2-8 2匹の脱走大作戦

「はぁ……、どうなってんだよ……」

 ダークが牢屋の中で呟いていた。


 ディークが牢屋に運ばれた後、ダークも牢屋に戻されていた。

 チェインはというと、まだ女王様と何か話してきたようだが、その内容はダークには知るよしもなかった。


 ディークは恐らく、隣の牢屋に放り込まれているはずだが、牢屋の中から隣の牢屋の様子を伺うことはできない。

 声をかけても、ディークは水に濡れて固まっているため返事ができない。


「またヒマになっちまった……」

 ダークは口から小さく炎を吐き、その炎をツメの先でかき混ぜて遊び始めた。


 しばらくして、水面の揺らぎを感じ取ったダークは火遊びをやめた。

 見回りかな? そう思ったダーク。そして水面からはある1匹のウミガメが現れた。

「あっ、ここか! 見つけたー!」


 そのウミガメはダークを見ると無邪気に声をあげた。そして、持っていたカギで牢屋の扉を素早く開けた。

「おっ? もう出してくれるの?」

 ダークがそのウミガメに聞くと、

「違うよ、脱走するんだよ」

 と言って、カメはヒレでダークの手を引いて牢屋から引っ張り出す。


「えっ、脱走!? どういうことだ!?」

 ダークが慌ててウミガメにしがみつき、そして泳ぎだした。


 そしてすぐに水面から顔を出すと、そこはディークがいる牢屋だった。まだ固まっているようで、雑に放り投げられている状態だった。

「ディーク、ここから出るよ。ほら起きて」

 そんなディークの事情を知らないカメは、ディークの頭をペチペチ叩いて起こそうとする。


「あー、そいつ今動けないんだよ」

「え、なんで?」

「水に濡れると固まっちまうんだよ」

「ええ、水が苦手ってそういう……」

「だからもう担いで行くしかないんだよ。おらっ!」

 ダークは事情を説明しながら、固まっているディークを背負った。


「ていうか、お前誰だよ? なんで急に出そうとしてるんだ?」

「あれ? ディークからボクのこと聞いてない?」

 そのウミガメが質問で返すと、ダークは何かピンときたようで、そのウミガメをじっと見つめる。


「……え、まさか?」

 そのウミガメ、青く輝く甲羅と所々に青い宝石のような特徴的な部位を持つそのウミガメは言う。

「ボクはこの城の王子、ボクらの事情に巻き込んでごめんね。すぐに地上に戻してあげる」

 王子はそう言うと、水中に潜って行った。

「ちょっと待てよ!」

 ダークが声をあげると、王子が再び水面から顔を出した。


「あまり大きい声出さないでっ。どうしたの?」

「オイラたちが勝手に出て行ったら、父ちゃん……黄色いデカいドラゴンが残されちまうんだよ」

「それなら大丈夫だよ。あとでお父さんも脱走させてあげるから」

 王子は自信満々に言う。

「……あ、いや。それするんだったら、『オイラとディークはもう脱出させたから、あとは好きにしてくれ』って伝えるだけで良いよ。ちょっと待ってな」


 ダークは王子に背を向けると、口から少しだけ炎を出した。

 その炎を手で集めて圧縮すると、ビー玉のような赤い結晶が出来上がった。

 王子はそのたった3秒ほどの工程を興味津々に見ていた。


「ほらこれ。これを父ちゃんにあげたらすぐ信じてくれるから」

 ダークはその赤い結晶を王子に渡した。

「……」

 王子は受け取った赤い結晶をじっと見つめていた。

 結晶はほんのりと暖かみを帯びていて、内部には炎のようなものがわずかに揺らいでいた。

 王子はその宝石のような不思議な物体に心を奪われていた。


「王子、脱出するんだろ?」

「あっ」

 ダークに声をかけられた王子ははっとした様子で振り返った。

「ごめん。それじゃ行こっか」

 王子が水中へと潜り、ダークもディークを背負って後を追った。



 狭い通路を泳ぎ、広いところへ出ようとしたとき、

「あっ、止まって」

 王子が小さく声を出した。

「どうした?」

「静かに」


「あ、あらあら」

 前方から声が聞こえてきた。それはアザラシのルアーだった。

「プヤイ、また脱走しちゃうの? でもまたすぐ帰ってくるんでしょ?」

「ルアーねーちゃん、あはは……」

 王子は乾いた笑い声を出す。


「んもう、外に出たがる気持ちも分かるけと、あんまり女王様を心配させちゃだめよ。気をつけてね」

 ルアーはそう言うと泳ぎ去っていった。

「……行ったよ。もう良いよ」

 王子がダークに話しかけ、広い通路に出る。


「今のルアーってやつ、お前が脱走してるの気にしないんだ」

 ダークが王子の後を追いながら聞く。

「うん、いつもこんな感じなの。ルアーねーちゃんだけは見逃してくれるんだ。ほら、他の動物が来る前に、こっちこっち!」

 王子が次の狭い通路から顔を出してダークを手招きする。


「ちょっと待て、ディークが重いんだよ」

 ダークは固まっているディークを運びつつ王子の元へと向かう。

「ほらほら、急いで!」

「急かすなって、これでも急いでんだよ」

 そんな会話をしつつも、ダークは通路へと入って行った。


 その時、広い通路にシャチのポーが現れた。

「ん?」

 何かに気がついたポーは、先ほど王子とダークが入って行った狭い通路を覗き込んだ。

「……」

 しかし、その時見えたものは何もなかった。

 ポーの身体は大きく、狭い通路に入ることはできない。ポーは来た道を戻ることにした。

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