第48話 鍔迫り合い

 繭からは翼が生えたユウヤが現れた。その翼は白銀色ながら消えては現れを繰り返している。こして虹色の模様が何よりも美しい。カエデ達は、そのユウヤの変化に目を奪われる


「え……ユウヤ、だよね?」


 ユウヤが見つめるのはヒビキ、ただ一人だ。全てを見透かすように、ただじっとヒビキを見つめる。そして、に抵抗するかのように固く口を動かす。


「ワタ……オレが……ユ……ウヤだ!」


「……面白れぇ」


 ヒビキは思いっきり力を貯め、その身に雷を纏ってユウヤに突進してくる。その軌道上に付いていく足跡はむしろ黒く焼き焦げたような跡であり、その雷の威力が伺える。

 対するユウヤは翼を広げてじっとヒビキを見つめている。獲物を狙うハンターのように、精神を研ぎ澄ませ、ただ“狩りの時”を待っている。


「冥土の土産に教えておいてやろう! この技は輝却ききゃく! 喰らえばたちまち! 痛みを感じる前に消し炭となってる!」


「……そんな技、オ……ワタシには効き……効かねーよ!」


「理性をギリギリ保つのがやっとのお前に、この技を封じられる余裕があるかなぁ! 自然に帰れることを感謝しろ! 輝却ぁぁぁっ!」


「お前こそそんなに喋ってい――」


 爆発音なのか、電気がほとばしる音なのか? この世のものとは思えない、聞いたこともないような爆音と光が2人の中心から放たれた。


「う、うわあああああっ!」

「何だこれ、やかましいし、眩しい!」

「……っ!」


 光の中では鍔迫り合いが繰り広げられている。雷なんて比にならないほどの電流を込めた脚によるオーバーヘッドキックは、何とユウヤの片翼で簡単に止められていたのだ。

 ほとばしる閃光が、復興中の大学を駆け巡る。鉄を溶接、切断するときよりも遥かに強く激しい火花が、翼と脚の間で暴れている。


「な、なにぃぃぃぃ! オレの輝脚が効かぬだとおぉ!?」


「あの時もそうだったろ! あの時もお前というが急に襲ってきたという!」


「何だと、窮地?」


「オレは窮地でこそ本当の力を発揮できる! ましてや、お前が聖霊の力を利用する、その方法を教えてくれたからなあああああ!」


「し、しまった……!」


「お前はバカなやつだぜ! お前らの時計をズラしてくれていた、あの部下カナの方が、よっぽど頭が切れていたああああ!」


「ほざけえええええええ!」


 ヒビキはさらに脚に纏った雷の威力を増幅させてきた。電撃だけでない、かなりの強熱が翼を焼き尽くそうとする。


「お前を潰してあの方に認められるならば! オレはこの身が灰になっても構わないっ!」


「……やめとけ、ヒビキ!」


「うるせええええ! ほざけほざけ、ほざけええええ! その身を焦がし崩れて灰となり! 生命のサイクルに貢献しやがれええええええ!」


「……“悪役に憧れて真似しました〜みたいなセリフ吐きやがって」


「ぐ、ぐわああああああ!」


 ユウヤはヒビキを跳ね飛ばした。そして翼を使い、ふわふわと浮遊して真上に浮かぶ。


「上に立つんじゃねぇ! 撃ち落とす、億雷鉄砲おくらいでっぽうぉぉぉぉぉぉぉ!」


 まるで散弾銃のように、飛び出す無数の閃光。そしてそれぞれの雷が段々絡み合い、やがて2本になった雷の束がDNAのように螺旋を描き、ユウヤに向かって駆けていく。ヒビキは高笑いをしながらユウヤを見つめている。


「ハハハハハハハハッ! まともに喰らえば骨すら残らねぇ!」


「くっ!」


 ユウヤは慌てて上昇し、雷から逃げる。何メートル上がっても、何メートル横に逃げても未だに追跡をやめない。

 いつまでも追いかけてくる雷についにしびれを切らしたユウヤは全身のありったけの力を込め、風の球を雷に向かって投げつける。


「マジで本気ほんきの! タイフーン・ストレエエエエエエエエエエエエト!」


「バカはそっちだ! ボールなんかで雷を防げるワケが……何っ!?」


 ヒビキは驚いた。初・リサトミ大学襲撃時。自らをふっ飛ばしたあの技が、雷の束すら押し返せる技であったことを。あの技が、ここまで強くなっていることを。そして、いつの間にかユウヤは完全に聖霊を制御できていることを!


「……んなハズがねぇ! これがありったけだああああああ!」


 ヒビキはさらに雷を追加で撃ってくる。


「この世の端まで吹っ飛ばす、このクソ野郎があああああああ!」


 暴風と迅雷がぶつかり合い、体験したこともない衝撃がカエデ達に降りかかる。


「ひゃあっ! 何とか木に掴まってないと……!」

「オイオイ、これやりすぎじゃねーか!? また大学壊れちまうぞ!」

「……タロットカード、正位置の戦車。この意味は――」

「「何でそんな余裕なのー!」」


「押し切る! そして焼き尽くす、名前以外の全てをなあああああ!」


「させねえ、チーム・ウェザーを潰すまでなああああああ!」


 鍔迫り合いはまだ続く。あまりの衝撃に、ヒビキとユウヤが着ている服が破れて穴が空いていく。

 ヒビキの腕には大量の腕輪が付けられている。どれもチーム・ウェザーがどうのこうの……ユウヤは違和感を覚えた。

 ただの腕輪ではなく、どこかメカメカしいというか、不思議とヒビキに何かを与えているような気がしたのだ。

 それを発見するやいなや、ユウヤの口は勝手に動いていた。

 

「メイ! あの腕を見てくれ、あの大量の腕輪を!」


「えぇっ! 分かりましたわ!」


 メイはゴムボールを取り出し、撫で回すような仕草を見せる。ヒビキもそれにすぐに気付いたが、両手が塞がっている状態だ。メイを攻撃する余裕は無い。


「見つけました、洗脳、かつ力の付与! それがあの腕輪ですわ!」


「サンキュー! ならあれをぶっ壊せば、確実に勝てる!」

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