第61話 にんぎょうあそび

『速報 季節外れの猛吹雪 十分に警戒を』


「ん? 何だ、これ……? もう4月だってのに」


 ユウヤはベッドから起き上がって窓から外の様子を見てみると、そこは灰色と白の目まぐるしいコントラストが描かれていた。

 4月下旬に差し掛かろうとしている関西で、突然猛吹雪が降り出したのだ。明らかに異様な光景に疑問をいだきながらも、ユウヤは洗濯物を急いで取り込もうとする。


「雨なら理解できるけど、この時期に雪って……異常気象もいいところだ」


 やや乱暴にシャツやパンツなどを全て部屋の中に投げ入れていると、突然目の前に謎の赤い光が現れた。

 ユウヤが驚き腰を抜かしていると、その光の中から現れたのはなんとイチカとカエデだった。だが、当の2人も状況を理解できていないようで、イチカに至っては服装も寝巻きのままである。


「えっ!? 何が起こったんだ、ウチはさっきまで家にいたのに……」

「え、あれっ!? なんでユウヤの家に来てるの、私!?」


「オ、オレもわかんねぇ、なぜイチカとカエデがここにいるのか……」


 3人が戸惑っていると、家の前から見知らぬ女の声がした。


「それはね、アタシが呼び寄せたのよ!」


「だ、誰だ!」


 ユウヤが思わず返すと、地雷系ファッションを身にまとったその女は握り拳を立てながらユウヤに向かって叫んできた。


「アタシの名は氷室アズハ! ヒビキくんの仇を取るために、ここに来たのよ!」


「……ってことは、チーム・ウェザーのお仲間か。勘弁してく――」


「勘弁してほしいのはこっちよ!」


 金切り声を上げ、意味もなく叫ぶ。アズハは癇癪を起こしているようだ。その姿にユウヤ達は言葉を失う。見たところかなり憤怒しており、対話は少なくとも無理そうだ。


「あんなにクールでミステリアスで強くてイケメンで大好きなヒビキくんが! アンタとの戦いの直後から魂でも抜けたこのようになっちゃって……! あんなのアタシの知ってるヒビキくんじゃない!」


「おいユウタ! あいつ見たところやばそうだぜ、さっさと戸締まりして居留守使おーぜ!」

「そ、それは多分もう遅そ――」


「だからアンタ達の魂を刈り取りに来た、それでおあいこでしょ!」


「……分かったよ。そっち行くから着替えるの待て」


 しぶしぶユウヤが相手になろうとすると、アズハは片手に持った謎の機械をユウヤ達に向け、


「待たない、待つワケがない! さっさと来なさいよ!」


 と叫んだ。すると再びユウヤ達は赤い光に包まれ、その場からフッと消えてしまった。そしてユウヤ達が気付くとそこはアズハの目の前だったのだ。


「……な、何が起こった?」


 不思議な現象の連続に戸惑うユウヤだが、アズハは高笑いをしながらその解説をする。


「これはアタシ達の技術で作った機械。解説するとすれば、テレポートしたり特定の人を呼び寄せたりできるの」


「……なるほど、だから都合よくお前らの仲間はオレ達を襲撃し続けられたのか」


「その通りよ、理解早いじゃないの。その理解力があるなら、今からことも分かってるよね」


 そう言うとアズハはアスファルト上に微かに積もった雪をかき集め、小さな雪だるまを作り始めた。


「何をしている? お前らと雪合戦するつもりはないぞ」

「そ、そうだぞ! ウチ冷たいの苦手なんだならな!」


「あらあら、これは理解できなかったようね。解説するとすれば……アタシの錬力は物を自由に動かす。マリオネットのようにね」


「何が言いたい?」


「この小さな雪だるま。それをユウヤのコピーとして戦わせる。それがアタシの戦法」


 雪だるまに目を向けると、不思議なことにそれは段々と自ら成長を遂げるように大きくなっていく。手足が生え、顔が現れ、しまいには一人で自立したのだ。


「……オレ、トリオカユウヤ。タオス、ニセモノ、オマエラ」


「あ、あの雪だるま! 声から見た目まで全部ユウヤにそっくりだぞ!」

「た、確かにオレが!」


「ハハハハハ! まずは小手調べよ。アンタ達の実力がどんなものなのか、見せてもらおうかしら」


 ユウヤを模した雪だるまが、ドスドスと音を立てながらユウヤとイチカの前に立ちはだかった。

その“模倣品”に、アズハは指示を出す。


「さぁ、憎きユウヤ。あのチビかアホそうな女、好きな方から始末していいわよ」


「……ソレナラタタカウ、マズ、オンナカラ」


「ウチをご希望のようだな、いっちょ溶かしてやんよぉ!」


「……イクゾ」


 まるで風を切り裂くような勢いで雪だるまは駆け出した。その動きは人間のそれとまるで変わらず、そして殺意を抱きながらイチカに飛びかかってくる。


「クラエ! オオユキタックル!」


「させねぇよ、散射炒さんしゃいん!」


「ナッ、ナニヲ!」


(い、いきなり高火力の技を!?)


 無数の拳と脚が雪だるまに襲いかかる。氷のように固められたその胴体も少しずつ削られていくが、まるで氷山に蝋燭を当てているかのように、その雪に熱気が効いていない。


「くっそおおおお! 雪だるまならさっさと溶けやがれえええええ!」


「ムダ、オレ、タダノユキダルマジャナイ!」


「うるっせええええええええ!」


 イチカもさらにその攻撃スピードを上げていくが、雪だるまの動きを止めるのがやっとだ。イチカの頬に汗が流れる。だんだん顔も赤く染まってきており、このまま攻撃を続けるのは難しそうだ。


「くっ……そろそろやべぇ……」


「スタミナガ、キレテキテルゾ! コノママ、ラクニシテヤル!」


「な、何をっ!」


「させねぇ、タイフーン・ストレエエエエエ――」


「ダマッテロ、オレノニセモノ! ブリザード・ツーシーム!」


「ぐああっ!」


「ユウヤアアアア!」


 ユウヤは助太刀しようとしたものの返り討ちにあった。心配そうにユウヤの方を見たイチカには大きな隙が出来上がる。


「スキアリイイイイイイ! オマエニモ、オナジワザヲアビセル!」


「し、しまっ――」

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