3-2 退屈な戦い

 ドラゴンジャーがチェインに向かって突撃を開始した。

 ブルーとグリーンが下から、他3匹が上から襲撃してくる。

「しっかり捕まってな」

「分かってるって」

 チェインとダークが短い会話を交わし、ドラゴンジャーがチェインに触れる直前に、チェインの姿が消えた。

「「っ!」」

 その異変に気付いたブルーとレッドがすぐさま急停止した。

 異変に気付けなかった他のドラゴン達は……

「ぎゃん!!」

「おうふっ!!」

「アウチ!!」

 お互いに激突し、悲鳴をあげる。

「いたた、ちょっと! 前くらい見なさいよ!」

 ピンクがイエローに文句を言い始める。

「いや、見ようとしたんだって! ……でも見えなかったんだよ!」

「はぁ!? 言い訳すんじゃ……」

「ファーッk!!」

 口喧嘩をする3匹をよそに、激突をまぬがれたレッドとブルーは困惑の表情を浮かべた。

「……消えた?」

「さっきまで、ここにいたのに……」


「どうしたんだ?」

 そんな彼らに、チェインが声をかけた。

「お前、どうやってそこに移動した!?」

 ドラゴンレッドがチェインに聞いた。

「何言ってるんだ? 俺は最初からここにいたぞ」

「!? そ、そんなはずはないっ! 確かにお前は──」

「父ちゃん、もうほっとこうぜ? だってコイツら弱いもん」

 チェインの頭の上に乗っているダークがはっきりと言った。

「弱いっ……!」

 その言葉にブルーが食いついた。

「ああ、そうだな。俺達は用事があるんだ。遊びならその後に付き合ってやる」

 チェインがその場を離れようとすると、青い光線がチェインのすぐ横を横切った。


「……」

 チェインが振り向くと、指をチェインに向けたブルーがいた。

 その指の先から青い光線が放たれていた。

「お前……、ここから生きて帰れると思うなよ」

 ブルーが怒りの声をあげる。

「俺達の仲間を侮辱するなんて、俺も許せねぇな」

 レッドもチェインを睨み付けて言う。

「遊びは終わりだ! テメェはここで殺す!」

 ブルーは目にも止まらぬ速さでチェインに突進し、その勢いのまま殴りかかった。


 ガブッ


「んあぁあ!?」

 気がつくと、ブルーの拳はチェインの口に咥えられていた。

「クオッ! 離せコノヤロー!!」

 ブルーは開いている方の腕でチェインを殴ろうとすると、チェインは首を動かしてブルーの身体を振った。

 ブルーの攻撃はチェインに当たらず、ヘナヘナと空を切っただけだった。

「あ、あれ!?」

 その後もブルーはチェインに何度を攻撃を仕掛けたが、その度にチェインにうまい具合に揺さぶられるせいで、すべての攻撃が空振りになるか、軽くぶつかる程度の威力になってしまう。


「ブルーを離しやがれ!!」

 そこにレッドが突撃してきた。右腕を引いて、チェインの顔を殴ろうとしている。

 するとチェインはブルーの拳を咥えたままレッドの方を向いた。その結果何が起きたか。レッドの拳はチェインではなく、ブルーの鼻っ面に当たった。


 ゴスッ


「ギャアアア!!」(泣)

「あっ!?」

 ブルーは絶叫。レッドは焦りの声をあげながら後ろに引いた。

 そしてチェインは首を大きく振り、ブルーをレッドの方に投げた。


「おっと! 残念だったなぁ!」

 レッドは投げられたブルーを軽々と避けると、ケラケラと笑いながら言った。


 しかし、投げられたブルーはそのまま飛んで行く。そして、その方向にあるものは、今も口喧嘩をしているピンク、イエロー、グリーンだ。

「ぎゃんっ!!」

「what!?」

 ブルーの身体がピンクと激突。それ以外のドラゴンがチェインを見る。

「お前らなら、首から上が動けば十分だ」

 そんな彼らにチェインが言い放った。


 ブルーとピンクが体制を整えて、チェインの方を向く。

「舐めた口聞いてんじゃねぇぞ運送屋ぁ、俺達の本気を見せてやるぜ……」

 ブルーがそう言うと、他のドラゴンジャーが一斉にブルーの方を見た。

「えっ、もうあれをやるの!?」

「I'm tired when we cast the skill you say...」

「よーし! あの目障りなドラゴンを消し炭にしてやるぜ」

「……えーっと、荷物とあの可愛い子も消えちゃうけど、しょうがないなぁ」

 各自が各々の心境を言ったあと、決まったフォーメーションをとり始めた。


 レッドを中心にして、他4匹が横に広がる。

 レッドが口の前で火球を作り始めると、他4匹がレッドの火球にそれぞれブレスを注ぎ込む。

 すると、火球はドラゴンジャーのそれぞれの色が混ざった5色の火球へと変化した。

 チェインたち3匹はその様子をただ眺めていた。

「きれいだねー」

 ディークが緊張感のない声で呟く。


 対するチェインは5色の火球を見据えると、ゆっくりと口を開いた。

「俺は運送屋ではない」

 チェインは少しだけ、少しだけ息を吸い込んだ。その際に小さな青い光が見えたが、すぐに閉じられた口の中に消えた。

「サファリ警察隊元隊長、チェインだ」

 チェインがドラゴンジャーを見ながら言った。


「くらえ! ファイブカラーー、シューーート!!」

 ドラゴンジャーは掛け声のあと、5色の火球をチェインの方へ投げた。

「技名ダッサ」

 ダークが小さく呟いたあと、チェインがドラゴンの火球へ向けて一息ブレスを吐いた。

 チェインのブレスは青の火球となって飛んでいく。


 ドラゴンジャーの5色の火球と、チェインの火球、そしてもう一つ、どこからか飛んで来た紫色の火球がお互いに衝突し、その場で爆発を起こした。


 ドカーン


「ん?」

 正体不明の紫色の火球に気付いたチェインが、すぐさま飛んで来た方向を見た。


「やったぜ!!」

 そして、嬉しそうにガッツポーズをとるレッド。


 さらに、

「こらーっ!! この運送屋を離しなさーい!!」

 チェインが見ている方向、紫色の火球が飛んできた方向から、薄いピンク色のドラゴンが叫びながら向かって来ていた。

 ドラゴンジャーのピンクではない。別の個体だった。


「……どちらさん?」

 ディークが小さく呟いた。

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