの体は真っ逆さまに地面に落下し叩きつけられた。まるで自滅したように見えるその光景を見てシュウタロウはさらに笑う。


「おいおい、自らダメージを大きくするなんてな。自由落下より最初の勢いがあった方が勢いよく、速く落ちる……初速度が違うって習わんかったんか?」


「コ、コケにしやがって……」


 ユウヤが立ち上がろうとすると、ヒカリの絶望的とも言える宣言が部屋に響き渡った。


「さぁ、2発目行きますよ……石になるお時間ですううううう!」


「やべぇっ! これでも喰らえええっ!」


 ユウヤは風の球をヒカリに向かって投げつける。だが、すぐそばにはシュウタロウがいる。シュウタロウはやれやれとポーズを取り、その球に向かって目を見開いて叫んだ。


「お前アホか? 目の前に物理法則の支配者がおるんやぞ、あの球も関係ない方向に――」


「シュウタロウ。軌道、変わらんかったな」


「な、なぜだ……!?」


 風の球は狙い通りヒカリに命中、メドゥーサスカルプチャーはユウヤや真銅ではなく、この食料庫の周囲四方の壁を石に変えてしまった。



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