3-4 カーニャの評判
「あ、見えたわ! あそこね!」
しばらくの飛行の後、前方に国が現れた。
空中に島が浮かんでおり、その上にいくつもの小さな建物が乱立していた。
浮遊島の中央では、何やら大きなものを建てていた。作りかけのその建造物は、周囲の建物よりも遥かに高く、完成するころには巨大な塔になることが予想される。
「へぇ、浮遊島に住む動物たちって大きな建物を建てたがらないんだけど、あれって何なのかしら?」
カーニャが感心しながら言った。
「あ、もしかして、チェインたちが運んでいるそれって、建築の物資だったりするのかしら?」
「そうかもね、ボクたちは金品と食料って聞いてるけど、中身を見たわけじゃないからね」
カーニャの問いかけにディークが答えた。
「カーニャってさぁ、こんなところまで何しに来てたんだ?」
ダークがチェインの頭の上から聞いた。
「私はね、自警団をやってるの。悪いやつを見つけては懲らしめたり、困ってる動物を見つけては力を貸してるの」
「へぇ、良いやつじゃん」
「そんなことないわよ。私って暴れたがりだから、自警団で気を晴らしてるだけ」
カーニャが恥ずかしそうに言う。
「その発想にいたれる動物が、この世界にどれだけいるだろうな……」
カーニャとダークの会話の合間に、チェインが小さく呟いた。
「誰か来るみたいだよ」
ディークが前を見ながら言った。
「……ああ、あれか」
「あら、ほんとね。……てかあなたたち、見えるのね」
チェインがこちらに向かってくる何かを視認しながら言い、カーニャが感心しながら言った。
「タカが1匹こっちに来ている。俺たちを見ているから、出迎えだろう」
「でもあれ大丈夫なのかなぁ? タカの上に乗ってるキツネ、ひどく怯えてるけど」
「ん?」「え、キツネ!?」
ディークの言葉にチェインとカーニャが驚き、向かってくるタカのほうを凝視し始める。
「キツネ、いる? 全然見えないげど……」
カーニャが目を細めて言う。
「まぁ、あれだよ。いつも言ってるカンってやつ」
「いつも思うが、もうカンとは違う何かの能力でも備わっているんじゃないのか?」
「さぁ、ボクもわかんないや」
「……オイラ、キツネどころかタカすら見えないんだけど、どこ?」
ダークが小さく呟いた。実際、今チェインたちがいる場所からは、タカは極めて小さな点程度にしか見えなかった。
しばらくすると、タカがチェインたちの近くまでやってきた。
その翼長2mほどのタカは、身体にポーチを3個ほど身に着けていて、頭には茶色の帽子を被っている。
「運搬お疲れ様です、チェイン御一行様」
タカはチェインの前に来ると、頭を深く下げて言った。
「出迎えありがとう。荷物はすべて持って来た。荷下ろしは国に上陸してからで良いな?」
「はい、そうしていただけるとありがたいです。ところで、そちらのお方は?」
タカがカーニャを見て言う。
「……え、知らない!?」
「申し訳ありません、あなた様のことは存じ上げておりません」
タカが面倒くさそうに返答する。
「私は最強の自警団のカーニャよ! チェインが空賊に襲われているところを私が助けてあげたの!」
カーニャが自慢げに自己紹介をした。
「ああ、はい。では、国までご案内いたします」
「……あれ?」
タカのそっけない反応に対して、カーニャが拍子抜けさせられていた。
タカが国へと身体を向けると、タカの背中にしがみついているキツネが目に入った。
頭をタカの身体に埋め、耳はぱたりと閉じている。
「あの、そのキツネは?」
「あ、これですか? チェイン様のお姿を一目見たいとここまで来たのですが、あいにく高所恐怖症でして、国をたってからずっとこの調子なのですよ」
「……なるほど」
「ほら、顔くらいあげなさい」
タカがそう言って身体を揺さぶる。
「こ、こわい、高いの、こわい」
「チェイン様が目の前にいらっしゃるぞ」
「チェ、チェイン様……」
そしてキツネはゆっくりと顔を上げ始めた。
「……え、? えええええええええええええええ!?」
その瞬間、キツネが文字通り飛び跳ねて驚いた。
「ど、どうした!?」
「チェイン様と、カ、カーニャ様!! ドラゴン界の王と姫が揃っているなんて、私、観劇……キュウ……」
するとキツネは倒れてしまい、タカの背中から落ちてしまう。
「あ、あぶないっ!」
すかさずカーニャが飛び出し、キツネの身体を手で受け止めた。
「……気を失っているわ」
キツネの様子を見たカーニャが一言だけ言った。
「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません」
「ううん、いいのよ、気にしないで」
カーニャはキツネをタカの身体にそっと乗せた。
「カーニャって、もしかして有名だったりするの?」
「うん! 伊達に最強の自警団を名乗ってるわけじゃないわ!」
ディークの質問にカーニャが誇らしげに答えた。
「ぐぬぬ……」
しかし、ダークは納得いかないようだ。ダークは立ち上がり、カーニャに向かって叫び始めた。
「最強なのは父ちゃんだ! お前なんか父ちゃんにかかればイチコロだっ!」
カーニャとディークが驚いてダークを見る。
「ダーク、ほっとけ」
「むーー!」
チェインが諭すように言うと、ダークは頬を膨らませてカーニャを睨んだ。
「……かわいい子ね」
カーニャが微笑みながら呟いた。
「さて、時間を取らせてすまない。国まで案内頼む」
「はっ! 承知しました!」
タカは返事をすると、国へと向かっていく。
チェインたちはタカの後ろについていく。
「ダークのお父さんねぇ、一度会ってみたいわ」
「チェインのことだよ」
「……あ、そうなんだ!」
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