1-5 砂漠の上の夜

 太陽が沈み始めたころ、チェインは適当なところで買い物を済ませ、今夜の宿であるテントに帰っていた。ラティも今はそのテントの中で、仰向けで寝転がっていた。

 チェインは自分の爪を眺めていて、わずかな粗を見つけてはそれを埋めるように研いでいた。

 すると、テントの扉が開かれ、戦闘を終えたダークとディークが入ってきた。

「お、帰ったかダーク。お疲れ」

「あ、おかえりなさい。無事で何よりです」

 チェインとラティが声をかけると、ダークがチェインに向かって大きな牙を見せながら語りかけた。

「おう! 楽勝だったぜ!! それより腹減った!」

「だろうな。少し早いが食事にするか」

 チェインはそう言うと、買って来ていた食料を取り出した。

「あれ、レストランとかは?」

「ここの住人はほとんど自分で調理するらしい。そういうものはないんだとよ」

「まぁ、そりゃそうか」

 ダークは納得した様子で肉にかぶりついた。


「……ラティ、もう日が沈んじゃうけど、まだここにいて良いの?」

 ディークがラティに聞いた。

「はい。家族には、友達の家に泊まりに行くって言ってるので」

「え?」

 ダークが驚いた様子でラティを見る。

「それってつまり、俺たオイラちと一緒にここで泊まるってことか?」

「はい」

 ラティは笑顔で答えると、ダークたちは苦笑いを浮かべた。

「やんちゃだなぁ……。まぁ、ラティが良いなら大丈夫か」

「まったく。また襲われでもしたらどうするんだ……」

「あっ、それはないので大丈夫です」

「え?」

「あっ」


 ダークとチェインが揃ってラティの方を見た。ラティは明らかに動揺している。先ほどまでの落ち着きはなく、目線が泳いでいる。

「どうして分かるんだ? ……そういえば、さっきもあいつらのことを知っていそうな物言いだったな?」

 チェインが大きな体で小さいラティに詰め寄る。

「で、ですから……、今日あったから明日はないんじゃないか、って言いたかったんです」

「今日来なかったら明日来ていたのか?」

 チェインがラティに思いきり顔を近づける。その表情はまるで犯罪者を尋問するときのような顔だった。

「そうじゃなくって……、2日連続で来るなんてそうそうないですよ?」

 ラティは涙目になって言った。心なしか震えている。


「チェイン、ちょっと言いすぎ」

 ディークがラティの隣に立ち、チェインを見上げて言った。

「……分かったよ、俺が悪かった。とりあえず落ち着け」

 チェインがコップに入れた水をラティに差し出した。

「ありがとうございます……」

 水を受け取ったラティは一気に飲み干すと、「ふぅ」と息を吐いた。

「チェイン、あんな脅し方してると何にもしゃべってくれなくなるよー?」

 ディークが茶化すように言った。

「脅していたわけじゃなかったんだが……」

「まぁまぁ、隠し事をしてそうな相手は、油断させてついうっかり口を滑らせるんだよ。で、その後も気づいてないふりをしてさらに口を滑らせるんだ」

「さらっととんでもないこと言ってねぇか? ディーク。しかも本人の前で」

 ダークがチェインの体の影から顔を出して言った。

「ごめんな、ラティ。この中で一番まともなのはオイラみたいだ」

「いやそれは違う」「ダークも大概だろ」

 ディークとチェインが同時に突っ込んだ。

「ちょ!? 父ちゃんまで何言ってんだよー!!」

「今までのこと思い出してごらんよ。小鳥を脅かすために吹いた炎が山火事になったこととかあるでしょ?」

「それゆーなら、ディークだって国の王様をだまして大金を持ち逃げしたことだってあるじゃねーか!」

「……皆さんの旅のお話、気になりますね」

 ラティが小さく笑いながら言った。

「あ、聞きたい? それじゃ、何から話そっか?」

 ディークはこれまでのことを大まかに話し、ダークとチェインは自分の冒険譚を語った。

 そして、夜が更けてきたころに話は終わり、ディークたちは眠りについた。


 →→→→→


「なんと、敗走とは……」

「はい……。父親のドラゴンはラティを連れて逃走したため相手は子供2匹でしたが、破れてしまいました……」

「子供があれだと、父親もとんでもないですよ。どうするんですか!?」


「うーん……、仕方ないですねぇ」

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