1-3 猫の食べ物屋
「ここが食べ物屋さんです」
そこは大通りの外れにある小さな小屋だった。すでに何匹かが店に入っているようで、中からは話し声が聞こえていた。
店に入ると、そこには様々な種類の肉や野菜が置かれていた。
「いらっしゃい……、あらぁ〜」
1匹の猫がディーク達を見て声を上げた。その猫は手足が細くて背が高く、まるでモデルのような美しい容姿だった。
「今日は随分珍しいお客様がおいでになったわねぇ〜」
その猫は腰から生える長い尻尾を揺らしながら言った。
「どうも……」
ディーク達が軽く挨拶すると、ラティはその女性に駆け寄った。
「こんにちは! あの、旅の動物さんを案内しているんです!」
「ああ、そうなのぉ〜。それはご苦労様。そうだ、折角お会いできたのですから、少しお話ししないかしら?」
猫がカウンターから身を乗り出して言った。
「我々は良いですが、店のほうは良いんですか?」
「しばらくあの子たちに任せるわ。というわけで、店番よろしくねぇ〜」
「……うす」
店番を任されたクマが返事をすると、猫は軽やかな動きでカウンターを飛び越えた。
「ここで立ち話も嫌でしょう?こっちに休憩室があるからそこでどう? 本当は店員以外立ち入り禁止だけど、今回は特別よぉ〜」
「ありがとうございます」
チェイン達はお言葉に甘えて、店内の奥にある部屋へと入っていった。
「あなたたち、名前は何とおっしゃるのかしら?」
「チェインだ」
「オイラはダーク!」
「ボクはディーク」
「旅の動物達でしたわね。砂漠は暑かったでしょう?」
「もー暑すぎて死にそうだったぜ!!」
「ふふっ……、でも運が良いわねぇ〜。たまたまこの国にたどり着いたんですもの」
猫は棚の上にある木箱からいくつかの豆を取り出し、木皿の上に乗せていた。そしてそれを休憩室の中央にあるテーブルの上に置いた。
「はい、良かったらどうぞ。ただのおやつだけどね」
ディークが豆を5,6個ほど摘み、口の中に入れた。
「……うん、おいしい」
それに続いてダークとチェインも豆を食べ始める。
「ところで、あなたたちの旅の目的は何かしら? 色々思いつくけども……」
猫がひじをテーブルにつき、あごを手の甲に乗せ、ディークたちのほうを向いて聞いた。
「端的に言うと、仕事と修行のために旅をしている。仕事の都合上、どうしても世界各地を回らなければならない。修行というのは……、こいつらのことだ」
チェインがそう言うと、ディーク、ダークのほうへ目配せした。
「なるほどねぇ〜……。チェインさんはどのくらいお強いのかしら?」
「う、うーん……。どう言おうか……」
「ついうっかり国をまるごと消し飛ばしたことがあるよ!」
「ダーク!!」
口を挟んできたダークをチェインがキッと睨みつけると、はっとした様子で猫のほうを向き、さらに気まずそうに目をそらした。
「……今のは冗談だ、忘れてくれ」
「ふふっ……、かわいいわねぇ〜」
猫はクスッと笑いながら言った。
「チェインさんは真面目なドラゴンさんなんですね〜」
「たまに言われますね」
「それなら、溜まってるんじゃない?」
「……溜まってる?」
すると猫はチェインに顔を近づけ、チェインの頬に触れた。そして上目遣いでこう言った。
「1回だけ、ハメを外して、私と大人の一時を過ごさないかしら?」
数秒の間、辺りは壁にかけられた時計の針が動く音だけが響いた。
しばらく黙っていたチェインだが、自分の頬に触れていた猫の手を丁寧に払い、言った。
「悪いが、そういう趣味はない」
「あら〜、残念」
猫はそう言って身を引いた。
「そういえば、あなた達を案内していたっていうリスさんはどこに行ったのかしら?」
「あれ? そういえばいないね。どこに行ったんだろう……?」
ディークが辺りを見渡しても、部屋の中にラティの姿はなかった。
「すみません、少し様子を見てきます」
チェインは椅子から立ち上がり、店の出口へと向かった。
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