第3話 ドラゴンの王と姫

3-1 カラフルな空賊

 雲の大地が広がる空間を黄色いドラゴンが飛んでいた。

 身長はおよそ2.3m、胸周りには青白いふさふさの毛と宝石が生えている黄色ドラゴンは、その身体を覆えるほどの大きさの翼で飛んでいた。


 その黄色ドラゴンの上に、別の2匹のドラゴンと、大小様々な荷物の束が乗っていた。

 1匹は黒いドラゴン。背中から小さな羽が生えていて、茶色い角が鼻先から1本、後頭部から2本生えていた。

 その黒ドラゴンは黄色ドラゴンの角を両手で掴んで、頭の上に乗っている。


 もう1匹は緑色のドラゴン。大きな目玉が特徴的で、大きさは黒ドラゴンよりやや小さいくらい。手足は短く、羽のようなものは生えていない。おおよそドラゴンには見えない外見ではあるが、一応ドラゴンである。

 緑ドラゴンは黄色ドラゴンが運んでいる大量の荷物の上でしがみつくように乗っている。


「ふわああああああーーーー」

 黒ドラゴンが大きなあくびをした。

「……ヒマだなぁ。まだ着かないの?」

「まだだな、ダーク。もう少し我慢してくれ」

「なーがーいー。後どのくらいで着くのー?」

 ダークと呼ばれた黒ドラゴンがただをこねる。


「このまま行ければ、あと30分で着くよ、チェイン」

 緑ドラゴンが後ろから答えた。

「お、ディーク。サンキュー」

「……よく見えるな、ディーク」

 チェインと呼ばれた黄色ドラゴンが、進行方向を凝視しながら言う。

「見えるわけじゃないけど、そんな気がするだけ」

「要するにカンだな。で、ディークのカンはよく当たる」

「あはは」

 ディークと呼ばれた緑ドラゴンは笑う。


「でも30分かぁ、オイラその間ずっとヒマなんかぁ」

 ダークが再び退屈そうな声をあげる。

「これも修行だと思え」

「やだよー、たまには遊びたいー」

「例のやつの制御が効かなくなるのも嫌だろう?」

「まーーーあ、そりゃそうだけどさぁー……」

 ダークはふてくされながら、再び進行方向に身体を向け直す。


「まぁ、そのへんは大丈夫だよ。もうじき退屈しなくなる」

「……ん?」

 突然のディークの発言に、チェインの表情が強張る。

「ほら、右下斜め後ろからお客さんだよ」

 その直後、チェインの右下斜め後ろ、雲の下から4mほどのドラゴンが回転しながらチェインに突進してきた。


 チェインは荷物を背負ったまま器用に身体を傾け、ドラゴンの突進を回避した。

 突進が空振りしてしまったドラゴンは、チェインのいた場所から25m離れた場所で急停止し、チェインの方を向いた。

「あれ!? 外れた!?」

 そのドラゴン、青い身体と細身の身体を持つドラゴンは、自分の攻撃が当たらなかったことに驚きの感情を露わにした。


「空賊か……」

 チェインが青ドラゴンを睨みつけながら悪態をついた。

「チェイン、気をつけて」

「ああ、分かってる。あと4匹いるんだろ?」

 そしてチェインは、雲の下に向けてツメを弾いた。

 すると、弾かれた空気が固まりとなって飛んでいき、隠れている4匹に命中した。

「へぶんっ!?」

「あべしっ!?」

「んぞうぅ!!」

「ファーッ!? ……クッ!!」

 4匹は独特な悲鳴をあげた後、しぶしぶ雲から姿を現した。


「oh, why were we discovered by him……」

「だから左から攻めようって言ったのに……」

「うるせぇ! 右も左も一緒だろうが!」

「けっ、右も左も分からんやつがよく言うぜ」

 その4匹のドラゴンが仲間内で口論をし始める。


「お前たち、何しに来た?」

 チェインが一応尋ねると、5匹のドラゴンが一斉に顔を向けた。

「何しに来たと聞かれたらー↑?」

「答えてあげるが世の情けー↓!」

 すると、両脇にいたドラゴンが歌うように言いだした。


「燃え上がる熱意でチームに火を滾らせる、ドラゴンレッド!」

「冷徹なる知能で確実な勝利を掴み取る、ドラゴンブルー」

「食い意地だけは誰にも負けない、ドラゴンイエロー」

「キュートな見た目で相手のハートを打ち砕く、ドラゴンピンク」

「I don't care if no one can't understand the my language. Dragon Green!」


 5匹は律儀に自己紹介をしたあと、横一列に並んだ。

「5匹揃って……」

 すると、ドラゴンレッドがしっぽで火球を作りだし、後ろに放り投げた。

「ドラゴンジャー!!」

 その瞬間、ドラゴンレッドが投げた火球がドラゴンジャーの後ろで爆発した。


 ドーン。


「……」

 ……

(……)


 ただの演出だった爆発が過ぎたあとは、ただただ静寂が過ぎるだけだった。


「だから、何しに来た?」

 チェインが呆れながら再度問う。

「お前さん、今の状況分かっているのかい?」

 ドラゴンレッドが言った。

「お前は今日、ここで死ぬ運命なのですよ」

 続けてドラゴンブルーが言った。

「その重たい荷物を背負って、俺達5匹を相手にすることは不可能」

 と、ドラゴンイエロー。

「ついでに、そこの子供も可愛いから高値で売り飛ばしてあげるね」

 ドラゴンピンク。

「Everything I wanted to say has been said by others」

「……最後なんて?」

 ドラゴングリーンの言葉にダークが聞き返す。

「You shut up! You dirty black dragon with no color have no right to talk to us!」

「何言ってんのか全然分からん」

 ダークは呆れた様子で返す。


 ちなみに

『私が言いたかったことはすべて言われました』

『黙れ! 色を持たない薄汚い黒ドラゴンが私達に話しかけるな!』

 です。


「というわけで、死ねぇ!!」

 ドラゴンジャーがチェインに突撃を開始する。

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