3-8 怪獣退治
チェインたちの視線の先では、狩りが行われていた。
今では小さな点のように見えるドラゴンジャーは、姿かたちがはっきりと見えるカラスの怪獣に襲われていた。
カラスはドラゴンジャーを虫のようについばみ、その命を終わりにしていった。
ドラゴンジャーの身体の一部だったものが、いくつも雲の下に落ちていく。
その様子は、チェインたちにも見えていた。
「……」
カーニャが無言でチェインにしがみつく。
「……なんだ?」
「見殺しにしたの?」
カーニャが小さな声で聞く。
「見殺しではない。あいつらがいると邪魔になってやりづらいから、消えるまで待っただけだ」
「それを見殺しっていうんだよ」
カーニャがチェインを睨みつけて言う。
カラスが5匹の虫を駆除し、国のほうを向く。そこには、別の2匹の虫がいた。
カラスは構わずに、国への突撃を開始した。
「結局、あいつらに何を言っても聞かなかっただろう。それに今回は時間もない。だから手短に済ませた」
チェインは表情を変えずに言った。
「私なら、あいつらをぶん殴って地上にたたき落としてでも止めたわよ」
「……」
チェインは黙ったまま前を見る。
その先には、まっすぐこちらに飛んでくる巨大なカラス。体高は700mほどあり、翼長は2kmを超えている。
「……その手があったな。忘れていた」
「ええ……」
チェインの発言にカーニャが呆れたように声を漏らす。
「そろそろ離れろ」
カーニャがチェインから体を離すと、チェインはカラスに向かって突撃を開始した。
お互いの距離がある程度縮まったあと、カラスは急加速をし、鋭いくちばしでチェインへ突きを繰り出した。
まるで頭だけ瞬間移動したかのような素早い突きだったが、チェインもそれに反応し上に回避した。
続けてチェインは前に加速し、カラスの眉間に蹴りを入れた。
「ギィエッ!?」
明らかな痛みと抵抗を感じたカラスは後ろに飛び退いた。
「へぇ、やるじゃん」
その様子を見ていたカーニャが感心しながら言う。
するとカラスはその場でせわしなく羽ばたき始めた。
辺りに風が発生し、それはどんどん勢いを増していき、終いにはいくつかの竜巻になった。
竜巻一つ一つが周囲の空気を掻き乱し、不規則な突風を作り出す。
「容赦ないわね……、これ地上大丈夫?」
カーニャが暴風の中でうまい具合にホバリングしながら言う。
チェインは暴風をものともせず、カラスの周囲を飛び回る。
するとカラスがチェインに向けて羽を振り、無数の風の刃を飛ばした。
少し前にカーニャとドラゴンジャーのグリーンが飛ばしていた『エアーカッター』とほぼ同じもの。
違う点といえば、一つ一つが巨大で、チェインの全長の2倍ほどの大きさだった。
チェインは自分に向かってくる無数のエアーカッターを避けつつ、カラスへと接近した。
その最中、チェインはエアーカッターのいくつかを手で受け止め、そこらに放り投げていた。
チェインがある程度カラスに近づいたその時、カラスがチェインに翼を振り降ろした。
チェインは向かってくる翼を両腕で受け止めると、それを思いきり引っ張った。
「!?」
カラスの身体はチェインに引き寄せられ、何が起きたのかすぐに理解できずにいた。
チェインはカラスの翼の根元をしっかりと掴むと、
「悪く思うなよ」
そのまま胴体を思いきり蹴った。
ゴキッ!!
カラスの右翼の関節が外れた。
「ア"ア"ア"ア"ア"!!」
カラスは苦痛の叫びをあげる。
すると、カラスの怒りが頂点に達したようで、チェインにやけくそじみた突撃を開始する。
まだ使える左翼を器用に扱い、回転しながらチェインにまっすぐ突っ込んで来る。
明らかに関節が外れている右翼に負荷がかかるような攻撃だがお構いなしだ。
「まだやるか……」
チェインはその場から移動することなく、ただ構えた。
そしてカラスと衝突した瞬間、チェインはその場から消えた。
「チェイン!?」
その様子を見ていたカーニャが叫び、慌ててチェインを探す。
そしてすぐに見つかった。チェインはカラスのくちばしを片手でしっかりつかんでいた。
「捕まえた」
チェインはそのまま腕を振り、カラスの身体を投げ飛ばした。
ついでに左翼も引っ張り、しっかり脱臼させておいた。
「ギア"ア"ア"ア"ア"!!」
飛ぶ術を失ったカラスは涙目になりながら叫び、空から落ちて行った。
「……後は任せました」
チェインが落ちていくカラスを見ながら呟いた。
「……すごい、強い」
一方カーニャもそんなチェインを見ながら呟いた。
カーニャは拳を握り締め、こみ上げてくる笑いを押さえながらチェインへと近づく。
「流石ね。あっという間にやっつけちゃうなんて」
チェインは話しかけてきたカーニャに何かを感じ取ったようで、若干警戒心を強める。
そしてカーニャはチェインの目の前に来た。
「……」
「……何だ?」
お互い無言で見つめあったのち、チェインが口を開いた。
「いや、なんとなく返事を待ってただけ。『俺ならこのくらい当然だ』とか言いなさいよ」
カーニャが笑いながら言うが、その目元は笑っていなかった。
その目はまるで、獲物を見つけた時のような、まっすぐ見つめてくるような目。
それに気が付いているチェインが不信感を募らせながら口を開く。
「すまないが、俺は自慢話はあまりしたくな──」
ゴンッ
突然カーニャがチェインに殴り掛かった。
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