クノイチINトロピカル因習アイランド

バイオヌートリア

南国に隠された秘密

私の名前は鞠花(マリカ)、コードネームはマリハナ。現代を生きる忍びだ。

我々の平時の仕事は警察が大っぴらにできない特殊捜査や囮捜査をメインとした秘匿部隊である……が、最近の依頼の多くは山手線で女子高生に化けての痴漢捜査のため、女性の方が多く在籍している。今日は珍しく大きな依頼があると聞いて飛んできた次第だ。

「日本産のスナッフフィルムの調査……ですか」

「あぁ、そうなんだよ。鞠花くん。昔からまことしやかに語られていたが、最近遂に本物が見つかった。」

そういって頭領は黒いハコを見せてきた。それは資料で見たことのあるVHSによく似ていた。

「しかし、問題もあってな……組織の手掛かりがフィルムにわずかに映る背景くらいしかない。撮影された場所と年代が特定できないため、警察が手を出せず、我々に依頼があったという次第だ。」

「解析班のレポートでは、候補地はすべて中川グループの南国リゾートがある島ですよ。とてもそんな凄惨な事件が起こるとは思いにくいですね。」

「逆だよ。旅行客が多い島であれば、宿泊以外は誰がいつどこを訪れたかを誤魔化しやすい。海水浴中に流されたことにすれば遺体があがらなくてもバレにくいだろう。スナッフフィルム撮影にうってつけというわけさ。」

「なるほど。」

「と、言うわけで明日から一ヶ月南国での調査をお願いするよ。」

……

これが二週間前のことである。現地で色々と調査をしているが、これと言ってまだ糸口がつかめていない。

この島は観光客が多いため聞き込みには困難しているのだ。変わったところと言えば島民には義手や義足などのけが人が多いことだろうか。

「経費で南国リゾートを満喫できてラッキーなんて思っていたけど、いい加減飽きてきたな。島は狭くて隅々まで歩き回っても聞き込みしてもこれといったものはないし……。」

調べていないと言ったら島から少し離れた小島位であるが、そこまで泳いでいくのは骨が折れる。

その時である。最近島で仲良くなった青年が声をかけてきた。

「鞠花ちゃん、今日は何するの?ダイビングとかするなら船出すよ。」

「東さん。またナンパしに来たの?頑張るねぇ。もう10回目だよ。」

島の居酒屋のお兄さんに気に入られてから、ほぼ毎日ナンパしに来るようになった。

「ん~、そうだなぁ。船出してくれるなら、離れ小島でもいかない?」

「ごめん、あの島は祭事で使う神聖な島だから島民以外は連れていけないんだ。それより、あっちのサンゴ礁に行かない?遠浅だからシュノーケリングでも十分楽しめるよ。」

またこれだ、かたくなに島のことについては教えてくれない。あの島が調査できれば事件解決につながるかもしれないのだが……。仕方ない、ここはクノイチの奥の手を使うか。

「島民じゃないと入れないなら、東さんと私が付き合ったら未来の島民ってことで渡れたりしないかな……?二人きりでイイコトしない?」

性欲にとらわれた男ほど扱いやすいものはない。昼間は見つかると面倒ということで彼のバイトが休みの明日の夜に向かうことになった。


ボートに揺られること10分。本島に比べると小さいが、祭事に使うというだけあって小屋や舞台などいろいろなものがあった。

その舞台に見覚えがあった。本部で見たスナッフフィルムに出ていた場所に似ているのだ。

「東さん、お祭りって具体的にどんなことをするの?」

「本島の方だと屋台が出たり歌ったり踊ったりって言う普通のお祭りかな。そんなに変わったことはないと思……ふ。」

「へぇ……本島では普通ねぇ。」

自白剤が効いてきた頃合いだ。後ろに回って東さんを地面に組み伏せて尋問を開始する。

「じゃあこっちの島ではどういう祭事が行われるの?」

「いけにえの……儀式だよ……。」

生贄の儀式ねぇ……。あのフィルムはその様子を記録したものだったのか?

「生贄の儀式について詳しく話してもらおうか。」

「村の……闇の歴史だ……」

そこで見聞きしたことはとても表には出せない話だった。


この島は歴史的にもいろんな国からの侵略を受けており、島を守るためにこの村の守り神となっている原生生物と契約し、一緒に戦ってもらっていたのだという。

原生生物の名前はリョーヅザル。両頭猿と書くらしい。日本では殺戮オランウータンとして有名になったあの猿の近縁種だそうだ。

両頭猿は脳が人間の倍ほどもあり、IQは推測値で300、生命力はゴキブリ並み、パワーはほぼゴリラ、全身毛深く眉毛はカモメのようにつながっているといった特徴がある。

好奇心がとても強く、武器の使い方を教えるとすぐに使いこなし、弓や火も恐れずに相手に向かって行き殲滅するほどのタフネスがあったそうだ。

「江戸後期のころまでは一緒に戦い、酒と肉を持ってもてなすことで良好な関係を続けていたとのことだ。」

事情が変わったのが江戸の終わり頃、ちょうど15代将軍に代わるころだという。

リョーヅザル様への供物を運ぶ際に人手が足りず若い女性を島に連れて行ってしまったことに起因する。それまで島の外には屈強な男しかいないと思っていたリョーヅザルが初めて若い女を知ったのである。

『次回から報酬として若い女を奉納することとする。』

ここから年に一人ずつ20歳前後の若い女性を貢ぎ続けていたというのだが、リョーヅザルは女性を鑑賞することは理解していても、性知識に薄かった……はずだったのだが、連れて行った生贄の一人にパリピ女子がおり、性行為を教えてしまったのだ。

パリピは酒が入ると性衝動を抑えられぬ。野生的でたくましいリョーヅザルでさえ発情するのがパリピである。

幸いだったのは人間とリョーヅザルの間で出来た子供の寿命は短く、成人に至るものは少なかったという。

ただ、稀にリョーヅザルの身体能力はそのままに、人間に交じって生活する者もあらわれた。

東京で警察官をしているものもいるというが、本人はリョーヅザルの子孫であることを知らない。

ただ、リョーヅザルにも弱点があり、記憶力がトコトン低いのだそうだ。第二次世界大戦を経て生贄を取っていた記憶をなくし、さらにリョーヅザルも大きく数を減らしたことで、昔ほど因習も強くはなかった。

「1970年ごろになると、たまたま島に流れ着いた写真集を見てグラビア写真を要求してくることになります。また、群れのボスが欠損フェチのリョーヅザルになったことにより。」

「欠損美女が必要になったというわけじゃ。」

いつの間にかそこにいたリョーヅザルと思われる男性が話しかけてきた。

「カンベエと申します。ここからは私が……。」

カンベエと名乗ったリョーヅザルは人間とのミックスではあるが、異常なる体力が受け継がれず頭脳だけが発達してだけのほぼ人間で100年ほどの記憶があるのだという。

「群れ長は戦時中に欠損フェチになり、欠損女子のグラビア写真を求めました。しかし、現代ではいざ知らず昔はそういったアイドル的なものはいませんでした。」

「ではどうやって欠損女子を……?」

「最初は島民で欠損したものからグラビアを募っていましたが、同じ女性ばかりでは島長が飽きてしまったのです。そこで私の妻の遠縁である中川リゾートに土地を提供し、本島をリゾートに改造してもらい、集まった女性に高額な報酬を渡して欠損美女を集めたのです。ただ……」

「ただ……?」

「欠損女子がなかなか集まらず、やむなく高額報酬で腕や足を切らせてくれる女性を集めることになりました。観光業で島がにぎわっても一人当たり一億近い報奨金を払っていると費用が足りませんでした。」

カンベエは声を低くしてしばらくおいてから切り出した。 

「そこでスナッフフィルムだったのです。海外とのパイプがある中川グループの弁護士の一人が、闇ルートで売りさばいてくれました。それによって新しい美女を作り上げたのです。」

自白剤の切れた東が話しに戻ってきた。

「島の秘密がバレてしまいましたか。高額報酬に撮影後の全身美容整形の提供やメンテナンス、医療費などの控除を含めて交渉すれば年に一人くらいは見つかるものです。」

「顔を隠せばフィルムに出てくれる女性って意外と多いんですよ。切断する直前までは演技してもらって、全身麻酔で切断しそこでフィルムを切る。それでもマニアは本物動画であるというだけで買うのです。勿論、女性は生きてこの島を出ているはずですよ。」

なんとあのデコトラで宣伝しているチョコミントでも募集しているそうだ。夜のお店でも足りない高額報酬を求める限界女性を利用するそうだ。

「本人納得済みのスナッフフィルムだと。それなら事件性は大きくないですね。闇ルートで売った以外は。」

「それもあと数年ですよ。群れ長は高齢で、あと数年で亡くなりますし、リョーヅザルもあと数匹です。人知れず絶滅するように誘導していく手はずになってます。」

この高額報酬、そして事件性の薄さ、そこで私は一つの提案をした。

「どうせならうちの組織で欠損美女を提供しましょうか?報酬は弾んでいただけるとお約束いただけるなら上層部と交渉してみましょう。」

そう、クノイチである。義手などを付ける技術は元々持っているし、怪我を負ったシノビ向けの義手忍具も開発しているからうってつけだ。

「ご提供いただけるのはありがたいのですが、本当によろしいのですか。」

「無論組織と協議を重ねた後になりますが、割とそういうの柔軟なので大丈夫だと思います。だた、一割ほど仲介費用として私個人に振り込んでいただき、残りは組織へと振り込んでいただけるならですが。」

「それは願ってもないことです。」

これにて南国での調査は終了し、調査報告と交渉のために私は東京に帰ることになった。

……

「以上が南国での調査結果です。現地のリョーヅザルの協力でフィルムに映っていた女性が70代で亡くなるまで存命であったことも確認しています。」

「ご苦労であった。我々も資金難だから、その話検討しよう。変装や演技の訓練にもなるし、島内で消費され外界に出ないのであれば秘匿性もある程度は確保できるだろう。」

よっしゃ、不労所得ゲット!


それから数か月ののち、クノイチ美女写真集はリョーヅザルに奉納されることになった。

ちなみに、鞠花はオフショット集として顔を隠した更衣室の写真をひっそりとコミケで売りさばいたところを頭領に見つかり、ついでに裏金もばれてしまったのだった。

「頭領~、反省してますから助けてくださ~い。」

「お前の好きなオフショットをみんなに撮影してもらえ。」

「いくら私がメイドインアビ〇すきだからって、花のJKを裸吊りはマズいですよ。頭領~。」

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