3-7 ドラゴンジャー再び

 チェインとカーニャはタカから怪獣の現在位置と状況等の情報を聞いたあと、支度を済ませて出発していた。

 怪獣は国から南西の方向、およそ800km離れた場所から、まっすぐ国に向かってきているらしい。

 尤も、これは目撃されたときの情報で、現在はさらに接近していると予想される。

 怪獣が国に到達するまでの予想時間は今から3時間後。一刻を争う状況だ。


 余談だが、フモフのカーニャとハグしたいという要求は、出発直前に1分だけ実行された。

 1分だけになったのは、フモフが1分で満足したからでも、途中で止められたわけでもなく、フモフの意識が1分持たなかったのだ。

 フモフがカーニャの身体に飛びついたあと「これがカーニャ様の温かみ、ああ」などと言いながら眠りについたのだ。

 その後、フモフはタカに回収され、同時に謝罪された。

 謝罪を受けたカーニャは微笑みながらこう言った。

「大丈夫よこれくらい。私何度か身体売ったことあるし、あれと比べたらたいしたことないわ」


 言うまでもないが、このとき場の空気がゆがんだ。



「……誰か来るな」

「え?」

 チェインの発言にカーニャが反応する。

 チェインは左後ろのほうに目線だけ動かし、じっと見つめた。

「……あいつらか。こんなときに何しに来た」

 チェインがいら立ちをあらわにしながら言うと、その誰かが雲の下から現れた。

「あっ!? なぜここに!?」

 それは、荷物を運搬していたチェインに絡んできたドラゴンの5匹組、ドラゴンジャーだった。


「あら、久しぶり。大体6時間ぶりかしら。まだボコされに来たの?」

 ドラゴンジャーの姿を確認したカーニャがほくそえみながら挑発した。

「ああ! 朝の腹パン野郎! なんで俺のブレスを食らって平気だったんだよ!」

 カーニャの姿を見たイエローが叫んだ。

「あ"あ"!? 全然平気じゃないわよ! テメー風呂に入ってない不潔な体で抱きついてて来やがって! またやりやがったら頭叩き割るからね!」

 カーニャがこれまでの会話では発さなかったドスの利いた声で叫ぶと、イエローは完全に委縮してしまった。

 隣で聞いていたチェインはうるささのあまり顔をしかめている。


「おい! それは誤解だ! イエローはこう見えても20日に1回は風呂に入ってるぞ!」

「もっと入りなさいよ!」

 イエローを擁護したレッドに対して、カーニャがいつもの声で叫ぶ。

「うう……、昔は全く風呂に入ってくれなかったイエローが、今では20日に1回も風呂に入ってくれてるんだぜ。感慨深いと思わないのか?」

「思わないわよ。毎日、せめて3日に1回は入るようになってから言いなさいよ」

 カーニャが呆れた様子で言う。


「……ねぇ、グリーン。こいつらのことじゃないよね?」

 そんな中、ドラゴンジャーのピンクがグリーンに話しかけた。

「No! It's NOT theirs! I can feel dangerous power is coming from that!!」

 グリーンがチェインたちとは違う方向を指さして叫ぶ。

「うん、何言ってるのか全然わからないけど、こいつらじゃないのね?」

「No!!」


 その会話を聞いたチェインは神妙な面持ちで彼らに話しかける。

「お前たち、そのグリーンが指差した方角に行こうとしているのか?」

「ああ、そうだ! なんかグリーンが騒ぎ出して俺たちを引っ張り出してきたからな!」

 レッドがチェインの質問に答える。

「ならやめたほうが良い。なぜならその先には怪獣がいるからな」

「なにっ、怪獣だと!?」

 それを聞いたブルーが驚きの声を上げる。

「そして、その怪獣はまっすぐこちらに向かってきている。死にたくなければこの場から離れな」

 チェインがそう言った直後、遠くの空、グリーンが指差していた方向に黒い何かが見え始めた。


 それは、途方もなく巨大なカラス。まだ遠くにいるため詳しい容姿は分からないが、それでもその巨大さは一目で見て取れた。

「来たわね! 怪獣! ……なんか怒ってるみたいだけど」

 カーニャが意気揚々と声を上げる。

「そういうことだ。ここは俺が食い止めるから、お前らは帰りな」

 チェインがドラゴンジャーに言った。しかし、

「おいおい、俺らはこれでもドラゴンだぜ?」

「ここで引いてはドラゴンの名折れだ」

 レッドとブルーはこういってその場から動こうとしなかった。


 さらにピンクが続ける。

「ていうかあいつ、私たちの国に向かってない?」

「マジか! あの国がやられたら俺たちの食い扶持がなくなっちまう!」

 イエローが焦った様子で言うと、

「最初からないわよ」

 カーニャが短く言った。


 最後にグリーンが、

「Raven can NOT defeat Dragon no matter how huge it is!」

 と言った。

 一応説明すると、『どんなにデカくてもカラスがドラゴンに勝てるわけない!』と言っている。


「いくぞみんな! 国の平和を守るため!」

 レッドの掛け声とともに、ドラゴンジャーは怪獣へと突撃して行った。

「ああもう! 分からず屋!」

 カーニャが憤りの声を上げて飛び立とうとすると。


「待て、ほっとけ」

 チェインに翼の付け根をつかまれ、止められた。

「え、なんで!?」

 チェインはカーニャの疑問に答えずに、ただドラゴンジャーのほうを見ていた。

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