1-4 路地裏の戦い

 店の前の道は相変わらず静かで、数匹の動物が通りを歩いているだけだった。

 チェインが店から姿を現すと、長い首を左右に振って周囲を確認した。

「いないな……」

「はぁー? どこ行ったんだよ……」

 ダークが声を上げたそのときだった。

「やめてくださいっ!! 離して!!」

「えっ!?」

 突然、悲鳴に近いラティの声が聞こえた。

「ラティ!?」

 ディークが真っ先に走りだし、店の裏に回り込んだ。ダークとチェインもそれに続く。


 ディークたちが店の裏に着くと、目つきの悪い3匹の動物がラティを取り囲んでいた。

 そのうちの1匹がディークたちを見ると。ギラリと笑みを浮かべた。

「やっと来てくれたか」

 その中のリーダーらしきその動物、黄色のゴリラはラティを掴みあげ、乱暴に放り投げた。

「きゃん!」

 さらに、後ろから現れた2匹の動物がディークたちを取り囲んだ。

「……何をしている?」

 チェインは周囲を睨みつつ聞いた。

「お前ら、旅をしてんだろ? それなら金や資源もたくさん持ってるんだろう? 全部置いてけ」

 ゴリラがそう言うと、周りの動物たちはケラケラと笑い始めた。


「事情は大体分かったが、なぜラティをさらった? ラティはこの国の住人だ」

「なーに、お前らを呼ぶためにわざわざ声を上げてもらったんだよ。それとも? 金が欲しいので来てください、って言ったら来てくれたのかぁ?」

 その瞬間、辺りが爆笑に包まれた。

「まぁ、そういう訳だ。全部置いていけばお前ら4匹は解放してやる。でなきゃ力強くでもらっていくぞ」


 数十もの動物の視線が集まる中、チェインたちは落ち着いていた。


 次の瞬間、強風とともにチェインたちの姿が消えた。

「ぐっ……。な、消えた……?」

「あっ、こっちだ!」

 チェインたちはいつの間にか、動物たちの輪の外に出ていて、チェインはラティを抱きかかえて立っていた。

「断る」

 チェインはそういうと背中を向け、表通りへ向かった。

「あっ、待ちやがれ!」

「おっと、まずはオイラを倒してから行きな」

 ダークがそう言って動物たちの前に立ち塞がった。あとディークも。

「邪魔だ、どきなあ!!」

 ゴリラがディークとダークに向かって両腕を振り降ろした。ディークは横に飛んで回避し、ダークは両腕で受け止めた。

「ダーク!! どうする!?」

「コイツと一騎打ちだあ!!」

「オッケー!!」


→→→→→


「大丈夫か? ラティ」

「はい……、なんとか」

 チェインとラティは先程の場所からかなり離れた場所に移動していた。

「すまない、俺の近くにいたせいで巻き込まれてしまったな」

「いえ、大丈夫です。でも、怖かったです。ところで、どうしてあそこを脱出できたんですか?」

「俺は飛べるからな。素早くラティとあの2匹を抱えて飛んで脱出したんだ」

「素早く……、それで投石係も反応できなかったんですね……」

「投石係?」

「あ、いえ、なんでもないです。それより、戦わずに逃げるんですね。意外です」

「ラティがいるからな……、万が一ラティを獣質に取られては俺たちも迂闊に動けない」

「そうですね、私のせいですみません」

「気にすることはない。それより、あいつらのこと知ってるのか?」

「いえ、まったく。それより、あの2匹は大丈夫なんですか?」

「……まぁ、あの程度の相手なら大丈夫だろう」


←←←←←


「まじかよこいつっ!? ぐあっ!!」

 ディークは小柄な身体を活かして、僅かな隙間を潜り抜け、隙を見て相手を殴り倒していた。

「なんだこのガキ……、くそぉ! ちょこまか動きやがって!」

「遅いよ、兄さんたち!」

 ディークが後ろに飛び退くと、左右から互いに襲いかかろうとしていた動物同士がぶつかりあい、その場に倒れた。

「さて、あとはキミだけかな?」

 ディークは目の前のウマを見つめて言った。

「ひ、ひん! なめるなっ!」

 ウマはそう叫ぶと地面を蹴り上げディークへと一気に詰め寄った。

 ウマがディークに掴みかかったその時、ディークは素早く後ろに回り込み、ウマの後頭部目掛けて飛び蹴りを繰り出した。


ゴスッ!!


「ブひ↑んっ!!」

 ウマは悲鳴を上げてその場に倒れた。

「さてと。ダーク、こっちは終わったよ」


 ディークがダークの方を見ると、まだゴリラと戦っていた。

「速いなディーク! よーし、気合入れるかぁ!!」

 ダークはそう吠えると、ゴリラの方へ一直線に突進して行った。

「ふんっ!」

 ゴリラは突進してくるダークに拳を放った。しかしそれは外側に弾かれてしまう。

「んお!?」

 ゴリラはバランスを崩して前に倒れ始める。ゴリラの懐に入ったダークはその場で飛び上がり、ゴリラの顎を目掛けて頭突きを放った。


ドガァ!


「ごはぁ!!」

 ゴリラの身体は宙に浮き、地面に倒れて動かなくなった。

「ぐ、くそっ。お前ら強いな……」

「へっ、オイラの父ちゃんはもっと強いぜ」

「……あー、さっきの黄色いドラゴンのことね」

 ダークが言って、ディークが捕捉した。

「まぁいい、俺たちの負けだ。すまなかった、もう帰っていいぞ」

 そう言ってゴリラは立ち上がり、仲間たちを担いでどこかに消えて行った。

「やーいやーい、オイラに勝ちたかったらもっと強いやつを連れて来い!」

 ダークが跳ねながら煽る中、ディークは怪訝そうな表情でゴリラの後ろ姿を見ていた。

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