第42話 降り注ぐ豪腕、ヴィアンド
「ガハハハハ! こいつが噂のユウヤっていうヤツか。結構チビじゃねぇか、片腕で勝てそうだぜ」
「あぁ? お前、ヴィアンドとかいうヤツか?」
「おおっ、その名前知ってるとはな! オレも出世した証拠だな」
ヴィアンドという男は豪快に手を叩いて喜んでいる。カナが言っていた通り、かなり強そうな見た目をしている。名前を知っていたことに対してかなり気分を良くしている様子だが、決して油断はできない。
一方ヒビキは怪訝な顔でこちらを見ている。何かを怪しむような、疑心暗鬼に陥っているような、そんな表情だ。
(ユウヤ、なぜヴィアンドの名を知っている? こいつは伐採とか狩りとか建物解体とか、そういう裏方仕事が主なはず……)
そんなヒビキはさておき、ヴィアンドは肩慣らしをしながら笑顔でユウヤに語りかけてくる。
「改めて自己紹介! オレはヴィアンド、とてもデカいだろ? いつもはアジト近くにまで降りてきたクマとかを退治してんだ。だから嬉しいんだぜぇ、イキのいい人間を今からぶっ潰せるのがな!」
「い、痛てぇっ! 肩外れんじゃねえか!」
ヴィアンドは豪快に笑いながらユウヤの肩を叩いてきた。これはスキンシップなのか、今から叩き潰すというメッセージなのか。とにかくこのゴリラ、ナメてかかっては確実にスクラップだ。
ヒビキは未だに何かを考えるような仕草を見せながらも、近くの肘置きが焼き焦げたベンチに腰掛けて宣言した。
「まずはお手並み拝見だ、ユウヤ! こいつを倒すことができたならオレと戦おう! しかし……」
「しかし?」
「負けたらこの大学を、完全に焼き切る」
「……ざけんなテメェ! そんなルールオレには関係ねぇ、速攻ぶっ潰し――」
「おーっと、オレから目を離していいのかぁ?」
「ぐああああああああ!」
ヴィアンドは手首を掴み、かなり強く締め付けてくる。骨が今にも砕けそうだ、ユウヤは手を上げて“降参”のポーズを取ると解放された。
(演技にしても屈辱だ、降参だなんて……)
ユウヤは一旦距離を置くと、一度深呼吸して絞り出すように言った。
「……わかった。勝負しよう、ヴィアンド」
「ガハハハハ! そうこなくっちゃなぁ。それじゃ、26分以内に潰してやろう!」
(ん? 意外と繊細だな……)
「さぁさぁ楽しませろよ! デスマッチ、スタートオオオオオオアアアアア!」
かなりテンション高めにヒビキが宣言した途端、ヴィアンドは勢いつけてユウヤに殴りかかってきた!
「あ、あぶねぇ!」
まだ所々にガレキが少し残ったキャンパス内で試合が始まった。犬のフンに対してそうするように、そこだけ避ければいいだけなので歩いたり走ったりするには問題がない。
しかし、
「あ、あの腕の振り。まるで4番打者のバットのようだ……」
「何をぶつくさ喋ってんだぁ? 全身骨折だけじゃ済まないぜぇ!」
ヴィアンドはさらに殴りかかってくる。避ける、避ける、それでもなお殴ってくる。動きは単調、されど油断してはならない。
今のところ試合は押されている、完全に相手のペースだ。ならば、やってみるか? ユウヤが動き出す。
「タイフーン、ストレートォォォ!」
ユウヤは急いで起こした風を大きく膨らませた後、ギュウウウと球状に圧縮する。そうして出来上がった球は軽く、だがかなりの圧力を内側から感じ、その形を維持させるだけでも正直精いっぱいだ。そしてその球を力いっぱいヴィアンドに向けて投げつけた。ビュウウウと風が風を切るように音を立てながら真っ直ぐに向かっていく。だが……
「……下敷きで扇がれてるみてぇだな、これ」
まさか、ヴィアンドはその球を軽く左手で軽くはらってしまったのだ。まるでカット打ちをしたかのように真後ろに飛んでいった風の球は勢いよく後ろの建物へと激突した。
「そ、そんな……」
ユウヤは絶望する。カナが言っていた、「ヴィアンドはアタイより、アンタよりずっと強い」という言葉の意味がようやく理解できた。この実力差は月とスッポン、いや太陽と蝋燭の火だ。
それを見てまたまたヴィアンドは豪快に笑い声を上げ、ユウヤをバカにするような表情で言った。
「へへへ、ちょっと遊んでやってもいいかもしれんな。ガハハハハ!」
「ナ、ナメてんじゃ、ねぇぞ……」
そんな時だった。戦いを観戦しているヒビキが突然アントに怒鳴りつけた。
「いいか、14時までに! 残り22分以内に片付けやがれ、まさかそれは忘れてねぇよなぁ! 普通ラクショーに倒せる相手なんだからぁ!」
「ん、なぜここまで時間に細かい? てか、それだけしか経ってないんだな」
やはりどこかおかしい。さっきから26分以内とか22分以内とか、やけに細かく時間を気にしているのだ。
一度整理すると、アントは13時55分までにユウヤを始末しようとしてくる。これはカナが言っていたヒビキ達が来る予定時刻の14時からちょうど5分前になる時間だ。
まさか、14時ジャストにこの大学構内全てを焼き切るような大技をしかけるつもりなのだろうか? だとすればすぐに撃退してここから逃げなければならないが、現状ユウヤの攻撃が全く効いていない。一体どうすれば……
その時だった。まだ通話を繋げたままだったスマホからメイの叫び声が響いた。
「まだ生きてらっしゃいますか!? とにかく、とにかく今は相手から攻撃を喰らわないようにしてください!」
「えっ!? それはどういうこ――」
「オイオイ作戦会議か? させねぇぞ!」
「うわ、ちょっと! やめ――」
ヴィアンドはユウヤのスマホを奪い取り、植木の中へと投げ捨ててしまった。
「ガハハハハハ! さぁ、行くぞユウヤ!」
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