第20話 ネンミの奇襲

 カエデは栄田のカフェから帰った後、図書館でネットでチーム・ウェザーについて検索していた。何か情報を得ることができればこれからチーム・ウェザーと戦っていく中で有利に働くと考えたからだ。

 検索結果に並ぶのはネットニュース記事、まとめサイト、そして被害者が立ち上げたと思われるサイト。その中に、1つ異色を放つサイトを見つけた。


「なになに……? “未来を創るチーム・ウェザーの活動記録”?」


 更新日を見たところ2050年4月7日、今からちょうど9年ほど前のブログページだ。カエデは恐る恐るそのページを開くと、素人が作ったようなシンプルなデザインのページには最新順に5つタイトルが表示されている。



“WE creATe tHE futuRe,略してWeather!”


2050年4月7日 虹が出てたよ〜

2050年1月10日 あけおめで〜す

2049年7月6日 イリさんが加入してくれました!

2049年6月19日 スポーツ大会実施!

2049年5月25日 錬力スポーツ施設を視察!”



「……何これ」


 イチカは何とも言えない気持ちに襲われた。興味本位で下からページを読んでいくことにした。



“2049年5月25日 ゴミ拾い!


 今日は街中に落ちてるゴミをみんなで拾いました! タバコ、軍手の片方、ポケットティッシュ……たくさんのゴミが集まりました! 街がきれいになってうれしい!



 2049年6月19日 スポーツ大会実施!


 今日は地域の子ども達のためにスポーツ大会を開きました!子ども達もみんなワイワイと体を動かしています! 特にカナさんという方がとても活発そうに動いているのが印象に残りましたね〜 また来年も開きたいな〜



 2049年7月6日 イリさんが加入してくれました!

 

 さて、今日は新メンバーを紹介します! ニックネームはイリさんで、自称200歳のとってもミステリアスな人です笑

 彼は世界の平和のために活動していきたいとコメントしてくれました! 夢でっかい!



 2050年1月10日 あけおめで〜す


 どうも、チーム・ウェザーです。新年になりましたがこれからチーム・ウェザーはメンバーをさらに増やしていきたいと考えております。世界の平和のために。


 2050年4月7日 虹が出てたよ〜


 ご無沙汰しております。空に綺麗な虹が出ていたので共有します。こんな空を守り続けたいですね。”



「……うぇ、何これ?」


 カエデは頭の中に「?」が浮かんでいた。何より気になるのが2050年からの記事は口調が大きく変わっているということ、そしてチーム・ウェザーがボランティア活動を報告している点だ。

 かなり前のページということから、同じ名前の団体が偶然以前に存在していただけだろうか? もしくは、“何か”があって過激派組織に変わってしまったのだろうか。どちらにせよ今カエデ達が対峙しているチーム・ウェザーは悪そのものであり、その限りは必ず滅さなければならないものだとカエデは認識していた。


 カエデがパソコンの電源を落とした瞬間、暗転したモニターには見知らぬ顔が映り込んでいた。包帯で上半分をぐるぐるに巻き、下半分をむき出しにしている顔。


 カエデは思わず驚いて後ろを振り返ると、その口角はニヤリと不気味に笑った。そしてかなりオーバーサイズのシャツをバサッとなびかせた瞬間、カエデとその男の周りの空間は図書館から切り離され、まるで宇宙空間のように暗い部屋へと移り変わった。


「こ、これ何!?」


「これは我が主から授かりし空間……俺は今、とある呪いのせいでこの中でしか本気を出せぬ。貴様は禁忌、決して見てはならぬブツを見た、だから裁かなければならない」


 男は右手首を左手で掴みながら呟いた。傷口があるかどうかは身につけている漆黒の指ぬきグローブのせいで分からない。


「も、もしかして貴方もチーム・ウェザーの手下なの!?」


「その通りだ……ヒビキの野郎が最近恥を晒してばかりのようだからな。あいつとは別の、我が主から派遣されたのさ」


「わ、我が主!? ヒビキ以外にもボスが!?」


「まぁ、どうせ貴様はこのネンミによって裁かれる……オレの錬力は水温! 冷水から熱湯まで自由自在! さぁ、あの世で永遠に醜態を晒せ!」


 ネンミはゆっくりともだえ苦しむような声を上げつつ右腕を痛上へ持ち上げた。そして勢いをつけて振り下ろすと共に黒い空間に湯気が立ち込めてゆく。


「何これ!? どんどん暑く……!」


「空気中の水分を温めているのさ。 そのうちサウナだって逃げ出すぐらいアチアチになるだろうなぁ!」


 蒸し風呂状態の中でカエデは体力をどんどん失っていく。それも当然だろう。空調の効いた環境から全身から汗が吹き出す密室へと一変したのだから。


 だが勝算はある。見たところ、既にネンミも少し息切れし始めており、「環境を変化させつつも自分はその影響を受けない」というものではないようだ。カエデは脱水で倒れないうちに倒してしまおうと考えた。


「ユウヤがやってたように一点に力をためて爆発させる! ぶっつけ本番になるけど……」


 カエデはユウヤの必殺技、タイフーンストレートから着想を得た新技でエンミを倒そうとした。一点に力を集中させた大きな種を解き放った。


「うまくいって! スナバコノキ!」


 爆発音とともに巨大な種が吹き飛び、エンミを貫かんとまっすぐに駆けていった。


「……練度が低いな、静止して見える」


 ネンミは簡単にそれを避けると、種は後ろの黒壁に激突して爆発した。

 そしてすぐに仕返しと言わんばかりに反撃の体制に移行する。再び右腕を掲げ、いつでも攻撃できると言わんばかりにカエデを嘲笑う。


「今度はこちらから行くぞ、今度は冷却! お前の体自体をなぁ!」


 ネンミは叫び声とともにカエデに向かって腕を振り下ろした。すると先程まで蒸し暑く感じていた部屋が一変し、真冬のような寒さがカエデを襲った。


「こ、今度はとても寒い……ヘクションッ!」


「おうおう、寒暖差なんちゃらとか言うやつかぁ? さぁ、絶対零度の前に朽ち果てなぁ!」


「悪いけどそうはいかない、ホウセンカァァァ!」


 今度はカエデは出し慣れた技でネンミを攻撃しようとした。種がビリヤードの球のように空間中を駆け続け、やがて集中砲火しようとネンミの方に向かって集まった...かと思ったその時だった。


 ボリボリボリィ……


 種が全て音を立てて崩れていった。床には木屑のように乾燥してバラバラになった種が散らばっており、カエデは何が起きたのか理解できずにいる。


「な、何で!? これは私の得意技なのに!」


「ハァ、ハァ……寒い中だと……植物ってうまく育たねぇんだぜ? 特に……ホウセンカは夏の花、オレの術の中では相性悪いに決まってらぁ! ハァ、ハァ……」


「そ、そうだった……去年習ったんだった、植物にはそれぞれ合う季節が存在する……」


「さっきオレ達について調査していたようだが……お前らを消せという命令通り……これで決める!」


 またまたネンミは部屋を温め始めた。室温が数十度もの幅で目まぐるしく上下する中、カエデの体力は限界に達していた。錬力術の使用も相まって……


「い、一体どうすれば……っ!」


「最悪……道連れにしてやらぁ、敵ながらカワイ娘ちゃんと心中できるだけでなく……我が主にお喜びを献上できるなんて本望だ」


 ネンミがニヤニヤと笑いだしたのから視線を外そうとすると、カエデの視界には外の空間、もとい図書館が見えた。スナバコノキを発動させ、命中した壁の部分は破れており、外界が姿を表したのだ。


(もう体力はほとんど残っていない、これにかけるしかない!)


 カエデは体力を振り絞り、再びスナバコノキで攻撃しようとする。

それを見てネンミは簡単に回避し、また笑い出した。


「学習能力が欠如しているようだな、その技は無駄だぁ! そしてお前もここで共に散れぇ!」


「学習能力がないのはアンタの方よ! 後ろを見なさい!」


 カエデは後ろを指差した。ネンミが不思議そうに後ろに顔を向けると、壁にはサッカーボールほどの大きさの穴がぽっかりと開いていた。


「し、しまったぞ! これまでに穴が開いてしまうと……!」


 ネンミは力を使い果たしたようにフラフラと倒れてしまった。そして室温も徐々に元に戻ったのを確認すると、カエデはネンミに近づいて力を貯め始めた。



「散々言ってきたことのお返しよ! さぁ、もう一度喰らいなさい!」


「ひ、ひょええええええええ!」


 カエデはネンミに近づき、見せつけるように両手を体の前で構えた。


「や、やめてくれぇ! オレは本当は弱いんだ、錬力値もたったの50r! だから見逃してくれ、どうか!」


「何? 50rって。全然わからないんだけど」


「錬力術の最大エネルギーの大きさだよ! その人が出せるエネルギーの! オレはあの空間内じゃないとダメなんだ……もう悪さはしない、頼む!」


 ネンミは藁にもすがるような勢いで頼み込んでくる。奇襲をしかけてきた時とはまるで真逆だ。思わずカエデはため息をつき、ようやく口を開いた。


「……わかった。じゃあ今から1分以内にここから立ち去りなさい」


 するとネンミは急に態度を変え、


「あ、ありがてぇ……それじゃお言葉に甘えて……」


 ネンミは足を引きずりながら図書室を後にすると、ドアが閉まった途端猛スピードで逃げていった。


「あ! 急に元気になった!」


「……バカめがぁ! まだ元気を使い果たしたワケではねぇよ! さて、一旦帰ってまた逆襲に行くか。“あの能力”が馴染んだときにでもな」


 ネンミはそのままどこかへと走り去っていった……

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