第3話:見知らぬおじさんに見せる女装

 そこから登也は、そのおじさんに言われるとおりの行動を、目の前に次々と再現して見せる。その内容は奇妙なものばかりである。


「登也さん。あなたはまだ名乗り出ていませんけど、確か夢の中であなたがそんな名前だと記憶しました」


「……確かに、その通りです」


「これからあなたに、女装をしてもらいます。あなたの両親が、女装をするあなたに視線を釘付けなのが、私の見た夢の中で知りました」


「そんなマイナーなところまで知ったのでしたか……」


「そう言われると気分が嫌ですか? 家族以外の人に女装を見せることが抵抗あれば、無理強いをさせませんよ」


「まあ、今晩限りの付き合いということなら……、見せてあげてもいいでしょう」


「分かりました。あなたのお気に入りの女装の服は確か、黄色のドレスですね。あなたは夢の中でそう言います」


「その通りです。だけど、他にもいろんなドレスの色の種類が揃えてあります。どれがいいですか?」


「そうだな、私の好きな色は橙でした。橙色のドレスを着てきてください」


「橙色のドレスですか、分かります」という登也が一旦リビングを退く。


 登也に色とりどりのドレス衣装を更衣室の中に閉まってある。そこから衣装の一着を彼の手が引き出すと着替える。ドレスの着脱に、そのための特殊な機械を使う。この装置のフックを使えば、背中のジッパーが一人で上げられる仕掛けだ。


 そして、次にリビングを登也が現れる。彼が着る眩しい橙色のドレスの衣装の姿を目前に、おじさんの目は文字通り釘付けになった。


「この橙色のドレス衣装はどうでしょうか?」


「ふむ、健気な包容力がある明るいドレスだ」


「これはどうですか」という登也が鮮やかなドレス衣装で一回転して見せる。ドレスのスカートの淵が空気で膨らむ。


「その身のこなし方や仕草と言い、文句の着けようはない。君は家族以外の人にこの素晴らしい衣装を着て見せるのがこれで初めてなのかな?」


「はい、そうです。どうでしょうか、おじさんは喜んでいただけましたか?」


「もちろん大変に良い眺めだ。見せてくれて満足だ。ありがとう。そんな君の美しい晴れ姿が、生で見られて私は十分嬉しかったよ」


「おじさんが喜んで頂けて僕は何より光栄です」という登也が女性らしく一礼を取ってみせる。


「確か他にもドレスの色はまだあるな?」


「はい、他にも着られるドレスの色はたくさん用意であります」


「そうだったら、次は君の好きな黄色いドレスを着てお披露目してくれないか?」


「はい。それでは一旦衣裳部屋に行って着替えます」という登也は一旦着替え室に引っ込む。


 登也は橙色の服の背中のフックを、部屋の中の特別な着せ替え用の機械にひっかけると、脱着を行う。橙色のドレスを衣装タンスの中にかけ、そこから黄色のドレスをつかみ取る。そのドレスを着せ替え用の機械のフックにひっかけて、背中のジッパーを上げる。


 五分後、登也は黄色いドレス姿でおじさんが待った居間を立ち戻る。そして、淑女的に一礼をすると、登也が聞く。


「どうでしょうかこの姿、似合っていますか?」


「先ほどのドレスに劣らぬ明るさだ。更に気品も感じさせる。君が好きな色の理由も分かるくらい、似合う色だ」


「ほめてくれてありがとうございます。好きな色を褒められてもらうのが嬉しいです」


「さて、次の色を行きたかったが、何か君をリクエストがあるかな。もしなければ緑でどうだろうか」


「分かります。じゃあ次は緑色のドレスで着替えてきます。それまで少しだけ待ってください」という登也は着替え室に引っ込む。


 黄色いドレスを脱着用の特殊な機械にフックを掛けて脱ぎ、新たに衣装タンスから緑色のドレスを取り出す。


 五分後、登也は見知らぬおじさんの目の前に、新しい緑のドレス衣装を着て立ち戻る。


「この緑色のドレスはどうでしょうか?」


「なかなか似合う姿だな。橙や黄色に比べて色はだいぶ落ち着く。これもありだろう。ところで、君はドレス姿になるとき、一人作業だと大変なんじゃないか?」


「今どきのドレスの着脱は、一人でも行えます。ほら、背中のジッパーを見てください」


 そう言われて、見知らぬおじさんは、登也の背後の方に回った。そして、背中の方のジッパーに視線を向けてきた。おじさんの生々しかった視線を背中に浴びる。


「背中のジッパーの留め具がワッカ状で大きくなっているな」


「この部分を使います。途中まで僕がドレスを着る際に、このワッカをドレス装着機械にひっかけておくと、機械は自動的にジッパーを縛り上げてくれます。だから脱着は簡単です」


「なるほど、そういうからくりだったから、着替えが早いんだな。よし、それならそろそろまた新しい色のドレスを着てもらおうか」


「そうですね、色を指定してください」


「だったら、緑の次は青でどうだろうか」


「分かります、青ですね。このドレスを脱ぐ後に着てきましょう」という登也はまた着替え室に引っ込む。


 いつもの要領で彼がドレスを脱ぐ。彼の手元は、青のドレス衣装に緑色のドレス衣装から変わる。


 五分後、登也は見知らぬおじさんの元に、新しい青の色のドレス姿を見せて登場する。


「この青いドレスはどうでしょうか?」


「清涼感があって、爽やかだな。人格もよりよさそうな印象を与えさせる。君のクールな魅力が倍上がる感じを受けたな」


「そうでしたか、気に入って頂けて僕は嬉しいです」という登也は華麗に体を一回転してみせる。


 青いドレスの淵が円を描くように周辺を膨れ上がる。


「ひょっとすると、君は暖色系も寒色系もどちらも似合う体質なのかもしれない。黄色と言い青と言い、異なる性質の色でも、君が様々な色の持ち味を引き出すように着こなし似合わせてしまえる見事な魅力を持つみたいだな。ますます女性的な可憐さを兼ねそろえる少年だと感じた」


「どういたしまして。気に入って頂けて僕は何よりです」


「まだ確か、後三色ぐらい着られる服装があるな。白、赤、それにピンクかな」


「そこまで知っているなんて、さすがおじさんですね。何色が見たくなりましたか?」


「じゃあ、最初は白でお願いしよう」


「分かります。少しだけ待ってください」という登也は着替え室の中に入る。


 白のドレス衣装で背中のジッパーはジーッと上げる。何度も様々なドレスの脱着の際に、ジッパーを上げ下げする内に、彼は美しい女性で生まれ変わったような気分が味わえる。


 それからまた五分後、着替えを更衣室に済ませる登也は、白い衣装のドレス姿で、おじさんが待った目の前を向かい立つ。


「どうですか、この白いドレス衣装は、素敵でしょう」


「文句のない潔癖な色だ。君の心も、その白の無垢な特性に上手く染まるみたいな感じだな。明るいし汚れのない綺麗な色だ」


「そうでしたか、褒めてくれてありがとうございます」


「白が似合うなら、おそらく明るい赤も似合うかもしれない。また次も着替えてくれないか?」


「はい、喜んで」という登也は着替え室に引っ込む。


 白いドレス衣装のジッパーの次は、赤いドレス衣装のジッパーになる。


 五分後、深紅のドレス衣装を着る登也が、見知らぬおじさんの目の前を立ち現れる。


「どうですか、このドレスは、目立つでしょう」


「素晴らしい。情熱的な赤とはよく言ったものだな。君の魅力が一層よりくっきり伝わった。深く美しい大人的な色のドレスだな。それを着こなせる君のことが羨ましかった」


「そこまで褒めてもらえて、ありがとうございます」


「それでは、本日最後の色に行こう。一見して他の色以上に女性的とされるピンクはどうかな。しかし、ドレス衣装の似合う姿に男性も女性も関係ない。女性的な印象の魅力が取り柄の君ならば、少年でもピンク色のドレスは鮮やかに着こなせるだろう」


「分かります。それでは今、着替えます」という登也は再び着替え室に入り込む。


 以前と同じ要領で、登也は手際良く新しいピンク色の衣装に、赤のドレスから脱着させる。


 五分後、登也は最後の衣装にピンク色のドレスを着ると、見知らぬおじさんがいるところの目の前を立つ。


「最後のピンク色のドレスです。どうでしょうか?」


「最高だ。ピンクを着こなせる少年の君が、羨ましいくらいだ」


「実は、このピンクのドレスでは両親に最も印象は好かれる色の一つなんです。知っていましたね。だから最後の順番にピンクの衣装のお披露目は回したのでしょうか?」


「その通りだ。君に様々な色のドレスを着せて君のご両親が楽しんでいたのだな。私の家庭に一人娘はいた。その大切な娘と君が印象で被ったんだ。いろんな色のドレスを持つことと言い、私が娘を愛したように、君はご両親に愛されるのだろう。君を美しくなった私の娘の姿に重ね合わせて見ていたんだ」


「自慢の娘をおじさんの家には一人持っていたんでしたね。今夜を僕がその代わりでおじさんは楽しんでくださいましたか?」


「もちろん、美しいドレスをいろいろと着飾ってくれた少年の君に感謝をしている。本当にありがとう」


「どういたしまして。こちらこそ我が子のように僕を愛してくれたおじさんに感謝します。ありがとう」という登也は尚更に女性的な仕草をとってお辞儀する。


 その仕草の魅了に、見知らぬおじさんは心から喜んで微笑んだりしてくれた。その反応を見られ、登也が心から安堵する。


「今宵のドレスショーはこれで終いとしよう。いつもの元の服に着替えてきておくれ」


「分かります。更衣室に戻ります」


 フ―ッと、そこで登也が息を着きつつ、本日最後になるピンクの衣装を脱ぎに、更衣室の方へ向かい戻る。





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