2-6 ディーク誘拐事件
「だ、脱走?」
ダークが訝しそうに声をもらす。チェインもまた静かに眉をひそめていた。
「そうじゃ、王子は昔から脱走を繰り返し、城下を徘徊しておるのじゃ。毎回捜すのにも苦労するのじゃ」
女王様は困った表情でチェインたちに頼んだ。
「まじかよ……」
「海となると、捜す場所が多いな。王子がよく行く場所が分かれば良いのだが……」
チェインが作戦を模索していると、突然水面から1匹のリクガメが顔を出した。
「女王様! 王子と誘拐犯を捕らえて来ました!」
リクガメがはっきりとした声で報告した。
「おお! よくやった! ……いや、誘拐犯とは何事じゃ!?」
女王様がリクガメを問い詰めるなか、
「……あれ、オイラたちの仕事なくなった?」
ダークが小さく呟いた。
「王子は今自室に向かわせております。そして、誘拐犯をこちらに連れてきます。おい! まだか!?」
リクガメが水中に向かって叫ぶと、
「待ってください! こいつめちゃくちゃ重たくなって運ぶの大変なんですよ!」
水中から返事が来た。
「……ん?」
チェインが眉をひそめる。
「まったく、仕方ないやつらだ」
水面から顔を出していたリクガメが水中へ潜る。
「おい、あまり女王様を待たせるな! それっ!」
リクガメの掛け声とともに、ある物体が水中から飛び出してきた。
それは、よく見慣れた緑色のトカゲのような生き物。
「え、ちょw」
「ディーク……」
ダークが思わず吹き出し、チェインがため息をつく。
「知り合いか?」
「ああ、海岸で待ってもらってたはずなんだが……」
女王様に問われたチェインが答えた。
「とにかく、こいつも牢屋に放り込んでおけ」
「はっ、直ちに!」
リクガメたちが再びディークを運ぼうとすると、
「待ってよ! ディークが誘拐なんてできるはずない!」
ダークが窓越しに叫んだ。
「なぜそう言い切れるのじゃ?」
「だって、王子を誘拐しようとしたら水に入んなきゃダメじゃん。でもディークは水に濡れると固まっちまうんだ!」
「……?」
女王様が怪訝そうにディークを見る。ディークは目を見開いたまま微動だにしていない。まるで一種の置き物のように固まっていた。
「おい、返事くらいしたらどうじゃ?」
女王様がディークに声をかけるが、返答はない。
すると、女王様が杖でディークをガシガシ突き始めた。しかし、それでもディークは全く動かなかった。
「……おい。これは生き物なのか? 石ころのように動かないのじゃが」
女王様がリクガメたちに聞いた。
「陸にいたときは動いていたのですが……。そういえば、海に連れ込んでからは妙に大人しかったような……」
リクガメたちはお互いに首を傾げる。
「……キミたちは、なぜディーク……この緑ドラゴンが王子を誘拐したと思ったんだ?」
チェインがリクガメたちに聞いた。
「それは、王子がこの緑ドラゴン……え、ドラゴン? ……に捕まっていたからだ!」
リクガメがディークをドラゴンと呼ぶことに疑問を抱きつつも答えた。
「捕まっていた……。どんなふうに?」
「どんなふうに……? コイツと王子が陸の上で一緒にいたんだ!」
「……一緒にいただけ?」
「ああ、それと、コイツが王子に何かを話していたぞ!」
「……それは捕まえたと言うのだろうか?」
チェインは腕を組み、頭の中で情報を整理する。
「……ディークとやらからも話を聞きたいのじゃが、この状態から元に戻す方法はないのか?」
女王様がチェインに聞く。
「一度こうなってしまっては、陸に放置して半日は動けない。完全に戻るには丸一日かかる」
「長いな……」
女王様が困ったように呟いた。
「……一つだけ、10分で戻す方法があるんだが」
「本当か!? というか、それを先に言わぬかっ!」
「ただ、これをすると女王様を驚かせてしまうことになる」
「構わぬ。早く戻してくれ」
「分かった。少し離れてくれ」
チェインは女王様が後ろに引いたことを確認すると、固まっているディークに向けて口から炎を一息かけた。
ボォッ、という音が響き、ディークの身体は炎に包まれた。
「ぬお!?」
女王様と周囲にいた魚類たちは、その光景を見てかなり驚いた様子を見せた。
「これで放置すれば、じきに動けるようになる」
チェインが燃えているディークを見て言った。
女王様はチェインとディークを交互に見て、驚愕の表情を浮かべている。
「お、お主は……、古代ドラゴンの子孫なのか?」
「……そうとも言う。今では珍しいらしいな?」
「当然じゃ。今のドラゴンは口から炎なんぞ吹けぬ。擬似的に魔法でそう見せることはあるがな」
女王様が言うと、周囲の魚類たちも大きく頷いている。
「それと、もう一つ……」
女王様が火だるまになっているディークを見て言う。
「此奴は大丈夫なのか? その……、燃えているのじゃが?」
「ああ、大丈夫だ。どういう訳か知らないが、こいつは燃やされても平気なんだ」
「そ、そうか……」
「代わりに水に濡れると今みたいに固まるんだけどな」
ダークが奥から補足する。
「……どうもお主らは珍しい生物の集まりのようだな」
女王様は呆れたようにため息をついた。
「古代ドラゴンと燃えても大丈夫なトカゲ、じゃない、ドラゴンか。……そこのお前は何かないのか?」
奥で聞いていたリクガメがダークに聞いた。
「……」
ダークは何も言わずに目を反らした。
「はっ、その様子だと、ないみたいだな。ただのごく普通のドラゴンか」
リクガメが笑いながら言う中、チェインは腕を組み、目を細めて顔を反らした。
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