1-7 ネズミのマジックショー

「皆さん、歓迎会の準備ができました。こちらです」

 ラクダに案内された場所は、この国の中では一番大きなテントだった。その中はたくさんの動物たちがテーブルを囲んでいた。そしてテーブルの上には様々な料理が並んでいる。

「うおー!! すげぇ!!」

 ダークが歓喜の声をあげて走り出した。

「こらダーク、走ると危ないぞ」

「あっ、ごめん父ちゃん。ついテンション上がっちまって」

 チェインの指摘にダークが笑って答えた。


「こんな大きなところを用意してくれるなんて……。もしかしてラクダさんって、国長さんか何か?」

 ディークが尋ねると、ラクダは驚いた様子でディークを見た。

「……あはは、その通りです。食事中に自己紹介するつもりだったのですが、先に気づかれてしまいましたか」

「ボクは勘が良いからね」

「おーいディーク! 早く座れよ!」

「あーうん、今行くよー」

 ダークに呼ばれたディークは、ダークの隣のイスに座った。すると国長だったラクダがディークたちの反対側の席に立ち、テントの入口を背に話し始めた。


「ではこれより、我が国においでくださった旅の動物方との親睦を深めるための歓迎会を始めさせていただきます。申し遅れましたが、私はこの国の長を務めさせていただいている、カルバドと言います。以後お見知りおきを」

 カルバドが一礼する。

「父ちゃん、もう飯食っちゃだめ?」

「駄目だ」

 ダークは小さな声で尋ねたが、秒でチェインに却下された。

「明日旅立たれるのはかなり名残り惜しいですが、仕方のないことです。……出来ればずっといてほしかったのですが、……その、非常に残念です、ははは」

「あーもう、しっかりしてくださいよ国長さん!」

 住人がボヤを起こすと、周りの動物達も笑い始める。

「……そうですね。今の我々に出来ることをしましょう。出来ないことを無理にする必要はありません。……今はただ、この方達をもてなしましょう。それでは、皆さんごゆっくりお過ごしください」

「……もう食って良い?」

 ダークがチェインに聞いた。住人達はそれぞれ食事につき始めていた。


「……ディーク?」

「……あっ、そうか」

 ディークは目の前の料理を一口食べた。

「うん、おいしい」

 それに続いてチェインとダークも食べ始める。

「うめーっ!!」

 ダークが歓喜の声を上げた。

「……ダーク、あまり騒がないほうが良いぞ」

「えー? 別に今は良くないかー?」

「まぁまぁ、今は歓迎会ですから、そのくらい誰も気にしませんよー!」

 突然、横から茶色のネズミが話しかけてきた。

「しませんよー!」

 その隣にいたそっくりなネズミが同じような声で言った。

「わわっ、誰だお前ら!?」

 ダークが驚いた様子で2匹を見た。


「ボクはラット!」

「ボクはタット!」

「ボクたちは双子の兄弟ですー!」

「ですー!」

「今回はもてなしをするとのことなので、手伝いに来ましたー!」

「来ましたー!」

 2匹のネズミは、声を合わせて元気よく挨拶した。

「早速ですけど、ちょっとした遊びをしませんかー?」

「しませんかー?」

「ちょっとした遊び?」

 ディークが聞くと、ネズミの兄弟は隅にある、横に並んだ3個の木箱を指差した。


「今からタットがあの中に入りますー!」

「入りますー!」

「その次は、ボクが木箱を入れ替えますー!」

「入れ替えますー!」

「あなたたちは、タットがどの木箱の中にいるのか当ててくださいー!」

「くださーい!」

 ネズミの兄弟が説明を終えた後、ダークがケラケラと笑い始めた。

「カッカッカ! そんなの簡単さ! オイラ達の視力をなめるなよ!」

「はーい! では始めますー!」

「始めまーす!」

 そしてタットが真ん中の木箱の中に入った。


「よーし、入れ替えますよー!」

 ラットが左端の木箱を掴み、ゆっくりと持ち上げた。

「……よいしょ、……よいしょ」

 遅かった。持ち上げるだけで精一杯なラットは、非常にゆーっくりな速度で木箱を移動させていた。

「お、おい。大丈夫か……?」

 ダークが心配そうに声をかける。

「……だ、だいじょうぶです、……よいしょ、……よいしょ」

 やがて木箱は右端の木箱の右隣に着き、ラットは落とすように木箱から手を離した。

「ふぅ、疲れました……。さて、タットはどこでしょうか?」


 ダークとチェインが憐れむような目で答えた。

「……左」

「左だな」

「……うーん」

 しかし、ディークが答えに行き詰まっていた。

「おい、ディーク? 何悩んでるんだよ……?」

「何か仕掛けがあるようにも見えなかったが?」

「……まぁ良いや。左」

 ディークが答えると、ラットは左の木箱を開けた。すると、タットが木箱から顔をだした。

「3匹とも正解ですー!」

「ですー!」

 ラットとタットが跳ねながら言った。本人たちは楽しんでいるようだ。

 ダークは苦笑いを浮かべながら彼らを見ていた。


「それじゃ、次の問題ですー!」

「ですー!」

「え!? まだやんのかよ!?」

 ゴツン!!

 口を滑らせたダークがチェインからげんこつを食らった。

「……ごめんなさい、父ちゃん。でも痛いよ……」

 ダークが涙目になりながら謝った。

「すまない、続けてくれ」

「はーい!」

「はーい!」

 そしてタットは真ん中の木箱に入った。

「さて、本当なら木箱を入れ替えるのですが、ボク、さっきので疲れました」

 ラットが申し訳なさそうに言う。


「はい、という訳で、タットはどこでしょうか!?」

「もはや入れ替えてすらないっ!!」

 ダークが思わず突っ込んだ。

「普通なら真ん中だな」

「ほんとだよ父ちゃん、真ん中しかありえないよ」

「……ボクも真ん中で良いや」

「はーい! 答えはー……」

 ラットは木箱の周りを駆け回り、木箱を開けた。

「右ですー!」

「右でしたー!」

 ラットが開けた木箱は右だった。

「何っ!?」

「はぁ!? なんで!?」

 ダークとチェインが驚きの声を上げる。

「やったー! ボクたちの勝ちだー!」

「勝ちだー!」

 その様子を見たラットタットが跳ねて喜ぶ。


「……父ちゃん、タットのやつ、いつ移動してたの」

「……移動した様子はなかったのだが……?」

「さーて、なんでかなー?」

「わかるかなー?」

 ラットタットがいじわるそうに、でも楽しそうに木箱の上で踊っていた。

「……言って良いのかい?」

 ディークがふと声を上げた。

「え、ディーク? 分かったのか!?」

「うん。キミたち、三つ子じゃないかな?」

「ギクッ!」

「ギギクッ!」

 ネズミの兄弟は動揺を声に出した。


「み、みつご?」

「うん。だから、まだ真ん中に1匹入ってるんじゃないかな?」

 ディークがそう言うと、ラットがゆっくりと真ん中の木箱を開けた。すると、ネズミの兄弟そっくりな3匹目のネズミが顔を出した。

「えへへ、見つかっちゃったー!」

「見つかったー!」

「かったー!」

 ネズミの3兄弟は照れくさそうな笑顔を見せた。

「あー! もう、そういうことかー!」

 ダークが頭を抱えながら叫んだ。

「……なるほどな、入れ替わっていたわけではなかったのか」

 チェインが感心しながら呟いた。


「よくわかったねー! トカゲさーん!」

「こんなに早く分かったの、トカゲさんが初めてだよー!」

「もしかして、最初から分かってたー!?」

 ネズミの3兄弟がディークに詰め寄る。

「うん、なんとなく、最初から誰か入ってるような気がしたんだ」

「そっかー! すごーい!」

「すごーい!」

「ごーい!」

「……ディーク。お前トカゲって言われてるけど、気にしないのか?」

 その様子を見ていたダークが尋ねた。

「あっ! そういえば! ボクはこう見えてもドラゴンだからねっ!」

「トカゲ!」

「トカゲ!」

「カゲー!!」

「ドラゴンーッ!!」

 ディークは怒っているようだったが、その表情はとても嬉しそうだ。

「まぁまぁ、ディーク。落ち着け」

「むぅー……!」

 チェインがディークをなだめると、ふくれっ面をして黙り込んだ。


「……てかさ、お前ら、『タットはどこでしょう?』って言ったよな? 入れ替わってないんだったら、"タットは"真ん中にいる訳だから俺たち正解じゃね!?」

 ダークがふと疑問をあらわにした。

「あれ? そういえば」

「あれれ? そうかもねー?」

「あれれれ? そうとも言うねー?」

「じゃやっぱ俺たち正解じゃんか! 騙したなー!!」

「きゃはは! 負けちゃったー!」

「負けちゃったー!」

「ちゃったー!」

 ネズミの3兄弟は楽しそうに騒いだ。

「……となると、3匹目のキミの名前は何なんだ?」

 ふとチェインが聞いた。

「あ、この子はトットですー!」

「トットですー!」

「トットだよー!」

「……喋る順番、毎回決まってるんだね」

 ディークは聞こえるように呟いた。

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