1-2 ハイエナの雑貨屋

「ここがこの国の市場になります」

 ラティに連れられてやってきたのは、様々な商店が並ぶ大通りだった。周りにはちらほらと動物たちの姿があった。

「あまりでっかいところじゃないんだな」

「砂漠の国にしては大きいところだろう」

 周りの動物たちはチェインたちの姿を見かけては、珍しそうな表情を浮かべていた。


 ラティがあるテントの前に立つと、チェインたちの方を振り返って言った。

「ここが雑貨屋さんです」

 そのテントの中の入ると、そこには所狭しと商品が置かれていた。奥にカウンターがあり、その隣に小さな窓がある。

 カウンターの上ではハイエナが仰向けになって寝ていた。


「ん? おおーー……、客か……」

 ハイエナはラティとディークたちを見ると、ゴロンと寝返りをうち、カウンターの奥へ落ちた。

「あっ!?」


ドシンッ!!


「…………」


 床に落ちた音が店内に響き、その後静寂が包み込む。


「あー、いてて……」

 やがてハイエナが起き上がり、頭をさすっていた。

「……大丈夫ですか?」

 ディークが心配そうに声をかける。

「ああーー……。大丈夫。こういうのは、慣れているからな」

「慣れてるって……」

「あー、それより。お前たち見ない顔だな。旅の動物か?」

「あ、はい! 私が案内してるんです!」

 ハイエナの問いに対しラティが答えた。

「あぁー…、そうか。それなら、さしずめ、旅に要る消耗品を探しに来たんだろーう?」

「あ、ああ。何か食料があれば助かるんだが」

「あー…、そんなのここにはねぇよ」

「いや、ないんかーい!!」

 ハイエナの言葉を聞いてダークが声をあげた。

「こら、ダーク。……しかし、我々が欲しいものといえば食料くらいしかないのだが」

「まあー……、焦るなって。ちょっと待ってなぁ……」

 ハイエナはそう言うと、のろりとした動きでテントの角にある戸棚へ向かった。

 そしてその戸棚を開けたとき、中に入っていた様々なものが一斉にハイエナの方へなだれ込んだ。


ガラガラガララ……。


 ディーク達はその様子を呆れた様子で見ていた。

「大丈夫か? あのハイエナ」

 ダークが不安気な表情で口を開く。

「ラティ。あの店主はいつもあんな感じなのか?」

「ああ…、まぁ、はい」

 ラティは苦笑いしながら言った。


 やがて道具の山の中からハイエナが顔を出した。

「あー、あったぞ。これを持ってけぇ」

 そう言ってハイエナはチェインに布で包まれた長い棒を渡した。

「これは……?」

「あぁー……、布から棒が見えてるだろぅ? そこから見えてるボタンを押してみなぁ」

 チェインは言われるまま、棒に付いているボタンを押した。その瞬間、棒をくるんでいた布が一気に膨らんだ。

「うおっ!?」


 チェインは驚き、持っていたものを手放した。それは棒と布を貼り合わせたような道具だった。ディークとダークも驚いた様子でその光景を見ていて、ラティはクスクス笑っていた。

 ハイエナは無言で落ちたものを拾い上げ、自分の上に被せるように持ってきた。

「あー…、これはこうやって持つと、日除けになるんだ。ここまで来るの、大変だっただろう? 日除けがあるだけでだいぶ楽になるはずだぁ」

 ハイエナはそう言いながら、チェインに傘を手渡した。


「ああ、ちなみに、さっきのボタンをもう一回押せば元に戻るぜ。そこの小さいのの分もあるぜ」

 ハイエナはディークやダークにも、先程のものと同じ、けれどやや小さいものも手渡した。

 ダークは早速ボタンを押すと、同じように勢いよくバサっと布が開いた。

「へぇー、こりゃ面白いや」


 ふと横を見ると、ディークがまたしても驚いた様子でダークの様子を見ていた。

「おいおい、もう2回目だぜ。慣れろよディーク」

「うるさいなぁ……」

 ディークはそう言って、渡されたもののボタンを押した。

 その瞬間にディークの身体がピクつき、その後に布が開いた。

「ええ? 開く前にビビってんの?」

「……なんか、身体がビビって来るんだ」

「まったく、しっかりしろよー」

 ディークとダークがじゃれ合う中、ラティがその様子を怪訝そうに見ていた。


 そんな中、チェインが口を開いた。

「……しかし、俺たちは修行中の身でもあります。このように楽をしていては身体が鈍ってしまう」

「あー……、そうなのかぁ。でも、こうして会えるものそうそうないはずだぁ。国を出るときに返してくれてもえぇから、国にいるときだけでも持っててくれねぇか?」

「……分かりました」

 ハイエナの言葉を聞き、チェインは了承した。


「あー…、そういえば、食料を欲しがっていたな。この先を右に行けば、食べ物を売っている店がある。そこで買えばいいと思うぜぇ」

「あ! 私が案内します!」

 ハイエナの言葉にラティがすぐさま反応した。

「それでは皆さん行きましょう!」

 ラティは元気良く言うと、チェインたちを先導して歩き出した。

「ああーー……、……えーっと、気をつけてな」

 ハイエナの言葉にディークが振り向いた。

 ハイエナはディークたち4匹に手を振り、再びカウンターの上で横になった。

「おいディーク! 行くぞー!」

「あっ、うん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る